さて。もはや定番になりつつあるシルシュの巨大化というかドラゴン化だ。いやこっちが本当の姿なんだから『ドラゴン化』という言い方はおかしいか?
それはともかく。地面を抉ったときに岩とか石が飛んだら危ないので、まずはご令嬢たちを離れた場所に避難させる。
「じゃあシルシュ。まずはテキトーに爪痕を残してくれるか?」
死を偽装するためにそうお願いすると、シルシュは『まかせよ!』とばかりに頷いた。そのまま腕を思い切り振り上げて――
いやいや!?
振り上げすぎだが!?
お前さん大地でも割るつもりか!?
慌てて逃げ出す俺。
容赦なく振り下ろされるシルシュの腕。
――轟音。
背中に風圧というか衝撃が襲いかかる。
「ぬわぁああ!?」
衝撃で吹き飛ばされ、また魔の森の木に叩きつけられる俺だった。
とっさに
地面が、割れていた。
抉れるどころの話ではない。もはや最初から崖でもあったんじゃないかってほどの深さと広さの爪痕×3。その幅は
これがドラゴン。
これがドラゴンの力か。
「…………。…………。……お、おいおいー、気をつけろよー」
ちょっと弱めの注意となってしまう俺だった。
「ヘタレ」
遠くでミラが何かを呟いたが、聞こえなかったということにして。
ドラゴン・ブレスは……いいか。この爪痕だけで十分だし、ブレスを吐かれたら周囲にどれだけの被害がおよぶか分かったもんじゃない。食糧確保や身を隠すことを考えれば森は残してもらわなきゃいけないからな。
となると、あとは魔の森に入っての拠点作りだが……。
「おーい。シルシュは魔の森で暮らしていたんだよな? どこかいい場所を知らないか?」
遥か高いところに頭があるシルシュに問いかける。
『ふむ? オススメの場所か。ここからひとっ飛びしたところにいい感じの岩山があるのぉ』
「岩山かぁ」
人間が日常生活をするのは厳しいかもしれないが、魔物の接近は察知しやすそうだな。気配察知ができるのは俺だけだし、俺が食糧確保に出るときはラックたちが拠点を守らないといけないのだ。
それに、もし洞窟でもあれば風雨を
ダメだったら別の場所を探せばいいだけだし。岩山に登れば魔の森を見通していい感じの場所を探すこともできるだろう。
「じゃあ、とりあえずその岩山に案内してくれるか?」
『ふむ。ではひとっ飛び――は、無理か』
「無理だな」
シルシュの鱗はツルツルだからな。登るのは難しいし、何とか登ったところですぐに風圧で吹き飛ばされてしまうだろう。
『ならば森の中を進むのか……。ふむ、先導役をするなら我も人の姿で森を歩かねばならんが……
ぱかっと口を開くシルシュ。その開口が向けられているのは――魔の森だ。
あ、嫌な予感。
皆もそれを感じ取ったのか、魔の森とは反対方向に走り出した。もちろん俺も逃走開始だ。
っと、ミラはまだ小さいからな。お姫様だっこしてやってから全力疾走だ。
「あー! ミラ君! ズルい!」
「言ってる場合か!」
「そうですよ! まずは落ち着いてからお姫様だっこしてもらいましょう!」
「メイスは何を言って――」
意外とボケボケなメイスにツッコミを入れていると――背後に閃光が走った。