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第190話 ブラッドファイト(前編)

 ランドコロシアムは、熱狂の渦に飲み込まれていた。いつの間にか集まった無数の観客が、リングを囲み、これから始まる壮絶な戦いに期待を膨らませていた。アイリン率いる正義の戦士団「ブレイブエイト」と、ベティとメディが率いる凶悪な「悪鬼軍」によるブラッドファイト。この試合は、単なるデスマッチを遥かに超えた、命を賭けた壮絶な戦いになると誰もが予感していた。

 突如、リングサイドにメリアが姿を現す。彼女はマイクを握り、力強い声で観客を煽る。


「大変長らくお待たせしました! これよりブレイブエイトと悪鬼軍によるブラッドファイトが行われますが、試合に先立ちましてルール説明を行います!」


 メリアの声がスタジアムに轟き、観客全員が一斉に彼女に注目する。このルール説明は試合の鍵を握る重要なもの。誰もが息を呑み、耳を傾ける。


「ブラッドファイトは左右隙間なく繋がった二つのリングとそれを覆うスティールケージの中で、五人一組のチームがトルネードタッグ形式で対戦します。因みに六人一組のチームもあります。まずそれぞれのチームから一人ずつ選手がリングに入り、その他の選手は待機された状態に。スタートから三分毎に各チームの選手たちが一人ずつ投入され、最後の選手が金網が入り、レフェリー投入で試合開始となります! 因みに決着方法は3カウント、またはギブアップを奪えば勝利となります。では、間もなく試合開始です!」


 メリアの宣言に、観客席は爆発的な歓声で応える。コロシアム全体が熱狂に包まれ、電流が走るような緊張感が漂う。誰もがこの壮絶な戦いを待ち望んでいたのだ。


「解説にはお馴染みのヤツフサさんです! では、この試合の見どころを」  

「うむ。ブラッドファイトはかなり危険な戦いと言われている。アイリンたちがこの戦いで生き残れるかがカギとなるだろう」  

「なるほど! まずは先発となるメンバーですが、ブレイブエイトからはサヤカ。悪鬼からはラテが向かいます!」


 メリアがリングに視線を移しながら紹介すると、すでにリング中央にはサヤカとラテが対峙していた。両者とも鋭い眼光で睨み合い、火花が散るような緊迫感がリングを支配する。


「やるからには容赦しないからな」  

「こっちもだ。本格的にやり始めようぜ!」



 サヤカが鋭く言い放ち、拳を握りしめる。対するラテは腕を鳴らし、闘志をむき出しにしていた。

 ゴングが鳴り響き、戦いの火蓋が切られる。サヤカは素早くリングサイドに転がるスチールチェアを手に取り、フルスイングでラテを狙う。「ガキィン!」と金属同士が激突する甲高い音がアリーナに響き渡る。ラテも椅子を構え、互いの攻撃が火花を散らしていた。


「椅子はハードコアのプロレスとしても基本だからな。特に椅子、ラダー、テーブルはハードコアの基本と言われている」  


 ヤツフサの解説に、メリアが興奮気味に頷きながら納得していく。観客たちも感心しながら頷いていた。


「そうなんだ……今回のプロレスは凶器が沢山あるし、何れにしても油断できないみたいね」  

「ええ。恐らくこの試合は大変な事になると思います……」


 リングサイドで観戦するトワとエイリーンは、冷や汗を浮かべながら試合を見つめる。リングには凶器が散乱し、電流爆破の金網が不気味に光る。この戦いは、油断すれば一瞬で命を落としかねない危険な舞台だ。

 その瞬間、ラテが動く。ロープに駆け出し、反動を利用して猛スピードで突進し、強烈なラリアットをサヤカの首元に叩き込む。「バシッ!」という衝撃音が響き、観客席から悲鳴が上がる。


「サヤカ!」  

「ぐほっ!」


 サヤカはリングマットに背中を強打し、衝撃でリングが揺れる。だが、彼女は即座に跳ね起き、燃えるような目でラテを睨みつける。簡単には倒れないその闘志に、観客がどよめく。


「テメェ……お返しだ!」


 サヤカが一気に距離を詰め、鋭い回し蹴りをラテの脇腹に炸裂。「ガツン!」という重い音と共に、ラテが金網に叩きつけられる。直後、「バチバチバチ!」と電流爆破が炸裂し、爆発音がアリーナを震撼させる。


「ここで爆発発生! 最初に電流爆破を喰らったのはラテだ!」 


 メリアの叫び声に、観客が一斉に沸くが、その様子を見たヤツフサが冷静に続ける。


「サヤカの実力を甘く見たのが原因となるな。彼女はアイリンと同じく格闘技のレベルが高く、素早い動きも得意とする。その様な奴を相手にすれば、倒されるのも時間の問題だ」


 観客がヤツフサの解説に頷く中、第二の選手入場のカウントダウンが始まる。残りは十秒となる中、ブレイブエイトからはマツリ、悪鬼軍からはカンナが登場だ。


「さあ、あと五秒前! いよいよ第二の選手の入場です!」


 メリアの合図と共にカウントダウンが響き、ブザーが鳴ると同時にマツリとカンナがリングに飛び込んできた。


「ここからはアタイも暴れてやるぜ!」


 マツリは有刺鉄線バットを手に、ニヤリと笑う。彼女がバットを振り上げると、「ブー!」という爆発予告のブザーが鳴り響く。

 この光景にリングサイドの零夜たちが驚愕してしまった。


「中に入って電流爆破バット⁉ おかしいでしょ!」  

「マツリならやりかねないわね……」


 アイリンがツッコミを入れ、エヴァが呆れ顔でため息をつく。

 マツリはバトルジャンキーの化身だ。デスマッチでは本領発揮し、凶器の扱いに長けた狂気の戦士。彼女の目は興奮と狂気に輝いている。


「ほう……このうちに電流爆破バットとは……その覚悟ができてるみたいやね……」  

「アタイは既にできているんだよ!」


 マツリが電流爆破バットをフルスイング。「ドカン!」と強烈な爆発が起こり、カンナの腹に直撃する。

 カンナは勢いよく吹っ飛ばされ、金網に激突 。「バチバチ!」と再び電流による爆発が炸裂し、カンナはリングマットに叩きつけられてしまった。


「いくら何でも、立つ事は難しいんじゃ……」  

「ええ……あの爆発二連続を喰らったら流石に……」


 ベルとカルアが冷や汗を浮かべ、倒れたカンナを見つめる。だが、その瞬間……カンナが目を見開き、不死鳥の如く跳躍して立ち上がったのだ。

 カンナの服には爆発の焦げ跡が残るが、彼女の眼光は鋭さを増している。


「なかなかやるなぁ。そやけど、うちはこの爆発の程度で倒れる理由にはいきまへん。闇のドラゴン……舐めたらあきまへんで?」


 カンナが不敵な笑みを浮かべ、一気に駆け出す。強烈な張り手をマツリに叩き込もうとするが、マツリは軽やかに回避に成功。逆に側頭部へ強烈な回し蹴りを炸裂させた。


「決まったのか……な⁉」  

「嘘でしょ⁉」  

「止められるなんて……」


 なんとカンナは右手で回し蹴りをガッチリガード。余裕の笑みを浮かべる彼女は、格闘技の達人だ。この程度ではビクともしない。

 マツリだけでなく、零夜たちもこの光景に驚愕する。悪鬼軍の隊長以外にも強敵がいることを、改めて実感した瞬間だった。


「この程度……予測済みどすえ? ふん!」  

「ぐほっ!」


 カンナの正拳突きがマツリの腹に炸裂。彼女は思わずくの字に折れる。カンナはすかさずマツリを背中に担ぎ、柔道の背負投げで豪快に投げ飛ばした。マツリは金網に向かって一直線となり、このままでは爆発のダメージを受けるのも時間の問題だ。


「おっと!」


 だが、マツリは背中の翼を広げ、空中で体勢を立て直す。リングポストに華麗に着地し、カンナを見下ろしながら不敵に笑う。


(まさか悪鬼の戦士にも強い奴がいるとはな……こいつは退屈しないで済みそうだぜ!)


 マツリの心は昂る。新たな強敵との出会いに、彼女の闘志はさらに燃え上がっていた。

 その瞬間、ブザーが鳴り、三人目の選手がリングイン。 ブレイブエイトからはティアマト、悪鬼軍からはキアナだ。ブラッドファイトはますます白熱し、さらなる激闘が幕を開けようとしていたのだった。

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