目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第53話 ゴーレム


 聖剣で浄水した水は飲んでも大丈夫そうだなとなったところで。


「綺麗な水を確保できたなら――お風呂イベントだね!」


 おもしれー女がまた妙なことを言っていた。


「まぁ風呂に入りたい気持ちは分かるがなぁ。湧き出ているのは温泉じゃなくて水だぞ? さすがに厳しくないか?」


 俺やラックなら川での水浴びも平気だが、貴族のご令嬢にはちょっと辛いだろう。


「そこはほら、こう、炎系の魔法でお湯にしてしまえばいいじゃないか」


「お湯にするって言ったって……湧かすための風呂釜もないんだぞ?」


 まさか空間収納ストレージに風呂釜まで入って――? いやさすがにないか。


「ふっふっふっ、ではアーク君に僕の実力をお見せしようかな! キミ、魔法のことはミラ君にばかり頼っているし!」


 やる気満々なシャルロットが何事か呪文を唱えると、地面の一部が盛り上がり、見上げるほどの大きさの土人形となった。いやこの世界では『ゴーレム』と呼んだ方がいいのか。


 おおー、すげぇ。集団転移をしちゃうミラの影に隠れがちだが、シャルロットも『銀髪持ち』だものな。こんな大きさのゴーレムを作るのも朝飯前なのか!


 俺がシャルロットを絶賛しようとして顔を向けると、


「……あっれー?」


 なぜか首をかしげるシャルロットだった。どうしたよ?


「いや、予定より大きなゴーレムになっちゃったから……。う~ん? シルシュ君のドラゴン・ブレスの魔力が影響しているのかな?」


 そういえば、ブレスの残した魔力のおかげもあって魔物が近づかないんだったか?


「ま、いいか」


 いいのか? 自分の想定より大きくなったんだろう? 剣術で言うと――試し切りしたら予想より斬れちゃったとかか?


 自分の今までの感覚と異なるのはよくないと思うが、俺は魔術の素人だからな。あまり注意というか言及はしにくい。


 というわけで。

 俺はシャルロットより才能があるというミラに近づいた。


「シャルロットはあんなことを言っているが、実際どうなんだ?」


「ん。ゴーレムは創造主の命令に忠実だから暴走とかの危険はないと思う。シャルロットの感覚については……私も実感済み」


「実感?」


「ん。いつもより術式が拡大したというか、魔力の通りが良かったというか……。すぐに調整したけど」


「調整しちゃったかー」


 さすがは天才少女。そしてシャルロットは調整できず、術を行使してから気づいたあたりミラとは明確な力の差があるらしい。


「やっぱりこの場の魔力が多いせいなのか?」


 先ほどミラの身体にシャルロットとメイスから注がれた魔力。それを参考にして周囲の魔力を感じて・・・みると――確かに、地面から魔力が湯気のように漏れ出しているようだった。


 あれだけ魔力が『もわっ』としているなら感覚がズレても仕方がないと思う。


「たぶんそう。でも、ドラゴンの血を浴びたせいでもあるかも。あとでちゃんと調べた方がいい」


「そうか。俺は魔術に関しては全然詳しくないからな。その時はミラに頼ることになるな」


「ん。任せて」


 気合いを入れるように両手を握るミラだった。素直で可愛いぜ。


「……ロリコン?」


「ちっがーう」


 まさかメイスだけでなくミラからもロリコン扱いされてしまうとは。

 まったくシャルロットも変なことを教えてくれたものである。





「ふーはっはっ! さぁ行けゴーレムよ! 我が野望のために!」


 なんかメッチャ悪役っぽい高笑い&叫び声を上げるシャルロットだった。おもしれー女。

 いや、『悪役っぽい』じゃなくて正真正銘の悪役令嬢だったか。素の善人さのせいで完全に忘れかけてたけど。


 そして『我が野望』ってことは、まだ建国やら神殿建設やらは諦めていないのか?


 突っ込むべきか悩んでいるうちにシャルロットは悪役っぽい顔をしながらゴーレムを操り始めた。……やってることは温泉のための穴掘りなんだけどな。


 大きめのゴーレムを使ったおかげで、さほど時間を掛けることなく露天風呂に使えそうなほどの穴が掘られた。ついでに川から水を引くための水路と、排水のための水路を掘っていくゴーレム。人格がないとはいえコキ使われているものだ。


『……俺も手伝った方がいいのか?』


 と、足元で声を上げたのはクマのぬいぐるみ・クーマ。いやミラの作ったゴーレムといった方が正確か。ゴーレムに対して仲間意識でもあるのかね?


「まぁ、シャルロットがやる気なんだから、ここは任せればいいんじゃないか?」


『……そうするか』


 ちょっと不満そうながらも作業を見守るクーマだった。創造主が善人だとゴーレムも善人(善ゴーレム?)になるのかね?




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?