カオスドラゴンはトワたちの執拗な集中攻撃を浴び、ついに重々しく立ち上がった。尻尾を斬り落とされた怒りがその巨体を駆け巡り、辺り一面を震撼させるすさまじい咆哮が轟いた。地面が震え、大気がビリビリと振動するほどの猛威だった。
「怒りで活性化したか……こうなると大型モンスターを召喚するべきです!」
「となると……ギガレックス!」
零夜の鋭いアドバイスに、倫子は真剣な眼差しで右腕を天に掲げる。バングルから眩いスピリットが迸り、瞬く間に具現化。巨大なギガレックスが轟音とともに地面に降臨し、その咆哮はカオスドラゴンに引けを取らない迫力で戦場を圧した。
「凄い咆哮! さすがは恐竜族のモンスターね……」
倫子はギガレックスの咆哮に冷や汗を浮かべつつ、すぐに気を取り直し、鋭い眼光でその背に飛び乗る。しかも、零夜をぐいっと抱き寄せながらだ。
「何故、俺を抱き寄せる必要があるのですか?」
「だって、零夜君がエヴァを抱き寄せたでしょ? だから私も」
「でしょうね……」
零夜が呆れ半分で観念した瞬間、ギガレックスが雷のようなスピードでカオスドラゴンに突進した。だが、カオスドラゴンは巨大な翼を広げ、轟々と空を舞い上がり、軽やかに攻撃を回避してしまう。
「やっぱり空中なら空中の敵をモンスターを用意しないとね! リザードライダー、ペガサス、ウイングユニコーン、ドラゴン、シルバーファルコン、グリフォン、召喚!」
倫子は瞬時に戦術を切り替え、バングルから次々とスピリットを解き放つ。リザードライダー、ペガサス、ウイングユニコーン、十匹のドラゴン、シルバーファルコン、グリフォンが一斉に召喚され、まるで嵐のような勢いでカオスドラゴンに襲い掛かった。
「空中での戦いなら、俺たちが適任! 一気に攻めればこっちの物だ!」
エルバスはワイバーンに跨り、鋭い槍を構えてカオスドラゴンに突進する。この一撃でダメージを与えれば、戦局を有利に進められると確信していた。
だが、カオスドラゴンは咆哮とともに強烈なタックルを繰り出し、ドラゴンたちを次々と蹴散らす。多くのモンスターがスピリットとなってバングルに還り、残ったのはペガサス、ウイングユニコーン、三匹のドラゴン、リザードライダー、シルバーファルコンだけだった。
「姐さん、奴は強すぎます! 俺たちが相手になっても半端じゃないです!」
「モンスターたちが蹴散らされるとは……半端じゃないみたいね……」
エルバスからの報告を聞いた倫子は冷や汗を流しながら、険しい表情でカオスドラゴンを睨む。この敵は尋常ではない力を持ち、油断すれば全滅もあり得る。まさに絶体絶命の状況だ。
その時、零夜の目に閃くものがあった。彼は倫子に視線を向け、決然と口を開く。
「俺に考えがあります! 倫子さん、ウイングユニコーンを貸してもらえませんか?」
「ウイングユニコーン? 別にええけど、何に使うのん?」
倫子の声には疑問と不安が滲む。カオスドラゴンを相手にウイングユニコーンを使うのは空中戦で有利かもしれないが、突進力では敵に及ばず、逆に弾き飛ばされる危険もある。ドラゴンで対抗する方が無難ではないのか? 倫子の頭にそんな考えがよぎる。
「まあ、見てください。奴にダメージを与える効果的な方法を思いつきましたので」
零夜は不敵な笑みを浮かべると、ウイングユニコーンがその意を汲み取り、瞬時に空を切り裂いて接近してきた。零夜の言葉を盗み聞きしていたかのように、完璧なタイミングで現れたのだ。
「ウイングユニコーン! アンタの力、借りてもらうぜ!」
零夜の宣言に、ウイングユニコーンは力強く頷き、彼を背に乗せる。次の瞬間、風を切り裂きながらカオスドラゴンへと突き進んだ。
「ウイングユニコーンに乗って、単独で立ち向かおうとしているわ!」
「いくら何でも無謀すぎるぞ!」
「止めてください!」
「零夜さん、無謀過ぎます!」
ベルたちの叫び声が戦場に響く。単独行動はあまりにも危険だ。下手をすれば死が待っている。それでも零夜の決意は揺らがない。
(誰が何と言おうとも、俺はこの作戦を実行する! 奴を倒すにはこれしかない!)
心の中で固く決意した零夜は、左手に村雨を具現化させる。柄を握り締めると、刀身に水のオーラが渦巻き、青白い輝きを放ち始めた。
「この一撃で破壊する!
村雨が横一閃に振り抜かれると、刀身から迸る水の波動が鋭い斬撃となって飛び出した。その一撃は悪を断つ覚悟を宿し、カオスドラゴンの角に直撃。結合崩壊を引き起こし、角は粉々に砕け散り、地面に落下した。
「カオスドラゴンの角が破壊された!」
「坊ちゃまはそれを狙っていたのですね!」
「す、凄すぎるわね……」
「流石は零夜だぜ!」
エヴァたちの驚愕の声が響く中、角を失ったカオスドラゴンは激痛に悶え、地面に墜落。衝撃で大地が揺れ、エヴァたちはバランスを崩しそうになる。
「凄い揺れだったわね。今の内に!」
「「「おう!」」」
ベルの号令とともに、仲間たちは一斉にカオスドラゴンへ攻撃を再開する。敵が倒れている今こそ最大のチャンスだ。零夜はウイングユニコーンから降り立つと、倫子が駆け寄ってきた。
「零夜君!」
「倫子さん! いだっ!」
倫子は零夜に飛びつくや否や、彼の額にデコピンを食らわせる。無茶な行動にヒヤヒヤさせられた怒りと心配が、彼女の行動に表れていた。
「アホ! いくら何でも無茶にも程があるで! アンタは皆を守る為に戦うのは良いけど、一人で背負うのは止めてくれへん? ウチは零夜君が傷つくところ……見たくない……」
倫子は涙目で零夜を叱りつけ、感情が溢れてヒックヒックと嗚咽を漏らす。最愛の人が傷つき、倒れる姿を見るのが何よりも辛いのだ。零夜はそんな倫子をそっと抱き寄せ、優しく頭を撫でた。
「すいません、倫子さん……無茶をしてしまって……」
「もう一人で突っ走ろうとしないで……ウチらはチームなんやから……」
倫子は零夜にしがみつき、涙を流し続ける。恐怖と安堵が入り混じる彼女の心は、まだ落ち着くには時間がかかりそうだ。
その時、カオスドラゴンが再び立ち上がり、活性化の咆哮を轟かせる。角、尻尾、爪は全て結合崩壊し、体力もわずか。決着の時は近い。
「カオスドラゴンはまだ抵抗する気か……倫子さん、ここは二人での合体技で終わらせましょう。あなたの力が必要です」
「うん……ウチらの力で終わらせんと! カオスドラゴンを野放しにしない為にも!」
倫子は涙を拭い、零夜から離れると戦闘態勢に切り替える。その瞳は揺るぎない決意に燃え、目の前の敵を倒す覚悟に満ちていた。
カオスドラゴンとの戦いはついに終盤へ。果たして、仲間たちの絆と力は、この強大な敵を打ち倒せるのか――。