Aブロック基地での激しい戦いから数日後、クローバールのギルド本部では、ベティとメディに対する厳粛な裁判が執り行われていた。
彼女たちの罪は、ゴドム殺害に加え、多くの人々の命を奪った重罪も含まれる。悪鬼の戦士としての正体が暴かれた今、死刑は避けられないと誰もが確信していた。しかし、アイリンの熱心な弁護と黒田の意外な提案により、事態は新たな展開を迎えようとしていた。会場に集まった者たちの視線は、緊張感と微かな希望で揺れ動いている。
「では、裁判についてだが、今回の件はかなり許されない事である。本来なら死刑が確定だが、アイリンに助けてもらっただけでなく、お前たちを引き取る者が現れた。となると、死罪から減刑するが、相当の罪になる事を覚悟しておく様に」
モールの重厚な声が広間に響き、静寂を切り裂いた。ベティとメディは顔を伏せ、罪の重さを噛み締めるように唇を噛んだ。これほどの罪を犯した以上、厳しい罰は避けられない。それでも、モールの言葉にはどこか救いの余地が感じられ、二人は静かに頷いた。
「では、判決内容を言い渡す。ギルドの追放は確実で、ランクもFランクへと降下となる。今後は日本で生活しながら、クエストを次々と受けておく事。そして、償いの為の慈善活動も参加するのも忘れない様に」
「「ありがとうございます!」」
涙が頬を伝い、ベティとメディは声を震わせながらモールに深々と一礼した。モールの寛大な判断がなければ、彼女たちは最悪の結末を迎えていただろう。アイリンや黒田の支えが、希望の糸を繋いでくれたのだ。彼らへの感謝の気持ちが、二人の胸を熱くした。
「では、判決についてはこれにて終了する!」
「「「はっ!」」」
モールの宣言が響くと、広間に集まった全員が一斉に敬礼し、力強い声を揃えた。ベティとメディの事件はこれで一応の決着を迎え、誰もがこの判決に異議を唱えなかった。彼女たちが罪を償い、新たな道を歩んでほしい――その願いが、会場に満ちていた。
※
翌日、ベティとメディは日本へ移住し、アイリンの手引きで新しいアパートへと引っ越してきた。
クエストはバングルの通信機能で選択でき、指定の場所へ瞬時に転移することも可能だ。ただし、魔術の練習は人目につかない場所で行わなければならず、彼女たちの新生活には慎重さが求められた。
「ふう……荷物についてはこのぐらいね。本当はベルたちに手伝おうと思ったけど、別任務で忙しいからね……」
アイリンは額の汗をタオルで拭い、部屋を見回して引っ越し作業の完了を確認した。今回はアイリン一人で手伝い、他の仲間たちはそれぞれの仕事に追われている。
零夜は会社の業務、倫子は芸能活動、日和はアイドル公演、エヴァとマツリは討伐クエスト、トワは図書館での情報収集、エイリーンは武器開発の鍛冶作業、ベルとカルアは保育園のボランティア、メイルは大道芸のパフォーマンスに奔走していた。
「まあ、仕方がないわよ。彼らも忙しく働いているし」
「そうですね。私たちも何かをしたいですし、保育園には行きたくなりますね」
「いや、これまでの行動をすれば、子供たちが怯えるからね」
メディの無邪気な提案に、アイリンは苦笑しながら鋭くツッコんだ。悪鬼の一員として恐れられてきた二人。子供たちが逃げ出すのも無理はない。ベティとメディは気まずそうに笑い合い、肩をすくめた。
「後はアパートだけど、今の状態からすればこうなるのも無理ないわね……まあ、身から出た錆だし、ここから頑張らないとね」
「そうするしか無いですね」
ベティは簡素なアパートの部屋を見渡し、苦笑いを浮かべた。キッチンやトイレは揃っているが、風呂場がないため、近くの銭湯に通わなければならない。メディも静かに頷き、現状を受け入れる覚悟を新たにした。
ギルドのランクを上げ、プロレスラーとして活躍することで、この生活から抜け出す道を切り開く必要がある。険しい道だが、ベティとメディなら必ずやれる――そんな確信が二人を支えていた。
「引っ越しを手伝ってくれてありがとう、アイリン。ハルヴァスとは違う生活になってしまったけど、罪を償って一からやり直すわ」
「必ずSランクへと復帰して、あなたたちに追いつきます」
ベティとメディはアイリンに心からの感謝を伝え、力強く目標を宣言した。SランクからFランクへの転落、日本での慣れない生活。それでも、彼女たちの瞳には不屈の決意が宿っている。さらに、彼女たちはプロレス団体「DBW」に加入し、プロレスラーとしての新たな挑戦が始まる。DBWのリングは、彼女たちの活躍でさらに熱狂的な戦いの場となるだろう。
「まあ、私もプロレスラーとしての道を進む事になるし、戦う事になったら負けないんだから!」
「この前は負けたけど、次は必ず勝つから!」
「私も絶対に負けません!」
三人は拳をぶつけ合い、ライバルとしての絆を確かめ合った。互いに高め合い、リングでどんな戦いを繰り広げるのか。彼女たちの未来に、誰もが期待を寄せていた。
※
引っ越しを終えた夜、アイリン、ベティ、メディは近くの銭湯にやってきた。そこには仕事を終えた零夜、倫子、日和、エヴァ、マツリ、エイリーン、トワ、ベル、カルア、メイルも集まり、女湯は賑やかな笑い声に包まれていた。なお、ヤツフサは屋敷で留守番中だ。
「引っ越しの手伝いに来られなくてごめんね。この日は仕事が立て込んでいたから」
「私たちも手伝いに行けなくてごめんなさい」
湯船に浸かりながら、倫子が申し訳なさそうに謝ると、日和たちも神妙な顔で頭を下げた。仲間として手伝いたかったが、仕事の都合で叶わなかったのだ。
「気にしないで。仕事があったのならしょうがないから。それに三人でなんとかできたから」
「そうですよ。自分を責めないでください」
ベティとメディは穏やかな笑顔で答え、倫子たちを安心させた。忙しさは仲間たちの活躍の証でもある。二人とも、それを理解し、受け入れていた。
「その話はこのぐらいにしましょう。それよりも……零夜のデビュー戦がいよいよ近づいてくるわね」
「ああ……私と日和ちゃん、メイルも一緒に出るけど、相手はあのファンキーズだからね……」
アイリンが話題を切り替えると、倫子たちは気まずそうな表情を浮かべた。零夜のデビュー戦の相手は、悪名高いファンキーズと益村。
ファンキーズの試合は、常軌を逸したパフォーマンスでコンプライアンスの限界を超えることが多く、ノーコンテストになる可能性すらある。国鱒社長が頭を抱えるのも無理はない。
その雰囲気を察したベティとメディは、首を傾げながら疑問を口にした。
「気まずそうな雰囲気だけど……何かあったのですか?」
「試合を見たら分かるから……」
エヴァは苦笑しながら短く答え、詳しい説明を避けた。ベティとメディはますます不思議そうに顔を見合わせたが、深入りはせず、別の話題へ移ることに。
「この話はここまでにして……明日、ゴドムたちの墓参りに向かいましょう。戦いが終わった事を報告するだけでなく、ベティとメディに謝罪させてもらわないとね」
「そうね。私たちはもう悪鬼の一員では無いし、アカネの仲間たちの墓参りにも行かないと」
「私も聖女の祈りで歌を捧げます。彼らが安心して天国に行ける為にも」
アイリンの提案に、皆が頷きながら賛同した。ベティとメディが罪を償う第一歩として、ゴドムやアカネの仲間たちへの墓参りは深い意味を持つ。戦いの終結を報告し、過去と向き合うことで、彼女たちは新たな未来を切り開こうとしている。
女湯では、墓参りの計画で和やかな会話が弾む一方、男湯ではなぜか奇妙なクイズ大会が繰り広げられていた。零夜は呆れ顔でその光景を眺めていたが、その詳細はまた別の物語だ。