ランドコロシアムは熱狂の坩堝と化していた。アイリン率いるブレイブエイトと、ベティとメディ率いる悪鬼による壮絶なブラッドファイトが始まり、観客たちは血と汗が飛び散るリングに熱狂的な声援を送っていた。凶器が散乱する金網のリングでは、命を賭けた激闘が繰り広げられ、鋼鉄の衝突音と選手たちの咆哮が響き合う。
ブレイブエイトのメンバーはアイリン、サヤカ、マツリ、アカネ、ティアマト。対する悪鬼はベティ、メディ、ラテ、カンナ、キアナ。両チームの信念が火花を散らし、リングはまさに戦場の様相を呈していた。
「最初から激しい戦い! この戦いは凄すぎる展開としか言えません!」
メリアの実況が会場をさらに熱くする中、解説のヤツフサは冷静に続ける。
「お互いの信念を賭けたこの戦い。その信念が上回っている者が勝つと俺は感じている。だが……場外ではいつもの光景だが……」
ヤツフサの視線の先では、呆れるような光景が広がっていた。場外では倫子とエヴァによる零夜争奪戦が繰り広げられ、観客たちはそのドタバタ劇に大爆笑しながらも楽しんでいた。
「零夜君はウチの!」
「私の!」
「落ち着いてください! 腕がもげる!」
日和、トワ、エイリーン、ベル、カルア、メイルが必死に二人を止めようと動き回るが、倫子とエヴァの争いは一向に収まる気配がない。観客席からは笑い声と野次が飛び交い、場外はまるで別のショーのようだ。
「二人とも落ち着いてください!」
「こんなところで暴れる必要ないでしょ!」
「止めてください!」
「こんなところで暴れたら、笑い者になります!」
日和たちは倫子とエヴァを抑え込み、事態のエスカレートを防ごうと奮闘する。すると、ベルが二人をムギュッと抱き寄せ、優しくよしよしと頭を撫で始めた。
「二人の気持ちはよく分かるけど、今は喧嘩してはダメ。良い子だからね。よしよし」
「「はーい……」」
ベルの母親のような包容力に、倫子とエヴァは頬を膨らませつつも従う。零夜はその隙に解放され、メイルが彼をそっと抱き寄せる。観客席からは温かい拍手と笑い声が沸き起こった。
「災難でしたね……」
「ああ……ベルには感謝しか無いし、今の俺は本当に情けないな……」
メイルの苦笑いに、零夜は深いため息をつく。自分がチームをまとめるリーダーであるはずなのに、倫子とエヴァに振り回される姿に情けなさを感じていた。
メイルはそんな零夜の頭を優しく撫で、笑顔でこう囁く。
「大丈夫ですよ。坊ちゃまはいつも皆のために行動していますし、一人で背負わなくても大丈夫です。私たちがいますから、辛い時は頼ってください」
「ありがとな、メイル……」
メイルの励ましに、零夜は寂しそうな笑みを浮かべながら応える。仲間たちの支えに心が軽くなり、彼の胸には再び決意が宿り始めた。
「場外での戦いは一段落。そして、リング内では激しい戦いが繰り広げられています!」
メリアの実況に観客の視線が金網のリングに戻る。そこでは、ブレイブエイトと悪鬼が命を削るような戦いを展開していた。蛍光灯や鉄パイプが飛び交い、額から血を流す者、傷だらけの身体でなおも立ち上がる者。リングはまさに阿鼻叫喚の戦場と化していた。
「こいつを喰らえ!」
キアナが蛍光灯を振り上げ、マツリに襲い掛かる。その一撃は空気を切り裂き、ガラスが砕ける鋭い音を立てた。だが、マツリは鋭い身のこなしでこれを回避。リングの隅に転がっていた鉄のハンマーを瞬時に手に取り、獰猛な笑みを浮かべる。
「どでかいのを喰らわせてもらうぜ! はっ!」
マツリはハンマーを両手で握り、渾身の力を込めて振り下ろす。「 ズドン!」と鈍い衝撃音がコロシアム全体に響き渡り、ハンマーはキアナの後頭部に直撃。観客席からは悲鳴と歓声が同時に沸き上がり、会場は熱狂の渦に包まれた。
キアナの身体が一瞬硬直し、リングに叩きつけられるような勢いで前のめりに崩れ落ちる。
「この私が……負けるだなんて……」
キアナは強烈なダメージに耐えきれず、そのまま意識を失い、光の粒となってリング上から消滅。彼女のいた場所には、オーガの角と大量の金貨がキラキラと輝くのみ。
その直後、ゴングが鳴り響き、試合は決着。ブレイブエイトが見事勝利を収める事に成功したのだ。
「キアナ消滅! あの最凶オーガが後頭部へのダメージによって、まさか倒されてしまうとは! これでブレイブエイトが見事勝利だ!」
「どんなに強く鍛えても、頭だけはどうする事もできない。マツリはそれを見抜いたからこそ、キアナを倒す事に成功したからな」
メリアの興奮した実況とヤツフサの冷静な解説に、観客席は割れんばかりの歓声で応える。マツリは血と汗にまみれた顔で高らかに笑い、拳を青空に突き上げる。アイリン、ティアマト、アカネ、サヤカもそれぞれのアピールで観客の声援に応え、ランドコロシアムは熱狂の頂点に達していた。
だが、その時、ベティが悔しそうな表情でリング中央に進み出る。彼女はマジックでマイクを召喚し、深く息を吸い込んで観客に語りかけた。
「確かにブラッドファイトはここまでね。けど、ここから先は二対二の戦いとなるわ。私たちを倒さなければ終わりではないから」
ベティの言葉に、観客の歓声がピタリと止まる。視線は一斉にベティとメディに集まり、新たな戦いへの期待が高まる。ブラッドファイトの勝利は掴んだものの、因縁の決着はまだ先だ。
「ここは私とサヤカで行くわ。因縁を終わらせるまでが戦いだから!」
「その通りだ。奴は手強いし、半端な覚悟ではやられてしまう。だからこそ、私たちの手で倒すのみだ!」
アイリンとサヤカは鋭い眼光でベティとメディを睨みつけ、戦闘態勢を整える。二人の間には、因縁を清算する不退転の決意が燃え上がっていた。
「じゃあ、アタイらはリングから降りるぜ」
「あとは二人で頑張ってね!」
マツリとティアマトはアイリンとサヤカに後を託し、金網のリングから降りていく。しかし、アカネはリングの端で立ち止まった。彼女の胸には、ベティとメディへの因縁がまだ燻っている。自分が選ばれなかった悔しさと、ここで終わりたくないという強い想いが交錯していた。
アイリンはそんなアカネに近づき、静かに、しかし力強く告げる。
「アカネ、あなたは二人が何かを仕掛けたら、それを阻止して頂戴。恐らくベティとメディは勝つ為なら何でもするわ。それを見抜けば、奴らには必ず勝てる筈よ」
アカネはアイリンの言葉に力強く頷く。ベティとメディの狡猾さを警戒し、彼女たちの策略を必ず打ち砕くと心に誓っていた。
「分かった。必ず奴らの陰謀は阻止するぜ!」
アカネはグッドサインを掲げ、リングから颯爽と降りていく。残されたのは、アイリンとサヤカ、ベティとメディの二組。リングは一つに絞られ、周囲には電流がバチバチと走る金網がそびえ立つ。危険極まりない戦場となるこのリングで、最大の戦いが始まろうとしていた。
「ここからは先は……電流爆破のスチールケージを加えたノーDQマッチ! さあ、ラストダンスの始まりよ!」
ベティの宣言と共にゴングが再び鳴り響き、因縁の最終決戦が幕を開ける。観客の叫び声がコロシアムを震わせ、命を賭けた壮絶なラストバトルが始まりを告げたのだった。