国王になるのなんざゴメンだ。書類仕事なんてしたくないし、そもそも俺はそんな器じゃない。
『ウケる』
なんか知らんけどシルシュに指差されながら笑われてしまった。いや「俺が国王になる!」って宣言して笑われるのなら分かるが、なんで拒否して笑われなきゃならんのか。
「そういうのはラックにやらせとけばいいんだよ」
「なんでだよ」
「いいじゃねぇか嫁さんが公爵家の血を引いているんだから。お姫様を救った騎士が王になる。定番の物語じゃねぇか」
「……おいおい、俺とエリザベス様はまだそういう関係じゃ……いやしかしいずれはそうなるんだから……」
照れ照れしているラックだった。チョロい。
「って、ダメだダメだ。そんなエリザベス様を利用するようなこと。天が許しても俺が許さん」
めっちゃキリッとした顔で断言されてしまった。そしてそんなラックを見てキラキラと目を輝かせるエリザベス嬢。お前ら隙あらばイチャイチャするよな……。
◇
まぁ建国は置いておくとしてだ。
こういうとき、まず真っ先にやるべきは飲み水の確保。そして寝床の準備だな。
「真面目にやってくださり助かりますわ……」
エリザベス嬢が目を潤ませていた。このくらいで感謝されるのもどうなんだろうな?
とにかく。飲み水。飲み水の確保だ。人間は水がないとすぐに動けなくなり死んでしまう。騎士団長の訓練で嫌というほど理解しているのだこっちは。
「おーい、ミラ。どこかに川とか湖みたいな場所はないか? 湧き水でもいいんだが」
本来なら川があっても飲み水にできるとは限らない。この世界はどうか知らないが、前世にはエキノコックスという感染症があったし。
しかしメイスの『
「ん。探してみる」
気合い充填、とばかりに拳を握りしめてからミラが探知魔法を発動した。
ほぉ、ミラを中心として波形とでも言うべき流れが広がったり反射してきたりするのが
しばらく探知していたミラは、人差し指で北の方を指差した。あっちは……魔の森の奥。ドラゴン・ブレスの爆発の中心地だな。
「あっちに岩山があって、そこから川が流れてる」
「爆心地の方か? ブレスで吹き飛ばなかったのか?」
「ブレスの爆心地より、もっと奥」
「もっと奥というと……ずいぶん遠いな」
あのとき俺の『力』で感じたところ、ブレスの爆発は半径数十キロルの範囲におよんでいた。つまりここから数十キロル移動してやっと爆心地。そして岩山はさらにその奥と。
いくらシルシュの血を浴びて疲労を感じにくいとはいえ、さすがにここから数十キロル歩くのはなぁ。
『ふむ。ならば集団転移で移動させてやろう。なぁに、我であれば容易いことよ』
自分の力に自信があるのかドヤ顔をするシルシュ。そんな彼女を見て俺はふと気がついた。シルシュの背中には乗れないということでここまで歩いてきたのだが。
「……わざわざドラゴン・ブレスで道を作らなくても、岩山まで集団転移すれば良かったんじゃないのか?」
『あっ』
あっ、てお前……。