女性陣が全員楽に入れるほどの穴(湯船?)は掘られたし、川と水路を繋いだおかげで水も満杯になり、溢れそうになった水は排水路でまた川に戻されていく。
さらには土の魔法で固めたらしく、水が溜まっても水に泥が溶け出す様子もない。かなり本格的な入浴施設と言えるだろう。
この短時間で見事なものを作ったなぁと素直に感心するしかないが……。
「これじゃあお湯を沸かすこともできないだろ? どうやって温泉にするんだ?」
ここで言う温泉は『各種効能があるお湯』ではなく、単純に『温かいお湯』という意味だ。まぁそんな細かいことを気にする人はここにいないだろうが。
ふふーん、とばかりにシャルロットが胸を張る。
「そこはほら、炎系魔法の『ファイヤーボール』を水の中に何回か投入すれば、そのうちお湯になるって寸法さ」
俺が魔法に詳しくないが、そういうものだろうか? 火で焼いた石を水の中に入れてお湯にする、みたいな感じか? 石焼き風呂だったかな?
「ではさっそく! ――ファイヤーボール!」
シャルロットが異世界ものでおなじみの呪文を唱えると、掲げた右手の上に大きな火の玉が。……いやほんとに大きいな? 直径が馬車の車輪くらいあるぞ?
「おっと水ですぐに消えないよう魔力で周りをコーティングして、っと」
燃え盛る炎だったファイヤーボールが、今度はまさしくボール、赤く輝く球体となった。大きさも車輪くらいあったものが拳大にまで圧縮されている。
……なんだろう?
オチが見えた気がするな……。
「ちょっと待ったシャルロット。なんか嫌な予感が――」
ツッコミが終わる前にシャルロットはファイヤーボール(球体)を水目掛けて投げ込んで――
「ふ、伏せろ!」
直感に従い、叫びつつ地面に伏せる俺。
ここ最近の経験から色々学んだのだろう、他の皆も俺の声に従って腹ばいになり、手のひらで頭を防御した。……何があっても平気そうなシルシュと、自覚がなさそうなシャルロットを除いて、だが。
――爆音。
同時に、爆風が一瞬で吹き抜け、煙……いや、水蒸気が一気に周囲を包み込んだ。
「ぶに゛ゃあ゛ぁあああぁああっ!?」
尻尾を踏まれた猫のような叫びを上げながら吹っ飛ばされるシャルロット。爆心地(?)の近くなんだからかなりのダメージがありそうなんだが……。
いきなり高温のものに触れて、水が一気に蒸発。爆発的に体積が増えたってところか。いわゆる水蒸気爆発ってやつだな。
◇
「つまり水が高温のものに触れると一気に体積が増えるわけだ。1700倍だったかな?」
「具体的な数値まで判明しているのですか」
水蒸気爆発に興味津々そうなメイスに説明する俺。メイスも知識は凄いんだが、ここは剣と魔法の世界。科学知識はさほどないというか、この世界では前世ほど科学が発展していないのだ。
まぁ魔法を使えば火も熾せるし、回復魔法やポーションのおかげで医学も発展しにくい。科学が全体的に遅れているというか、科学の代わりに魔法があるって感じなのだろう。
「なるほど納得です。体積が急激に1700倍にも増えれば、それはもはや『爆発』と呼んでも過言ではないでしょう」
「おぉー」
これだけの説明で理解できるのだから、やはりメイスは頭がいいのだろう。むしろ具体的な理屈は知らないで知識を披露していた俺が恥ずかしくなるな。
「本当は密閉されていないとあれだけの爆発は起きないはずなんだが……周りを包み込んだ魔力がなんか変な感じにアレコレしたんじゃないかな?」
「あれこれ」
「あれこれ」
俺とメイスが何となく頷き合っていると、
「……き~み~た~ち~! 少しくらい心配してくれてもいいんじゃないのかな!?」
この恨み晴らさでおくべきか! って感じに叫ぶシャルロットだった。
「とは言ってもエリザベス嬢に回復魔法を掛けてもらったんだろ? しかも『力』のおかげで無事なのは分かっているし」
「そういうのは抜きにしてさ~、心配して欲しいのが女心ってものなんだよ~」
ばんばんと地面を叩くシャルロットだった。子供か。
「……そうなん?」
隣にいたメイスに問いかける俺。
「え~っと、そのですね……」
言いづらそうに視線を逸らすメイスだった。アレは乙女心じゃないらしい。