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第32話 力

 なんとか三人のご機嫌を取り。


 俺とシルシュは雑談に花を咲かせていた。

 このシルシュ、ドラゴンであるし今までの行動からして人間としての常識はないと思ったのだが……どうやら意外と人間に対する理解もあるようだ。なんだか思ったより楽しく会話ができている自分がいた。


 そんな感じで、二人の間の場が十分温まったところで。


『ところおぬし。せっかく珍しい『力』を持っているというのに、使いこなせておらんのか?』


「珍しい力?」


『うむ。おぬしが『気配察知』と思っている力よ』


「思っている、ということは本当は違うのか?」


『それはそうよ。――そもそもおぬし、その力を何だと思っているのだ?』


「だから、気配察知じゃないのか?」


『ふぅ~む。何という無理解……。では一つ聞こう。鑑定眼アプレイゼルとおぬしの気配察知、どちらが上の力だと思う?』


「? そりゃあ、鑑定眼アプレイゼルじゃないのか?」


 なにせメイスなんかは見るだけで水が汚染されているかどうか判断できたり、人の本質を見抜いたりできるんだ。それに対して気配察知はそのまま気配が分かるだけ。比べるのも烏滸おこがましいってやつだ。


 と。俺としては当然の考えをしているのだが。シルシュは『分かってねぇなぁコイツ』という顔をしている。


『では、おねーさん・・・・・として一つ助言してやろう』


 なぜか胸を張りながらシルシュが教えてくれる。


『目で見なければ何も分からない力と。見ずとも万事をる力。ならば後者の方が『上』に決まっておろう?』


「見ずとも……万事を?」


『ま、口で言っても分からぬだろうからな。その辺は自分で理解していくしかないが……。自分でも、その力をおかしいと思ったことはなかったか?』


「…………」


 言われてみれば、変なところはあった。


 まず第一に、あのバケモノじみた騎士団長の接近すら察知できること。


 そしてメイスの鑑定眼アプレイゼルで見えなかった『ゆがみ』を見つけられた。元はといえばその『ゆがみ』に手を伸ばすことによって俺はシルシュのいる地下空間へと転移させられたのだ。


 さらには。その気になれば少し離れた湖にいたまま、王都から魔の森に向かう人間の動きまでをも察知できる。


 そして。

 先ほど皆の前でシルシュがドラゴンに変身したとき。

 まぶしくて。まばゆくて。完全に視界が効かなくなる中。

 俺はシャルロット、メイス、ミラがどこにいるか何となく分かった・・・・・・・・。分かったからこそ三人を避難させることができた。


「俺の力ってのは……なんなんだ?」


『それを簡単に教えてしまってはつまらぬだろう?』


「……おいおい。そもそもお前さんが教え始めたんじゃないのか?」


『何も気づいていないのでは、つまらん。少しだけ情報を得て、うーんうーんと悩むからこそ面白いのじゃ』


「面白いって……」


 いい性格しているよな、コイツって。


 呆れるやら何やら。


「そういえば、これから向かう魔の森にはドラゴンが住んでいるって話だが……」


『あぁ、たぶん我のことじゃな。せっかくいい移住先を見つけたと思ったら、『勇者』のヤツに襲われてなぁ』


「襲われて……。俺ら、その魔の森に向かっているんだが……大丈夫か?」


『なんじゃ? 心配してくれているのか?』


「当たり前だろ」


 なにせ聖剣に貫かれ、血を垂れ流し続け、そのまま死ぬところだったというのだから。心配しない方がどうかしている。


呵呵呵カカカッ、まっこと善き男じゃな』


 なぜか満足げに笑うシルシュだった。


『安心せよ。すでに聖剣はおぬしの手にある。ならば今の勇者はおぬしということ。……おぬしは我に聖剣を突き立てるのか?』


「んなこと、するわけないだろうが……」


 まったく俺のことを何だと思っているのやら。


「――アーク・・・は良き男じゃな」


 くくくっと愉快そうに喉を鳴らすシルシュ。なんかよく分からんが、うまい返事をしたらしい。


 そんなこんなで。

 新たなるおもしれー女との交流を深めていると――魔の森に到着した。




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