零夜たちは鋭い鉄の棘が光るスティールケージに囲まれたリングを前に、驚きの表情で息を呑んでいた。冷や汗が頬を伝い、真剣な眼差しがリングを捉える。
こんな場所でアメリカの
「まさかこんな場所でブラッドファイトをやるなんて……ここは五人の代表者で戦う必要があるわ」
「ベルの言う通りだ。さて、誰を出すか……」
ベルの声は冷静だが、その瞳には覚悟が宿っていた。 それに零夜は頷きながら、頭の中でメンバーを選ぶシミュレーションを始める。
ブラッドファイトはバトルウォーズと同じく、ルール無用のノーDQマッチだ。反則なし、問答無用のサバイバル戦。武器の使用はもちろん、大技や卑劣な手段、更には魔術なども許される。勝敗は、どれだけ相手を叩きのめせるかにかかっている。
「私は出るわ! あいつらをこれ以上野放しになんてさせないし、復讐を終わらせるまでは戦い続けるから!」
アイリンが勢いよく手を挙げ、リングへ向かう決意を宣言した。彼女の声には、裏切られた因縁の敵への怒りが込められている。引く理由など、彼女には存在しない。
「アイリンは確定だな。残りは四人だが……」
零夜が次のメンバーを選ぼうとしたその時、サヤカが一歩前に出た。彼女の目は闘志に燃え、すでに戦闘モード全開だ。
「私も戦う。アイリンが頑張るなら、私だって負けられない!」
「サヤカも確定か……ん?」
サヤカの参戦が決まった瞬間、零夜のバングルから眩い光が放たれる。光はスピリットとなり、やがてアカネの姿に変わった。彼女は軽やかに地面に着地し、鋭い眼光で周囲を見据える。
「アカネ! その様子だと戦う覚悟はあるのか?」
「ああ。アタイにはあいつらに借りがあんだ。ベティとメディに仲間を殺された恨み、絶対に晴らしてやる!」
アカネは拳を打ち合わせ、ゴリゴリと音を立てながら参戦を表明。彼女の声には、仲間を殺された復讐の炎が宿っていた。因縁の敵であるベティとメディを倒すまで、彼女の怒りは収まらない。
「ならアタイも行くぜ! こんな戦い、滅多に味わえねえ。やるからには全力だ!」
マツリがニヤリと笑いながら名乗りを上げる。彼女の目はバトルジャンキー特有の興奮で輝いている。こうなると止められる事は不可能だ。
(マツリらしいな……仕方ないよな)
零夜は心の中で苦笑しつつ、彼女の参戦を認めた。残りはあと一人。だが、ここで空気が重くなる。誰もがブラッドファイトの過酷さを理解しており、立候補する者はいなかった。
「私は絶対無理! 前、痛い目見たんだから!」
「私もパス!」
倫子と日和は即座に拒否。アイドルとタレントモデルとして活躍する二人にとって、顔や体に傷がつくようなデスマッチは論外だ。
「私もちょっと無理かしら……」
「私もね……」
「足手まといになりそうだから、遠慮します……」
「私もこんな戦いは耐えられません……」
ベル、トワ、エイリーン、カルアも苦笑いを浮かべながら辞退。彼女たちは戦闘経験はあるものの、ノーDQの血みどろの戦いには不慣れだ。適性が低いと、かえって仲間を危険に晒す可能性もある。
「私はいつでも行けるわ。こういう戦いには慣れてる。」
「私も大丈夫です! マジックで敵を倒しに向かいます!」
エヴァとメイルは対照的に、自信満々に臨戦態勢をアピール。彼女たちの目は、どんな戦いでも怯まない覚悟で輝いている。
「となると、俺、エヴァ、メイルさんか。ここは……」
零夜が三人の中から最後のメンバーを選ぼうとしたその時、ティアマトが静かに前に進み出た。彼女は零夜の手を握り、力強い視線を向ける。
「ここは私が行くよ。この戦い、面白そうだし、最近出番少なかったからね。それに、こういう戦いは慣れてるし、返り討ちにする覚悟はできてるから!」
ティアマトの口元には自信に満ちた笑みが浮かぶ。ドラゴン族の中でも最強クラスの彼女は、どんな敵も叩き潰す実力を持つ。そんな彼女が加われば、チームはまさに百人力だ。
「よし、メンバーはこれで決まりだ。戦いは何が起こるか分からない。気を引き締めて挑め!」
「「「おう!」」」
零夜の号令に、アイリン、サヤカ、アカネ、マツリ、ティアマトの五人が力強く応える。彼女たちの声は、コロシアム全体に響き渡った。
ブラッドファイトは、想像以上に過酷な戦いになるだろう。血と汗のダメージが待っているが、相手が悪鬼の戦士である以上、立ち向かうしかない。
「では、こちらも選手を用意しました。出てきなさい!」
メディが鋭く後ろを振り向き、リングの入場口を指差す。重い足音とともに、三人の女性が姿を現した。堂々とした歩みでリングに近づく彼女たちは、一目でプロレスラーと分かる威圧感を放っている。だが、その種族は異様だ――ゴブリンレディー、竜人族、オーガ女性。
「紹介するわ。ゴブリンレディーのラテ。素早い攻撃が得意よ!」
「おうよ! 誰が相手であろうともぶっ潰してやるぜ!」
ラテは腕を鳴らし、悪辣な笑みを浮かべる。彼女の衣装はスケ番風のセーラー服にロングスカートという、どこか時代錯誤なスタイルだ。
「まるで昭和の不良だな。どこの時代から来たんだ?」
「うるせえ! 黙ってろ!」
観客席にいるヤツフサが呆れたように呟くと、ラテはカッと顔を赤らめ、恥ずかしさから声を荒げる。服装をバカにされたのは想定外で、恥ずかしさで赤面するのも無理はない。
「竜人族のカンナ。ダークドラゴンの戦士です!」
「さあ、たっぷり遊ばせてもらいまひょか?」
竜人族のカンナは一礼するが、その笑みには邪悪な企みが滲む。彼女の衣装は半袖のミニスカ和服。伝統とモダンが融合した動きやすいデザインだ。
「そして、オーガ族のキアナ。レッドオーガの戦士!」
「俺はただ暴れるんじゃねえ。本気でぶっ壊すぜ!」
筋肉質なキアナは、マツリやアカネと同じくバトルジャンキーの気質を持つ。短めのチューブトップと青いボクシングトランクスという、シンプルかつ実戦的な衣装が彼女の野性を際立たせる。
「それと、金網には仕掛けがあります」
「仕掛け……まさか!?」
メディの言葉に、零夜の目が鋭く光る。彼は即座に金網の異変に気付いた。バチバチと火花を散らす電流が、金網全体を覆っている。触れれば強烈な爆発が起こる仕組みだ。
「電流爆破だと!?」
「その通り。デスマッチならこれくらいは必要です。ブラッドファイトは甘い戦いじゃありませんので。」
零夜がメディを睨みつけ、指を突きつけて問う。彼女は不敵な笑みを浮かべ、悠然と答えた。
電流爆破は、日本のプロレスで悪名高い試合形式だ。電流爆破バット、爆破ボード、有刺鉄線爆破ロープ、そして邪道ミサイルといった危険なアイテムが登場する。今回のブラッドファイトでも、電流が流れる金網が使用されるため、ただの血まみれでは済まない。爆発の衝撃で戦闘不能に陥る可能性すらあるのだ。
「これで準備は整ったわ! さあ、始めましょう! 最高のデスマッチを!」
ベティの宣言が響き、コロシアム全体がバチバチと緊迫感に包まれる。電流の唸り、いつの間にか来ている観客のざわめき、そして戦士たちの荒々しい息遣い。五対五の壮絶なデスマッチが、今、幕を開ける。
果たして、生き残るのはどちらのチームか――血と電流の戦場で、運命が決まる。