ブラッディベアの襲撃。
馬車を失ったとはいえ、こちらに人的被害はない。戦いを知らないご令嬢が多くいる中で、これは奇跡と言っていい戦果だった。なにせ騎士であろうと多くの犠牲を覚悟しなければならないのがブラッディベアという魔物なのだから。本来なら今すぐにでも祝杯を挙げたいところ。
しかし。
そんな騎士の常識は、ご令嬢たちには関係ないようで。
メイスとミラはお互いを守るように抱き合ったまま、その場でへたり込んでいる。ミラはメイスの胸に顔をうずめているので泣いているかもしれない。
そんなミラの頭を撫でるメイスも、もし一人だったら泣いてしまっているだろうと察せられる弱々しさだった。
そして、エリザベス嬢。
彼女は泣かず、へたり込まず、二本の足でしっかりとその場に立っていた。
一見すると誇り高き、未来の王妃に相応しい貴族令嬢の姿。
だが、その顔は真っ青で、身体は小刻みに震えていた。あれは立っているというより、立ち尽くしていると表現するべきか。
「……どうしたものかな?」
疑問を投げかけてきたのは隣にいたシャルロット。
「ボクとしては、追放後は『魔の森』で生き抜くしか無いと思っていたんだ。ボクたちは見た目が派手だからね。普通の村や町で暮らしていてはすぐに噂になってしまうし、暴漢に襲われる可能性も高いから」
「あー……」
どうやらシャルロットもラックと同じような結論に達していたらしい。
「ボクは
それだけの準備と人材がいれば、なるほど魔の森でも生きていけるのではないかと判断しても不思議はない。
ただ。実際は。魔物との戦闘を覚悟していたシャルロットですらまともに動くことはできず。他のご令嬢は言わずもがな。とてもではないが魔物が跋扈する魔の森で生きていくことはできないだろう。
シルシュが守ってくれればどうにかなるだろうが……。シルシュがどう動くかは分からない。先ほどのようにシャルロットたちだけでも守ってくれるならいいが、やらない可能性も十分ある。
もちろん個人的な感覚としては守ってくれると思うのだが……シルシュにも都合があるかもしれないからな。同情心を誘って無理やりやらせるのも悪いだろう。
「そうだなぁ。昨日の村に庇護を求めるなんてどうだ?」
ラックは反対していたが、こうなってしまっては仕方がない。水の浄化をしたのが俺たちだと公表すれば感謝され、匿うことくらいはしてくれるだろう。あとはシャルロットたちの目立つ外見をどうするか、だが……。
俺の提案を、シャルロットは毅然とした態度で否定した。
「ダメだね。ボクたちの見た目は目立ちすぎるし、万が一王都からの刺客が来たときに村の人たちを巻き込んでしまう。――自分が生きるためとはいえ、無関係の人間を巻き込んでいい理由にはならないよ」
「……そうか」
ならば、しょうがない。
シャルロットたちが生き延びるには魔の森に拠点を作るしかない。
だが、あの様子では他の魔物が出てきたときもまともに動けないだろう。
魔物避けの魔導具があるとはいえ、本当に全ての魔物を避けてくれるかどうか分かったものではない。
もしもこれからも生き抜きたいのなら――
蝶よ花よと育てられてきた貴族令嬢。
彼女たちはその過去を捨て、自分の身くらいは自分で守る覚悟をしなきゃいけない。魔物と対峙し、魔物を打ち倒し、奪った命の上に立つ覚悟を。
…………。
ここは、俺が