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第186話 カオスドラゴンとの戦い(前編)

 カオスドラゴンとの戦いの火蓋が切られた瞬間、零夜率いるブレイブエイトは一斉に地を蹴り、猛然と突き進む。カオスドラゴンは禁忌モンスターの中でも頂点に君臨する存在。その巨躯と禍々しいオーラは、場を圧する威圧感を放ち、零夜たち精鋭であっても一筋縄ではいかない相手だ。


「カオスドラゴンは手強いが、奴の弱点は爪、頭の角、尻尾だ! それを攻撃すれば勝機がある筈だ!」

「了解です! 弱点を狙って攻撃開始!」

「「「おう!」」」


 ヤツフサの鋭い指示に、零夜は鋭い目つきで頷き、仲間に号令をかける。倫子たちも気合いを込めた叫び声で応じ、瞬時に三つのグループに分かれて動き出す。

 零夜、倫子、エヴァ、ティアマトの四人は頭の角を狙う。日和、マツリ、エイリーン、トワの四人は鋭い爪に照準を定める。そして、ベル、メイル、カルアの三人は巨大な尻尾を攻撃対象に据えた。


「奴らはカオスドラゴンの弱点を的確に狙ってるわ。ここは強化魔術で援護を!」

「お任せください!」


 ベティが戦場の緊迫感を肌で感じ取り、メディに鋭く指示を飛ばす。メディが魔術の詠唱を始めようとしたその刹那、アイリンとサヤカが稲妻のような速さで奇襲を仕掛けてきた。


「させるか! はっ!」  

「ぐほっ!」  

「メディ!」


 サヤカの放ったライダーキックがメディの顔面に炸裂。衝撃でメディは宙を舞い、地面をゴロゴロと転がりながら倒れ、仰向けのまま気を失ってしまう。土埃が舞い上がり、戦場の空気が一瞬凍りついた。


「アンタ……よくもメディを!」  

「悪いが、強化されたらこっちの展開がまずいんだよ。アンタも邪魔するなら容赦しねーよ!」  

「こいつ……!」


 サヤカの挑発的な言葉に、ベティは怒りで顔を紅潮させ、拳を握りしめながら戦闘態勢に入る。彼女は挑発に弱い性格で、つい熱くなってしまう癖がある。それが原因で仲間を危険にさらすこともあり、そんな時はメディのお仕置きハンマーが待っているのだが、今はそんな余裕はない。


「アンタ、気に食わないから倒してやるわ! 覚悟しなさい!」

「それはこっちのセリフだ!」


 ベティとサヤカの激しい殴り合いが始まった。拳と拳がぶつかり合い、火花のような衝撃音が戦場に響く。サヤカの格闘技の技量がわずかに上回る中、ベティは気迫で食らいつくが、どこまで耐えられるかが勝負の鍵だ。


「援護攻撃が止まった! 今だ、攻撃を仕掛けるぞ!」


 零夜の鋭い号令に、倫子たちが一斉に頷く。だがその瞬間、カオスドラゴンが咆哮を上げ、口から灼熱の炎のブレスを吐き出した。紅蓮の炎が戦場を焼き尽くさんばかりに迫る中、零夜たちは鋭いサイドステップで回避。反応が一瞬遅れていたら、全員が大ダメージを負っていただろう。


「あのブレスが厄介ね。ここは私が!」

「エヴァ、無理はするなよ!」

「大丈夫!」


 零夜の忠告に、エヴァは自信たっぷりにウインクで応じ、カオスドラゴンの足元へと疾走する。彼女の狙いは、自身の怪力でドラゴンを持ち上げ、地面に叩きつけること。だが、カオスドラゴンはその動きを察知し、巨体を揺らしエヴァへ向けてタックルを繰り出した。


「しまっ……キャッ!」  

「エヴァ!」


 轟音とともにエヴァが吹き飛ばされる。しかし、零夜が電光石火の速さで駆けつけ、宙を舞うエヴァを両腕で受け止めた。反応がわずかでも遅ければ、エヴァは地面に叩きつけられていただろう。


「間に合った……」

「ありがとう、零夜!」


 零夜がエヴァの無事を確認し、ほっと息をついた瞬間、エヴァはムギュッと彼に抱きついた。愛する人に助けられた喜びで、彼女の尻尾がブンブンと勢いよく揺れる。だがその時、零夜の脳裏に閃きが走る。


「エヴァ。悪いがお尻のポケットに手を入れさせてくれないか?」

「別に良いけど、何するの?」

「俺に考えがある」


 エヴァは首を傾げつつも、零夜の提案に頷く。零夜がエヴァのジーンズの尻ポケットに手を差し入れると、突然、頭の中に鮮烈なアイデアが閃いた。


「このアイデアならイケる! エヴァ、強烈な風を周囲に起こしてくれ!」

「風? 分かった!」


 エヴァは零夜の指示に応じ、自身の能力で周囲に猛烈な風を巻き起こす。風は瞬く間に勢いを増し、轟音とともに巨大な竜巻へと進化した。


「竜巻へと進化しました!」

「一体何をする気でしょうか?」


 カルアたちが驚愕の表情でその光景を見つめる中、竜巻は不気味に黒く染まり始める。零夜が自らの闇の魔術を注ぎ込んだ結果、竜巻は漆黒の渦と化していた。


「闇の竜巻『ブラックハリケーン』ね。でも、カオスドラゴンは闇属性だから効果が薄いんじゃない?」

「零夜君は闇属性だからね……」


 ティアマトと倫子が不安げな表情を浮かべる中、黒い竜巻から突如ハートの形が次々と飛び出し始めた。攻撃にハートが現れるのはエヴァの愛の証。零夜への強い想いが、竜巻に込められているのだ。だが、この光景に日和たちは顔を青ざめさせ、嫌な予感が的中したことを悟る。


「こ、これはまずいんじゃ……」

「絶対に嫌な予感しかしないんだけど……」

「その証拠に……ほら」

「「「うわ……」」」


 メイルが指差す先では、倫子が俯き、怒りでワナワナと震えていた。彼女の背後には死神の幻影が浮かび、近づく者を容赦なく切り裂くような殺気が漂っている。


「行くぞ、エヴァ!」

「ええ!」


 零夜とエヴァは黒い竜巻を身に纏い、カオスドラゴンへと突進。ドラゴンも負けじと強烈なタックルで迎え撃つが、竜巻の勢いはそれを圧倒する。


「「カオスハリケーン!」」


 二人の叫びとともに、漆黒のハリケーンがカオスドラゴンを直撃。巨体が弾き飛ばされ、地面を削りながら滑り、轟音とともに倒れ込む。起き上がるには時間がかかるだろう。


「今の内に攻撃だ!」


 マツリの号令で仲間たちが一斉に動き出す。カオスドラゴンに次々と攻撃を浴びせる中、ベルのロングアックスが唸りを上げ、尻尾に強烈な一撃を叩き込んだ。結合部が崩壊し、尻尾は地面にドスンと落ちる。


「尻尾結合崩壊成功!」

「残るは爪と角。でも、怒りで活性化するから要注意よ!」


 ベルの報告を受けたトワが鋭く指示を飛ばす。仲間たちは一斉に頷き、攻撃の手を緩めない。零夜とエヴァは竜巻を解除し、地面に着地。エヴァは零夜に抱きついたまま、笑顔を浮かべる。


「ふう……合体技完了! ありがと」 

「どういたしまして……あ」


 エヴァの笑顔に零夜も笑顔で返すが、背後に感じる殺気にハッと振り返る。そこには激怒状態の倫子が立ち、ズカズカと彼に迫ってくる。


「零夜君……分かっているやろな。次はウチがやるで!」

「い、いきなりは……うわっ!」


 倫子は零夜の手を力強く引っ張り、カオスドラゴンへと突き進む。エヴァとの合体技に嫉妬し、自分も零夜と共闘したいという思いが爆発していた。


「やり過ぎたかな?」


 エヴァは舌を出してウインクしながら、満足げに笑う。零夜との合体技を最初に成功させた喜びが、彼女の心を満たしていた。


「合体技は良かったが、零夜の恋愛行動は前途多難だな……」


 観客席から戦いを見守るヤツフサは、呆れたようにため息をつく。合体技の威力は申し分ないが、零夜の恋愛の鈍感さにはどうにも頭を悩ませていた。

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