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第49話 集団転移


 なんか知らんけど詰問された。


 なんか知らんけど「うわ、鈍い……」とミラに呆れられた。


 なんで年端もいかない少女から心底呆れ果てた目で見られなきゃならんねん……。


「な? これが客観的な評価ってヤツだ」


 うるせぇぞラック。

 あまりゴチャゴチャ言うならあのこと・・・・をエリザベス嬢に話してもいいんだぞ?


「う゛、いやだからあれはそういうのじゃなくてだな――はっ!?」


 ラックの背後には、いつの間にかエリザベス嬢が。素人の貴族令嬢の接近に気づけないんだから修行が足りないなぁラックぅ。


「ラック様。詳しいお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


「え、いや、あれはその……はい、分かりました……」


 優雅に歩き去るエリザベス嬢と、大人しく付いていくラックだった。悪は滅びた。


 それはともかく飲み水確保だ。もうそろそろ暗くなるから早くしないとな。

 俺の心を読んだのかミラが手を上げた。


「ん、やる。シルシュにコツを教わった。今度は悪酔いしない……はず」


 いつの間にかシルシュとそんなやり取りをしていたらしい。まぁ普通にやってもちょっと気持ち悪くなるくらいなのだからその辺は特に心配してないが……やはり気になるのは魔力の残りだな。


 俺が再びそれを指摘しようとすると、


「魔力が足りないならボクが手助けしよう」


「では、私も」


 シャルロットとメイスがミラの身体に触れ、おそらくは魔力を受け渡していく。


 おっ。以前の俺は魔力の流れなんてまるで理解できなかったが、今は皆の身体から『何か』がミラに流れ込んでいるのが分かるな。あれが魔術師なら視えるという『魔力』ってヤツか?

 俺も少しくらいはレベルアップしたのかね? いやゲームはとにかく現実世界にレベルアップ的なものがあるのかは知らないが。


 魔力の受け渡しが終わった頃にエリザベス嬢とラックも戻ってきたので、早速転移魔法ということになった。


「ん」


 ミラが俺に手を伸ばしてきたので、あのときのように握る。そして俺からメイス、シャルロット――という順番で円陣を組むように手を繋いでいく。


「――我が行く道に迷いなし。我が征く道に憂いなし。地平の果てに夢を見て、今ここに奇跡の御業を再現せん」


 最初に集団転移したときはぐわん・・・、と視界が回された。内臓を全部ひっくり返されたとでも言おうか。ジェットコースターでぐるんぐるんと回された直後とでも言おうか。突然襲いかかってきた不快感と目眩によって倒れそうになってしまった。


 今度は、どうだろうか?


「――虎よ、虎よディ・スティーナ千里を駆け、千里を帰れメインジ・ジェア


 ぐわん、というほどではなかった。

 しかし結構な揺れがあったのは事実。

 だが、気持ち悪くなるというほどではない。

 このくらいなら誰も酔わないはずだ。

 コツを教わっただけでここまで上達するのだから、凄いことじゃないだろうか? 剣術で言えば口で説明されただけでレベルアップしたようなものなのだから。


「――っと」


 確かな地面の感触。

 目の前には、先ほどまでは存在しなかったはずの岩山。ドラゴンであるシルシュが住んでいたというのだから、てっきり天高くそびえているのかと思ったのだが……高さはそれほどでもなく、横に広い感じだった。倒木というか、前世の古墳というか。


 だが、高い山なら遠くからでも視認できていたはずだからな。この程度の高さで当然なのか。


 いやしかし『この程度の高さ』とは表現したが、おそらくは城の城壁くらい――ドラゴン形態のシルシュが寝そべったくらいの標高はあるだろう。だというのに『それほどでも』と感じてしまったのはその長さのせいだ。


 一キロル、いや、二キロルはあるだろうか? 何とも細長い形をした岩山だ。


 おっと、岩山の感想は後回し。まずはミラを褒めるとしよう。


「凄いじゃないかミラ! この前と比べるとかなり上達したなっ!」


 思わずミラの頭をぐりぐりと撫でてしまう俺。よく考えたらレディに対して失礼だったかもしれないな。


「む~……」


 喜んでいるような、でも不満そうな。なんとも形容しがたい顔をするミラだった。


「いやいやミラ、本気で褒めているんだぞ? ちょっとコツを掴んだだけでここまで成長できたんだ。やっぱりミラは凄い魔術師なんだな!」


「……本気で褒めてくれているのは分かる。分かるから複雑……」


「ん~?」


 よく分からないが、これも女心というものだろうか?



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