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第196話 アイリンの覚醒

 白熱の戦いは終盤にまで突入しようとするが、ベティとメディは最後の作戦を実行しようとしていた。それはコロシアムにある仕掛けを発動する事である。

 現在の二人の状況はかなり厳しい。魔力は使えなくなり、頼りになる部下たちもいなくなってしまった。現在頼りになるのはプロレス技、凶器、そしてコロシアムの仕掛けの三つだけであるのだ。


「試合は更に白熱! 両チームとも一歩も引かないぞ! ここから先は持久戦となるが、何処まで耐え切れる事ができるか!?」


 メリアの実況に観客席から雷鳴のような歓声が轟き、コロシアム全体が熱狂に揺れる。その瞬間、サヤカが助走をつけ、鋭角なドロップキックをベティに叩き込む。 

 炸裂音と共にベティは後方へ吹き飛び、金網に背中から激突。直後、金網から迸る電流爆破が彼女を直撃し、火花がリングに散乱。衝撃でリングがガタガタと震えてしまったのだ。


 「ベティが被爆! 今のは痛すぎるぞ!」

「電流爆破が炸裂したが、服を脱いだ時点で大ダメージは確定だな。火傷どころではすまないぞ……」


 メリアの興奮した実況に、ヤツフサが冷静に解説を重ねる。

 電流爆破は直接生身で喰らってしまえば、火傷になるのは確定である。その為、Tシャツなどを着用しながら、火傷対策をしているのだ。

 ベティの今の服装は眼帯ビキニのまま。こうなると背中に火傷ができてしまうのも無理ないだろう。


「うぐ……やってくれたわね……」


 ベティは背中に灼熱の火傷を負いながら、歯を食いしばって立ち上がる。焦げ跡が刻まれた背中は痛々しく、観客すら息を呑む。それでも彼女は闘志を燃やし、逆転の意志を捨てない。彼女はメディに鋭い視線を送る。


「メディ……こうなったら仕掛けを用意するわよ!」

「了解です!」


 メディが指を鳴らすその刹那、アイリンが電光石火のスピードで突進。彼女の飛び膝蹴りがメディの顔面に炸裂し、衝撃音がコロシアムに響き渡った。


「させるか!」

「ぐほっ!」


 顔面に膝を喰らったメディは仰向けに倒れ、背中をリングに強打。リングが軋む音が響き、観客席がどよめく。メディは苦悶の表情で這うように動くが、立ち上がるのは時間の問題だ。


「アンタらのやり方なら、既に察知しているわよ。それに……私たちが仕掛けに気付いてないと思っているの?」

「どういう事?」


 アイリンは冷たくジト目で二人を睨みつけ、彼女たちの策略を見抜いたと宣言。

 ベティが動揺するその瞬間、コロシアムのステージに轟音が響き、国鱒社長、栗原、川本、黒田の四人が堂々と登場。観客席が一気に沸騰し、歓声を上げていた。


「国鱒社長、作戦は成功したのですね!」

「ああ。コロシアムに秘密の部屋があったからな。それを覗いてみたら、まさかこのコロシアムにミサイルやレーザーなどの仕掛けがあったとは驚いた。悪いが全て停止させてもらった」

「そ、そんな……」


 国鱒社長の言葉に、ベティとメディは血の気を失い、青ざめて立ち尽くす。起死回生の策略は完全に封じられ、残されたのは敗北の二文字のみ。絶望が二人を飲み込む。


「仕掛けや魔術に頼りすぎたのが仇となったな。アイリン、今の内に終わらせるぞ!」

「ええ!」


 サヤカの号令にアイリンは頷き、格闘技の構えを取る。彼女の目は獲物を狙う猛獣のように鋭く、リング全体に緊張感が走る。


「ベティ、メディ。私はアンタたちに裏切られてから一人ぼっちとなってしまい、途方に暮れてピンチとなっていた。でも、零夜たちと出会っていたからこそ、今の私がここにいるの! 私は最後まで零夜たちと共に戦い続ける! それがたとえ誰かから言われようとも……私は彼らを心から信じているから!」


 アイリンは右手を胸に当て、まっすぐな瞳で力強く宣言。彼女の言葉は嘘偽りなく、コロシアム全体に響き渡る。観客席は感動と興奮の渦に包まれる。


「アイリン、今のお前は最高だな……」


 零夜は深く頷き、倫子たちは満面の笑みで喜ぶ。仲間として認められた喜びが、彼らの心を熱くしているのだ。

 その瞬間、アイリンのバングルが眩い光を放ち、珠の文字が「光」から「信」へと変化。右肩にはドラゴンの頭を象った紋章が浮かび上がる。アイリンは完全覚醒を果たし、八犬士の半数がその力を解放したのだ。


「この文字は八犬士の信……私もとうとう覚醒したんだ……」


 アイリンはバングルの文字を確認し、自らの覚醒を実感。どんな逆境でも諦めなかった彼女だからこそ、この瞬間を迎えられたのだ。彼女は即座に視線をベティとメディに移す。二人の体力は限界に近く、今がとどめを刺す絶好の機会だ。


「さあ、ここから先はあなたたちの終着点! 今からその場所に連れてってあげるわ!」


 アイリンは猛獣の如く突進し、ベティの身体をがっちり掴む。彼女を高々と持ち上げ、豪快なバックドロップでリングに叩きつける! 衝撃でリングが揺れ、観客席が大歓声に包まれる。


「私も負けられない! アイリンに負けず、ギアを上げておかないとな!」


 サヤカはメディに猛烈なドロップキックを叩き込み、彼女をリングの場外へ吹き飛ばす。さらにロープに疾走し、反動を利用して跳躍。場外へ向けた華麗なトペ・スイシーダがメディに直撃した。

  メディは仰向けに倒れ、完全に失神。サヤカは全身でメディを抑え込み、身動きを取れなくしたのだ。


「見事なダイブアタック! これでリング内はアイリンとベティの一騎打ちだ!」

「後はお互いの根性と実力がカギとなるだろう。ここからどう攻めるかだ」


 メリアの実況とヤツフサの解説に、観客席は熱狂の坩堝と化す。誰もがアイリンを応援し、彼女の勝利を確信して叫び続ける。


(皆の期待に応える為にも……絶対に勝つ!)


 アイリンは心の中で決意を固め、猫のような身軽さでベティに飛びかかる。彼女は跳び上がり、両足でベティの頭をがっちり挟み込む。次の瞬間、バク宙のような回転と共に、華麗かつ凶暴な大技が炸裂する。


「フランケンシュタイナー!」


 ベティの脳天がリングマットに叩きつけられ、衝撃音がコロシアム全体を震わせる。リングが軋み、観客は総立ちで絶叫。アイリンは即座にベティを抑え込み、フォールの体勢へ。


「フォール!」

「1、2、3!」


 ツバサのスリーカウントが響き、ゴングが鳴り響く。アイリンがベティを完全に抑え込み、因縁の戦いに終止符を打った。


「決まりました! アイリンの活躍でベティとメディを撃破! 因縁の戦いに終止符が打たれました!」


 メリアは興奮の絶頂で実況し、観客たちは大歓声を上げ、コロシアムは勝利の熱気に包まれる。アイリンは両手を高く掲げ、満面の笑みで声援に応える。その姿は、覚醒した八犬士の誇りを体現していた。

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