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第198話 悪鬼の四天王軍団

 悪鬼の本部基地。その中心部にある玉座の間は、重厚な石造りの壁に囲まれ、薄暗い照明が不気味な影を落としていた。

 玉座の間の中央には、タマズサとゴブゾウが立ち、インプの部下たちから緊迫した報告を受けていた。報告の内容はAブロック基地の陥落。ブレイブエイトと呼ばれる敵の精鋭部隊によって壊滅させられたという衝撃的な事実だった。


「Aブロック基地もブレイブエイトによってやられてしまった……で、ベティとメディは囚われの身になったという事か」


 タマズサの声は低く、抑揚に乏しかったが、その瞳には驚きと苛立ちが渦巻いていた。彼女は報告を聞き終えると、顎に手を当て、納得したように小さく頷いた。しかし、その身体は微かに震えていた。怒りか、あるいは危機感か。彼女の内心は、部下たちには計り知れないものだった。

 悪鬼の基地は、Aブロックの壊滅だけに留まらない。Hブロック以下の下位基地も次々と敵の戦士たちに蹂躙され、壊滅状態にあった。このまま進めば、本部基地そのものが敵の手に落ちるのも時間の問題だ。タマズサが震えるのも無理はない。彼女は悪鬼の指導者として、組織の存亡を背負っていた。


「まあ、ベティとメディについてはクビという事になるが、彼女たちが生きてくれたらそれで良いとしよう。だが、多くの基地が滅ぼされたとなると、ここは部隊再編の必要があるな……」


 タマズサは真剣な表情で呟き、視線を宙に泳がせた。彼女の頭の中では、すでに戦力の再構築と今後の戦略が巡り始めていた。

 現在、AからGブロックの上位基地はことごとく壊滅し、残るは下位クラスの基地のみ。この状況では戦力が著しく不足しており、本部への敵の侵攻を防ぐのは困難を極める。彼女が深い思索に沈む中、隣に立つゴブゾウが突然声を上げた。


「それなら私にアイデアがあります。実は四天王を決める戦いが行われようとしていまして、その内の三人が選ばれています」

「ほう。そのメンバーはどんなのだ?」


 タマズサの目が鋭く光り、ゴブゾウに視線を向けた。彼女の声には、わずかな好奇心が滲んでいる。

 ゴブゾウは彼女の反応に気を良くしたのか、得意げに手を振ると、目の前に魔力を帯びたウインドウが現れた。そこには、四天王の候補者である三人の姿が映し出されていた。


「まずは一人目。ダークエルフのスカーレット。彼女は別名『ムーラン・ルージュ』の異名を持つ戦士です。美しい姿で、しかも巨乳!」


 ゴブゾウの声は弾み、まるで自分の自慢のコレクションを紹介するかのようにスカーレットを語った。

 ウインドウに映るスカーレットは、長身でしなやかな肢体を持つダークエルフの女性だった。黒髪に赤い瞳が映え、剣と格闘術を駆使する戦士としての鋭い雰囲気を漂わせている。彼女のデニムのボンテージスカートは、動きやすさと魅力を両立させたものだった。ゴブゾウのお気に入りであることは、その熱のこもった口調からも明らかだった。


「ほう……」


 タマズサはウインドウを一瞥し、静かに頷いた。だが、その直後、彼女の手が無意識に自分の胸へと伸びる。タマズサもまた、豊満な体型を誇るが、スカーレットとは微妙な差があった。彼女の目が一瞬細まり、複雑な感情が顔をよぎる。


「タマズサ様……もしかして胸の大きさで負けた……ブヘラ!」


 ゴブゾウが軽い調子で口を滑らせた瞬間、タマズサの拳が閃いた。彼女のアッパーカットがゴブゾウの顎を捉え、彼の小さな体は宙を舞う。鈍い音と共にゴブゾウは床に叩きつけられ、動かなくなった。

 部下たちの間に緊張が走り、冷や汗が頬を伝う。タマズサの冷たい視線が、広間全体を凍りつかせた。


「次、言ったら殺すぞ。たわけ共」

「「「はい!」」」


 部下たちは一斉に敬礼し、震える声で応えた。彼らの顔には、恐怖と忠誠が入り混じった表情が浮かんでいる。タマズサの威圧感は、彼女がただの指導者ではないことを改めて思い知らせた。

 すると、ゴブゾウが何事もなかったかのようにむくりと起き上がり、咳払いを一つして話を続けた。


「ふ、二人目についてですが……最年少の少年です。彼の名前は人間のマルコム。年齢は8歳で、転生者と聞いています。彼は父親の虐待で死亡し、この世界に転生。転生してからは自分を死亡させた父親を殺し、その実力によって四天王にまで上り詰めました」


 ゴブゾウの説明に、タマズサの眉がわずかに上がる。

 ウインドウに映し出されたマルコムは、幼い顔立ちながらも冷ややかな目をした少年だった。華奢な体に不釣り合いなほど鋭い剣を手に持ち、その瞳には深い憎しみと決意が宿っている。


「なるほど……8歳でここまで上り詰めるとは……転生者となると、実に見事としか言えないな……」


 タマズサは感心したように頷き、マルコムの映像をじっと見つめた。

 マルコムは転生者としての異質な力を持ち、わずか8歳で戦士としての才能を開花させた。小学生の年齢ながら、エリートとして悪鬼の組織に名を連ねる彼の過去は壮絶だった。父親への復讐は、単なる殺戮では終わらない。マルコムは父親を全身バラバラの惨殺死体に変え、その怨念の深さを物語っていた。タマズサはそんな彼の背景に、戦士としての可能性を見出していた。


「残りはあと一人。どんな奴じゃ?」


 タマズサの声に、ゴブゾウは再びウインドウを操作し、三人目の四天王を映し出した。そこに現れたのは、筋肉質で威圧的な男性の姿だった。


「三人目はこちら。オーク族のガルドン、別名『鉄壁の破壊者』です! こいつは力こそが正義と信じる戦士で、巨大な戦斧を片手で振り回し、敵を一撃で粉砕するほどの怪力の持ち主です!」


 ゴブゾウの声は興奮に震え、ガルドンの映像を指差した。

 身長2メートルを超える巨漢のガルドンは、全身に無数の戦傷が刻まれた筋肉の塊だった。革と鉄でできた重厚な鎧がその体を覆い、片手に握られた巨大な戦斧は、まるで巨木を切り倒すかのような威圧感を放っていた。タマズサの目が、興味深そうにその姿を追う。


「ふむ、見た目は確かに頼もしいな。こいつの戦い方はどうなのだ?」


 タマズサの質問に、ゴブゾウはさらに熱を込めて答えた。


「ガルドンは接近戦の達人です。敵の攻撃をものともせず、正面から突っ込んで全てを破壊するタイプ。魔法や遠距離攻撃には多少弱いですが、ひとたび懐に入れば誰も止められません! それに、彼の忠誠心は本物で、悪鬼のために命を捧げる覚悟を持っています!」


 タマズサは満足げに頷き、ガルドンの映像をじっと見つめた。彼女の頭の中では、すでにこの三人の四天王をどのように戦力として活用するかの戦略が構築されつつあった。スカーレットのスピードと技巧、マルコムの狡猾さと転生者の異質な力、そしてガルドンの圧倒的な破壊力。この組み合わせは、悪鬼の組織を立て直すための大きな希望となり得る。


「スカーレットのスピードと技巧、マルコムの狡猾さと転生者の異質な力、そしてガルドンの圧倒的な破壊力……悪くない組み合わせだ。だが、ゴブゾウ、四天王は四人のはずだな。残りの一人はどうなっている?」


 タマズサの鋭い問いに、ゴブゾウの表情が一瞬曇った。彼は少し躊躇しながらも、慎重に言葉を選んで答えた。


「実は……四人目の選出がまだ決まっていないのです。候補者は数名いるのですが、最終的な戦いで勝ち残った者が四天王の最後の一席を獲得します。近日中の闘技場での試合で決定する予定ですし、現在はトーナメントを行っていますので」

「ほう、闘技場か。面白い。なら、その試合をこの目で見させてもらうとしよう。ゴブゾウ、準備を進めろ。どんな奴が四天王に名を連ねるのか、楽しみだな」


 タマズサは不敵な笑みを浮かべ、玉座にゆったりと身を預けた。彼女の瞳には、危機に瀕した悪鬼の本部を立て直すための燃えるような闘志が宿っていた。闘技場の戦いが、新たな希望をもたらすか、それともさらなる混沌を招くか。彼女の心は、すでにその瞬間を見据えていた。

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