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第45話 衝撃の事実 < お肌


 人間を逸脱。

 それについて問いかけると、俺たちに近づいてくる気配が。


「――興味深いお話ですわね」


 エリザベス嬢。

 ラックを伴った彼女はいかにも貴族らしい一礼を行い、「私たちにもお話しくださいませ」とお願いしてきた。


「建国宣言はいいんですか?」


 思わず問いかけてしまう俺だった。だって今もまだシャルロットの演技(?)とメイス・ミラの大絶賛(?)は続いているし。


「……正直、ノリについて行けないと言いましょうか……」


「あぁー……」


 少なくともエリザベス嬢とシャルロットは友人で、他の子たちとも親しげな様子だったが……だからといって常時おもしれー女について行けるとは限らないのか。頑張れエリザベス嬢。


 こほん、とエリザベス嬢が咳払いをした。背後で繰り広げられる建国神話(?)から目を逸らすように。


「おかしいとは思っていたのです。あの池に落ちて以降、回復魔法を使っていませんでしたから」


 そういえば、そうか。


 エリザベス嬢は元聖女候補なので回復魔法も得意。必然的に俺たちの中でも浄化・回復担当という位置にいたが……だからこそ違和感に気づいたのだろう。


 たとえば。

 俺なんかはシャルロットから身体強化ミュスクルを掛けられた勢いで大木に激突。その幹をへし折るほどの勢いでぶつかったというのにケガ一つしなかった。


 その後もシルシュに吹き飛ばされて大木にぶつかったが、このときもケガ一つなし。


 てっきり身体強化ミュスクルのおかげで防御力も上がったと思っていたが……よく考えてみれば限度があるだろう。そもそも身体能力強化 = 筋力強化なのだから、防御力が劇的に上がるはずもない。


 そして皆にしても、ドラゴン・ブレスの余波で吹き飛ばされてもケガ一つしなかった。


 さらには魔の森を歩く中でも靴擦れ一つせず、疲労もせず、休憩無しでこの平地まで歩き通してみせた。馬車での旅ではあれだけ休憩を挟んでいたというのに……。


 なるほど。

 魔の森を歩いているときのエリザベス嬢はなにか考え込んでいる様子だったが、あのときすでに違和感を抱いていたのだろう。


 頭を掻きながらシルシュに質問する。


「つまり、なんだ? 俺たちがケガをしなかったり疲労しなかったのはシルシュの血を浴びたせいってことか?」


『おそらくはそうじゃろうな』


「単純な疑問なんだが、血を浴びたくらいでそんな劇的な変化があるものなのか?」


『人間にとって、ドラゴンの『血』とはなんじゃ? おっと、おぬしの前世ではなく、この世界でのお話じゃぞ?』


「この世界ねぇ?」


 たしか浴びると不老不死になるとか、半神の英雄すら殺す毒になるって話じゃなかったか? そういう話に詳しくない俺でもいくつか神話を思いつくし、メイスに聞けばかなりの数の『ドラゴンの血』に関する話を教えてくれるはずだ。


『うむ。言うなれば神話に出てくるほどの妙薬よ。さすがに不死とまでは行かぬじゃろうが、防御力と回復力は上がっていよう。不老については――実際年を経てみないと分からぬが、おそらく不老か、それに等しい効果があるだろう』


「マジかよ……」


 突如として宣告された事実。人間逸脱宣言。

 これはエリザベス嬢的にどうなんだろうと横目で様子をうかがうと、


「そ、そういうことでしたのね……っ!」


 わなわなと震えるエリザベス嬢。その表情は――なんか、喜んでない?


「おかしいと思っていたのです! 追放されてから肌のお手入れなど何もしていないのに、ずっとつるつるスベスベでしたから!」


 あ、そうなんだ?

 女性の肌をジロジロ見たりはしないので、「そうだったんですねー」以外の感想はない俺だった。


 というかシャルロットは追放されるのを分かっていたんだから化粧品くらい用意してやれば良かったのでは?


 心の中でそんなツッコミをしていると、エリザベス嬢は自分の頬を手のひらで押したり撫でたりしはじめた。


「てっきりあのバカのおりから解放されたおかげで精神的に楽になり、肌の調子も良くなったと思っていたのですが! まさかシルシュ様のおかげでしたとは!」


 元婚約者からも『あのバカ』扱いされる王太子だった。まぁしょうがない。

 というか追放その他のストレスより、王太子を相手にする方が精神的負担だと思われていたのか。どんだけだよ……。


「シャル! メイス様! ミラ様! これは一大事ですわ!」


 エリザベス嬢は三人の元へ駆けていき、事情を説明。その後は四人でシルシュにお礼を言ったり拝んでいたりした。


 女性にとって肌の問題やら加齢による老化は一大事と言うからな。拝むに値するのかもしれないが……。


「なんというか、エリザベス嬢もおもしれー女なのな?」


 隣にいたラックに問いかけてしまう俺だった。


「あぁ。素敵だろ?」


「へいへい。ごちそうさま」





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