ブラッディベアを無事倒し。
皆も『生きる』という覚悟を決めたところで。
『……アークは分かっておらんのぉ』
せっかく一件落着したというのに、なぜか肩をすくめるシルシュだった。
「なにがだよ?」
『こういうときは「強敵相手にピンチとなり、愛する者に危機が! そのとき! 獲得したばかりの聖剣が輝きを発し――!」という流れで聖剣を使い、強大な敵を倒すというのがお約束じゃろう? なにを普通の剣で倒しておるのじゃ?』
「ドラゴンにお約束の展開を語られたくはねぇやい」
というか、あれか? シルシュが手助けしてくれなかったのは俺が聖剣を使うのを期待していたからか? すみませんねー普通の剣で倒せるような有能な男でー。
と、そんなやり取りをしている俺とシルシュにシャルロットが近づいて来た。
「シルシュ君は分かってないねぇ」
お前ってドラゴン相手ですら『君』呼びするのな。図太い神経しているぜ。……まぁ、ブラッディベアと違って意思疎通ができる相手だからというのもあるんだろうが。
そんなシャルロットはまるで演劇の一場面のように右手を掲げ、左手を自らの胸に当てながら叫んだ。おもしれー女。
「突如として現れた強大な敵! 危機に陥るアーク君! そんなとき、ヒロインの魔法が彼を救う――! 物語の定番じゃないか!」
美化しすぎじゃね?
お前がヒロインなの?
むしろお前さんの強化魔法の方が死にかけたが?
『なるほどそういうパターンか』
うんうんと頷くシルシュだった。おもしれー女たち。
「さて。それはともかくとしてだ。まずは俺たちが『死んだ』という風に偽装しなきゃいけないんだが」
ラックの考えをそのまま伝える俺。上手い具合にブラッディベアが馬車を壊し、馬を食ってくれたので説得力はあるだろう。
「あとはシルシュが爪痕とかドラゴンブレスの痕を残してくれると助かるんだがな?」
『うむ。そのくらいなら手を貸してやろう――』
「おっと」
巨大化か。
すでに流れを掴んでいた俺は急いで目をつぶり、手で瞼を覆い隠した。直後に眩い光を放つシルシュの身体。
「みゃあぁああぁあぁああっ!? 目が!? 目がぁあああぁああああ!?」
目を閉じるのが間に合わなかったシャルロットが、間近で発光を直視してゴロゴロ転がっているのが
とはいえそれはシルシュが語ってくれた『力』というか、ただ単に見るまでもないというか。
「えーんえーん、アーク君が助けてくれなかったよーひどい男だよー」
なんか意外と余裕がありそうな泣き真似をするシャルロットだった。おっもしれー女。