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第189話 デスマッチの戦いへ

 零夜たちは鋭い鉄の棘が光るスティールケージに囲まれたリングを前に、驚きの表情で息を呑んでいた。冷や汗が頬を伝い、真剣な眼差しがリングを捉える。

 こんな場所でアメリカのWBRワールドバトルリングによる「バトルウォーズ」のような死闘を繰り広げるなんて、誰も予想していなかった。しかし、Aブロック基地を壊滅させるためには、ベティたちとの戦いに挑む以外に道はない。


「まさかこんな場所でブラッドファイトをやるなんて……ここは五人の代表者で戦う必要があるわ」

「ベルの言う通りだ。さて、誰を出すか……」  


 ベルの声は冷静だが、その瞳には覚悟が宿っていた。 それに零夜は頷きながら、頭の中でメンバーを選ぶシミュレーションを始める。  

 ブラッドファイトはバトルウォーズと同じく、ルール無用のノーDQマッチだ。反則なし、問答無用のサバイバル戦。武器の使用はもちろん、大技や卑劣な手段、更には魔術なども許される。勝敗は、どれだけ相手を叩きのめせるかにかかっている。


「私は出るわ! あいつらをこれ以上野放しになんてさせないし、復讐を終わらせるまでは戦い続けるから!」  


 アイリンが勢いよく手を挙げ、リングへ向かう決意を宣言した。彼女の声には、裏切られた因縁の敵への怒りが込められている。引く理由など、彼女には存在しない。  


「アイリンは確定だな。残りは四人だが……」  


 零夜が次のメンバーを選ぼうとしたその時、サヤカが一歩前に出た。彼女の目は闘志に燃え、すでに戦闘モード全開だ。  


「私も戦う。アイリンが頑張るなら、私だって負けられない!」  

「サヤカも確定か……ん?」  


 サヤカの参戦が決まった瞬間、零夜のバングルから眩い光が放たれる。光はスピリットとなり、やがてアカネの姿に変わった。彼女は軽やかに地面に着地し、鋭い眼光で周囲を見据える。  


「アカネ! その様子だと戦う覚悟はあるのか?」  

「ああ。アタイにはあいつらに借りがあんだ。ベティとメディに仲間を殺された恨み、絶対に晴らしてやる!」  


 アカネは拳を打ち合わせ、ゴリゴリと音を立てながら参戦を表明。彼女の声には、仲間を殺された復讐の炎が宿っていた。因縁の敵であるベティとメディを倒すまで、彼女の怒りは収まらない。  


「ならアタイも行くぜ! こんな戦い、滅多に味わえねえ。やるからには全力だ!」  


 マツリがニヤリと笑いながら名乗りを上げる。彼女の目はバトルジャンキー特有の興奮で輝いている。こうなると止められる事は不可能だ。


(マツリらしいな……仕方ないよな)  


 零夜は心の中で苦笑しつつ、彼女の参戦を認めた。残りはあと一人。だが、ここで空気が重くなる。誰もがブラッドファイトの過酷さを理解しており、立候補する者はいなかった。  


「私は絶対無理! 前、痛い目見たんだから!」  

「私もパス!」  


 倫子と日和は即座に拒否。アイドルとタレントモデルとして活躍する二人にとって、顔や体に傷がつくようなデスマッチは論外だ。  


「私もちょっと無理かしら……」  

「私もね……」  

「足手まといになりそうだから、遠慮します……」  

「私もこんな戦いは耐えられません……」  


 ベル、トワ、エイリーン、カルアも苦笑いを浮かべながら辞退。彼女たちは戦闘経験はあるものの、ノーDQの血みどろの戦いには不慣れだ。適性が低いと、かえって仲間を危険に晒す可能性もある。  


「私はいつでも行けるわ。こういう戦いには慣れてる。」  

「私も大丈夫です! マジックで敵を倒しに向かいます!」  


 エヴァとメイルは対照的に、自信満々に臨戦態勢をアピール。彼女たちの目は、どんな戦いでも怯まない覚悟で輝いている。  


「となると、俺、エヴァ、メイルさんか。ここは……」  


 零夜が三人の中から最後のメンバーを選ぼうとしたその時、ティアマトが静かに前に進み出た。彼女は零夜の手を握り、力強い視線を向ける。  


「ここは私が行くよ。この戦い、面白そうだし、最近出番少なかったからね。それに、こういう戦いは慣れてるし、返り討ちにする覚悟はできてるから!」  


 ティアマトの口元には自信に満ちた笑みが浮かぶ。ドラゴン族の中でも最強クラスの彼女は、どんな敵も叩き潰す実力を持つ。そんな彼女が加われば、チームはまさに百人力だ。  


「よし、メンバーはこれで決まりだ。戦いは何が起こるか分からない。気を引き締めて挑め!」  

「「「おう!」」」  


 零夜の号令に、アイリン、サヤカ、アカネ、マツリ、ティアマトの五人が力強く応える。彼女たちの声は、コロシアム全体に響き渡った。  

 ブラッドファイトは、想像以上に過酷な戦いになるだろう。血と汗のダメージが待っているが、相手が悪鬼の戦士である以上、立ち向かうしかない。  


「では、こちらも選手を用意しました。出てきなさい!」  


 メディが鋭く後ろを振り向き、リングの入場口を指差す。重い足音とともに、三人の女性が姿を現した。堂々とした歩みでリングに近づく彼女たちは、一目でプロレスラーと分かる威圧感を放っている。だが、その種族は異様だ――ゴブリンレディー、竜人族、オーガ女性。  


「紹介するわ。ゴブリンレディーのラテ。素早い攻撃が得意よ!」  

「おうよ! 誰が相手であろうともぶっ潰してやるぜ!」  


 ラテは腕を鳴らし、悪辣な笑みを浮かべる。彼女の衣装はスケ番風のセーラー服にロングスカートという、どこか時代錯誤なスタイルだ。  


「まるで昭和の不良だな。どこの時代から来たんだ?」

「うるせえ! 黙ってろ!」


 観客席にいるヤツフサが呆れたように呟くと、ラテはカッと顔を赤らめ、恥ずかしさから声を荒げる。服装をバカにされたのは想定外で、恥ずかしさで赤面するのも無理はない。


「竜人族のカンナ。ダークドラゴンの戦士です!」  

「さあ、たっぷり遊ばせてもらいまひょか?」  


 竜人族のカンナは一礼するが、その笑みには邪悪な企みが滲む。彼女の衣装は半袖のミニスカ和服。伝統とモダンが融合した動きやすいデザインだ。  


「そして、オーガ族のキアナ。レッドオーガの戦士!」  

「俺はただ暴れるんじゃねえ。本気でぶっ壊すぜ!」  


 筋肉質なキアナは、マツリやアカネと同じくバトルジャンキーの気質を持つ。短めのチューブトップと青いボクシングトランクスという、シンプルかつ実戦的な衣装が彼女の野性を際立たせる。  


「それと、金網には仕掛けがあります」  

「仕掛け……まさか!?」  


 メディの言葉に、零夜の目が鋭く光る。彼は即座に金網の異変に気付いた。バチバチと火花を散らす電流が、金網全体を覆っている。触れれば強烈な爆発が起こる仕組みだ。  


「電流爆破だと!?」  

「その通り。デスマッチならこれくらいは必要です。ブラッドファイトは甘い戦いじゃありませんので。」  


 零夜がメディを睨みつけ、指を突きつけて問う。彼女は不敵な笑みを浮かべ、悠然と答えた。  

 電流爆破は、日本のプロレスで悪名高い試合形式だ。電流爆破バット、爆破ボード、有刺鉄線爆破ロープ、そして邪道ミサイルといった危険なアイテムが登場する。今回のブラッドファイトでも、電流が流れる金網が使用されるため、ただの血まみれでは済まない。爆発の衝撃で戦闘不能に陥る可能性すらあるのだ。  


「これで準備は整ったわ! さあ、始めましょう! 最高のデスマッチを!」  


 ベティの宣言が響き、コロシアム全体がバチバチと緊迫感に包まれる。電流の唸り、いつの間にか来ている観客のざわめき、そして戦士たちの荒々しい息遣い。五対五の壮絶なデスマッチが、今、幕を開ける。  

 果たして、生き残るのはどちらのチームか――血と電流の戦場で、運命が決まる。

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