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第195話 もう一人のモンガルハントの使い手

「そのような過去があったなんて……」

「奴と出会った時点で、既に闇堕ちしていたとはな……」


 ベティとメディの話を聞いたアイリンとサヤカは、冷や汗を流しながらも納得した様子で頷いていた。リングサイドの零夜たちや観客たち、そして実況のメリアは、二人の壮絶な過去に驚愕を隠せずにいた。ヤツフサだけは冷静な表情を崩さなかったが。


「役立たずによる追放はよくある話だが、闇堕ちしてしまうのも珍しくない。タマズサは途方に暮れた者や悪人をターゲットに勧誘し、自らの手駒として侵略行為を行う。彼女なら当然の行動だ」

「そうなのですか……けど、ここまでして立ち向かうのは異常すぎる! それでもまだやる気か!?」


 メリアの熱い実況がコロシアムに響き渡る中、ベティとメディは深く息を整え、鋭い眼光で前を見据えた。吐血しながらもその目はまだ死んでおらず、最後まで戦い抜く覚悟がみなぎっている。


「ええ。当然よ……ここまでやるなら、覚悟を示すのみだから……」

「こうなったら服も脱いで、覚悟の姿を見せるしかないですね……」

「は!? 服!?」


 ベティとメディの突然の宣言に、アイリンが目を丸くして驚く。その瞬間――二人は一気にチューブトップとスポーツブラを脱ぎ捨て、観客の多くが目を逸らし、あるいは顔を覆って見ないようにしていた。

 リングサイドの零夜は、エヴァに顔を胸に押し付けられ、息苦しそうにもがいている。


「く、苦しい……」

「我慢して。少しの辛抱よ……あ、もう大丈夫みたい」

「ぷはっ! ん? これは……眼帯ビキニじゃ……」


 エヴァから解放された零夜が驚きの表情でベティとメディに視線を移す。彼女たちは眼帯ビキニとTバックのパンツという、際どいギリギリセーフの姿に変貌していた。露出の激しさは観客をざわつかせたが、彼女たちの闘志は揺るがない。


「その姿で挑むってわけね。別にいいけど……アンタたちの因縁はここで終わらせてあげる!」


 アイリンは呆れ顔でため息をついた後、真剣な表情に切り替え、ベティとメディを指差す。戦いの最中に起きたハプニングにも動じず、彼女の心の底には不屈の覚悟が宿っていた。


「いい度胸ね……やるからには容赦しないから!」


 ベティはリングマットに転がる蛍光灯を手に取り、全身の力を込めてアイリンに突進。勢いよく振り下ろした蛍光灯はアイリンの頭部に直撃し、ガラスの破片がキラキラと宙を舞う。 衝撃音とともにコロシアムが沸き、観客のどよめきが響き渡る。


「蛍光灯攻撃炸裂! これはどうなるか分からないぞ!」


 メリアの実況が熱を帯び、会場は一気に混沌の渦へ。試合の展開は予測不能となり、どちらのペアが勝利を掴むのか、誰もが息を呑んで見守った。アイリンは額に切り傷を負い、鮮血が流れ落ちる。それでも彼女の目は燃えるように鋭く、この程度では倒れない。


「気をつけろ、二人とも! ベティとメディは新たな策を仕掛けてくる! しかもラテとカンナがいる限り、油断は禁物だ!」


 リングサイドのアカネが、アイリンとサヤカに鋭い忠告を飛ばす。二人は視線を別のリングサイドへ移す。そこにはラテとカンナが立ち、ベティとメディに戦術を囁いていた。ブラッドファイトを終えた二人はリングを降り、セコンドとして暗躍しているのだ。


「あの二人は零夜に任せた方がいいわ。戦力を減らすなら、そっちが効果的よ」

「なら、やるべきことは一つだな。ティアマト、すぐに二人を捕まえるぞ!」

「ええ! これ以上好き勝手させないんだから!」


 アイリンの指示を受けたアカネは、隣のティアマトに呼びかける。ティアマトも力強く頷き、二人は反対側のコーナーにいるラテとカンナを捕獲すべく動き出した。


「まさかうちらを捕まえようとしてるどすな。けど、そんなことしても返り討ちや!」

「その通りだ。あの二人には悪いが、覚悟してもらうぜ!」


 ラテとカンナはアカネたちの動きを察知し、即座に迎撃の構えを取る。アカネは素早く零夜に視線を送り、ウインクで合図を出す。


(捕獲だな。任せろ!)


 零夜は電光石火の速さで駆け出し、リングサイドを跳躍。空中でくるくると前方回転し、ラテとカンナの前に華麗に着地した。


「な!? まさかアカネたちの襲撃が囮だったのか!?」


 予想外の展開にラテとカンナが驚愕する中、零夜は両手から淡い光を放ち、魔術を発動。光の鎖が二人を絡め取ろうと迫る。


「その通りだ。今からお前たちを捕まえる! モンガル……いでーっ!」


 零夜がモンガルハントを繰り出そうとした瞬間、背後からエヴァがガブリと噛み付く。零夜の動きを読んでいたエヴァは、それを阻止すべく動いたのだ。


「仲間を増やすな! 今の人数で十分でしょ!」

「けど、奴らを止めるにはこうするしかないんだ!」

「他にも方法があるでしょ! 倒すとか捕縛するとか!」

「それだったら死んでしまうだろ!」


 エヴァと零夜の漫才のようなやり取りに、観客は大爆笑。日和たちは慌てながら騒動を止めに向かい、倫子は首を横に振りながら頬を膨らましている。

 ラテとカンナは呆然とその光景を見つめ、言葉を失っていた。


「なあ……これ、どうする?」

「さあ……」


 二人が困惑しているその瞬間、ベルが背後から音もなく接近。彼女の手には淡い光が宿り、魔術が発動寸前だった。


「モンガルハント!」

「「な!?」」


 ラテとカンナが驚く間もなく、淡い光に包まれた二人はスピリットへと変化し、ベルのバングルに吸い込まれてしまった。


「べ、ベル!? まさかアンタもモンガルハントを!?」

「いつの間に覚えていたのか!?」 


 零夜とアカネは驚愕の表情をしながら、ラテとカンナを捕まえたベルに問いかける。彼女はニッコリと微笑み、余裕の笑顔を見せた。


「ええ。零夜に負担をかけないよう、私もこの技を覚えたの。それに、私もモンスター娘を増やして賑やかにしたいしね」

「そうなのか……ハハハ……」


 ベルの明るい説明に、零夜は苦笑いしながらも納得するしかなかった。モンガルハントの使い手が増えたのは想定外だったが、作戦は成功。結果オーライだ。


「これで残るはベティとメディのみ。後は彼女たちに託しましょう!」


 ベルの合図に零夜たちが頷き、リング内のアイリンとサヤカに視線を集中させる。二人は凶器を巧みに操り、ベティとメディを猛烈に追い詰めていく。吐血して魔力を使えない二人に対し、容赦ない攻撃を畳み掛ける。


「やってくれましたね!」

「負けてられないわ!」


 しかし、メディも負けじと強烈なラリアットを繰り出し、アイリンの首に炸裂させる一撃を叩き込む。 さらにベティは跳躍し、鋭いドロップキックでサヤカをリングマットに叩きつけた。衝撃でリングが揺れ、観客の歓声がコロシアム全体に響き渡る。


「魔力が使えない以上、最後の手段しかありませんね……」

「ええ……このコロシアムにはある仕掛けが施されているわ。それを使うしか勝ち目はない……」


 ベティとメディは互いに頷き合い、邪悪な笑みを浮かべながら最後の秘策を決意。リングの四隅が怪しく光り始め、コロシアム全体が不気味な振動に包まれる。彼女たちの企みは、試合をさらなる混沌の極致へと導こうとしていた――。

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