近衛騎士団長ライラは魔の森へ向けて馬を走らせていた。
あのバカ太子――いや、王太子の命令に従うのは癪だが、アークを連れ戻すためなのだから仕方がない。よく考えればアークが本気で反抗したとき何とかできるのはライラだけなのだから。
しかし、
(アレが将来の主君になるかもしれないのか……)
一度
あのアホは
(アークを影ながら支える……。ふふふ、まるで夫婦ではないか)
アークが知れば「あんたもおもしれー女なんすか……」と呆れそうなことを考えるライラであった。
ともあれ、ライラは順調に魔の森への道を進む。
アークたちは一泊しての道のりだったが、それはあくまでご令嬢たちを気遣って多くの休憩を挟んだからこそ。騎士であるライラであれば馬を酷使し、休息なしで、半日ほどで魔の森へ到着することも可能だった。
「おっと」
道から少し外れたところに焚き火跡を見つけたライラは馬を止めた。
「ふむ、馬鹿正直に魔の森へと向かっているようだな」
王都から魔の森へ向かう者などいないと断言してもいい。魔の森の魔物は強すぎるうえ、ドラゴンまで出たので冒険者も寄りつかないのだ。しかも途中にあるのは寒村だけ。村人には金がないので行商人も来ないだろうし、来たとしても盗賊を恐れて道を急ぐはず。
そんな魔の森へ続く道にある、焚き火跡。しかもまだ新しいとくれば、十中八九アークたちが休憩した名残であろう。
他国との戦争を想定している第一騎士団であれば焚き火や野営の痕跡は完璧に消してから出立するはずだ。が、基本業務が王族警護と王城警備である近衛騎士団はそのあたりが雑というか、気が回っていない。
(これは訓練内容を考え直す必要があるか……。まぁ、そのおかげでアークたちの後を追えるのだがな)
そういえば罰としての早朝一時間前訓練は上手いこと逃げられたなー帰ったらやらせるかーなどと考えるライラ。そんなだからアークから口説かれなかったのだと彼女は気づいていない。
◇
「ふむ。また休憩した痕跡か。ずいぶんと数が多いな?」
何度目かの焚き火跡を見つけたライラは考え込んだ。この頻度で休憩していてはどこかで一泊しなければならないだろうと。
「騎士であれば野宿か馬車での車中泊で十分だが……」
はたして
「たしか、この近くに寂れた村があったはず」
そこで一泊したのだろうし、もしかしたらその村でご令嬢たちを匿ってもらっているのかもしれない。
そして、そうならばアークも一緒にいるはずだ。追放されたご令嬢たちを村に任せて帰ってくるなど、できる男ではないのだから。
「とりあえず村に行ってみるか。騎士服では警戒されるか? ……いや、今さらだな。それにアークとラックも騎士服なのだから、村人に仲間だと勘違いしてもらえるかもしれないな」
そう結論づけたライラは記憶を頼りに寒村を目指した。