アークとブラッディベアの戦いの最中。
(やれやれ、だ!)
ご令嬢たちの護衛を任された騎士ラックは内心で毒づいた。今は少しでも魔の森とブラッディベアから距離を取るべきところ。だが、ご令嬢の多くは恐怖で腰を抜かしてしまい、これ以上動くことはできなさそうなのだ。
もう少し安全距離を取りたいところだが、万が一の時はここで戦うしかないだろう。ラックがそう覚悟を決めていると、
『おう! 助太刀するぜ!』
自律型ゴーレムだというクマのぬいぐるみ、クーマが勇んで両手を挙げるが、正直言って戦力としては未知数だ。
「……助かるぜ!」
しかしその心意気を買ったラックはクーマに対して不敵に笑い返すのだった。戦力としては未知数でも、一緒に戦ってくれる存在がいるというのは頼もしいものなのだ。
『ほぉ。小さいのに見上げた心意気よな』
ゆったりとラックたちの元へと歩いてきたのはシルシュ。ドラゴンである彼女であればブラッディベアも楽に倒せるはずなのだが……どうやらアークに全て任せるらしい。
(さすがはドラゴン。
バケモノのように強い近衛騎士団長。たった一人で第一騎士団を半壊させた話はもはや伝説となっている。
そして。
そんな近衛騎士団長に
しかし、この場でアークの強さを理解しているのはラックとシルシュだけであり。
「ら、ラック君……。アーク君を助けにいかないと」
助けたいという意思はある。が、恐怖で身体が動かないシャルロットが弱々しく声を絞り出す。
「あぁ、大丈夫ですよ。アークなら平気です」
「しかし! 相手はあのブラッディベアなんだよ!?」
シャルロットの物言いにラックは「はて?」と首をかしげる。貴族令嬢がブラッディベアの強さを知っているものなのかと。
シャルロットとしては前世のゲーム知識から『ブラッディベアは強敵』と認識しているのだが、そんなことはラックが知る由もない。
「せ、せめて援護しないと」
シャルロットがブラッディベアに右手を向けた。おそらくは攻撃魔法を使おうとしているのだろうが……ラックが止めに入る。
「シャルロット嬢。その震える手ではアークに当たってしまう可能性があります」
「ならどうしろと!?」
「う~ん。こちらとしましては、戦いは騎士に任せて見守っていただければと」
「しかし……ボクはこのときのために攻撃魔法を鍛えてきたのに……」
シャルロットの物言いに再び首をかしげるラック。貴族令嬢が攻撃魔法を鍛えるなど、あくまで護身用。暗殺者や暴漢の相手を想定しているのであって、魔の森で魔物相手に戦うためではないのだ。
それはとにかく。
シャルロットの心意気は買うが、実戦経験のないご令嬢にできることはない。
そしてそれを理解したのだろう。シャルロットも無理に攻撃魔法を放とうとはしなかった。聡明な人だ。
シャルロットには申し訳ないが、これでいいとラックは思う。戦いたいのなら少しずつ実戦経験を積むべきであり、いきなりブラッディベアを相手に戦うなど自殺行為でしかないのだから。
何となく纏まりつつあった雰囲気。
そんな流れをシルシュが破壊した。
『ふむ……。よく分からぬが、攻撃魔法がダメなら
「! その手があったね!」
シャルロットの顔が一気に華やいだ。
意を決したシャルロットは一歩前に出て、そして――
◇
そして俺は勝利を確信した。身体はまだ動きすぎるくらい動いているが、だんだんと意識とのズレも収まってきたのだ。
(いけるな!)
勝機を見出した俺がブラッディベアとの距離を縮めるために走り出したところで――
「――アーク君! 援護するよ!
避難したはずのシャルロットが、そんな叫びと共に身体強化魔法を俺に掛けた。
しかも、術者は
「はぁあ!?」
自分でも訳が分からないほどに上昇した身体能力。蹴った地面は抉れ、俺はもはや走るというよりは射出されたような勢いでブラッディベアに突撃
「くっ、そっ、がぁあああっ!」
それでも何とか剣を振るう俺。一撃で首を切り飛ばされるブラッディベア。それはとても喜ばしい結果なのだが……。
「と、ま、ら、ねぇええええっ!?」
予想外の