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第55話 洞窟


 シャルロットの失敗はともかくとして。

 風呂としては丁度いい温度らしいので、女性陣は早速入浴することになった。ちなみにゴーレムが水路を塞いだので、川から新しく水が流れ込むことはない。


 問題は俺たちだ。


 風呂の周りには土魔法で壁を作るというので視覚的には問題ないのだが、近くにいるとキャッキャッとした音は聞こえてしまいそうなんだよな。いわゆる生殺しってやつだ。


 あと、俺の『力』だと下手をすると風呂の中の状況も『感じられる』かもしれないからな。なるべく距離を取って、意識を風呂に向けないようにした方がいいだろう。


 ……頑張って力を制御しろって? いやいや、無理無理。美少女たちが風呂に入っているんだぞ? しかも目には見えぬが音は聞こえる。どうしたって気になるのが男ってもんだ。


「分かる」


 ラックも同感らしかったので、俺たちは女性陣が入浴している間に岩山の探索をすることにした。洞窟があればテントなんかより風雨を防げるし、入り口が一つなら防御もしやすい。もちろんシャルロットが準備していた魔物避けの魔導具もあるんだが、完璧かどうかは分からないからな。防御手段は多ければ多いほどいい。


「アークの気配察知は熟練度が上がったんだよな?」


「あぁ、まぁ、そんな感じらしいな」


 この世界には『レベルアップ』という言葉がない、あるいはメジャーではないので熟練度という言い方になるらしい。


「じゃあ、洞窟がどこにあるかも分かるんじゃないか?」


「そうか、そういう使い方もあるか」


 ミラに探知魔法をお願いするという手もあるが、入浴中だからな。まずは俺が試してみて、駄目だったら頼むとしよう。


「――――」


 集中するために目を閉じ、周囲を感じてみる。すると――


「げっ」


 思わず声を漏らす俺。


「げ? どうしたよ?」


「いや、師匠――近衛騎士団長の気配がした」


 まだ距離があるから気づくのが遅れたぜ。危ねぇ危ねぇ。


「マジかよ? どの辺だ?」


「あの村のあたりだな」


「人数は?」


「一人っぽいな」


「じゃあ俺らがどうなったか様子見に来て、村で聞き込みをしているってところか」


 素直に納得するラックだが、おかしいとは思わないのか? なんで近衛騎士団長ともあろう人間が一人で追いかけてきたのか、とか。


「いや、納得するしかないだろ。――万が一アークが国に敵対した場合、どうにかできるのは騎士団長だけなんだから。他の騎士を連れてこないのは、一騎打ちになったら邪魔にしかならないからだな」


 真顔でそんなことを言うラックだった。


「おいおい、そんなことはないだろ。この国には騎士団長以外にも腕利きはいるんだからよ」


「……これだから無自覚系バケモノは」


「バケモノ呼ばわりは酷くねぇか親友?」


「少しくらい自覚しろ。バケモノと打ち合えるのはバケモノだけだ。……しかし、騎士団長が来たか。まぁ、馬車は壊れているし、ドラゴンの爪痕も残っている。よほどのことがない限り『ドラゴンに襲われて死んだ』と考えてくれる、だろうが……」


「だろうが?」


「……もしかしたらアークの仇討ちにドラゴンを探すかもしれないな、とな」


「仇討ちのため魔の森に入ってくるかもしれないってか? いやいや、ないだろ。いくら師匠でもドラゴン相手は……。というか、騎士二人のために仇討ちなんてしねぇって。あの人は騎士団長軍指揮官らしく冷酷な判断ができるんだから」


「犠牲になったのが俺だけだったらそこまでしないだろうが……これだから自覚のない男は……」


 やーれやれと肩をすくめられてしまった。なんかムカつくな?





 とにかく、騎士団長については森に入ってこないことを祈るとしてだ。

 岩山の周辺を探知した結果、いくつか洞窟っぽいところを見つけることができた。


 シルシュがいるので女性陣は安全のはずだが、それでもあまり遠くに行くのは不安なので一番近い洞窟へと向かってみる。


「おっ、あれか」


 岩と岩の間に亀裂という感じで開いた穴。人は余裕で入れそうだな。


 この力を使ってみた感じ、やはり遠くからより近くからの方が詳細に『感じる』ことができるので、周囲を警戒しつつ洞窟の入り口へ。ここでもう一度力を発動して洞窟内部を探知すればさらに詳細が……。


「……うん?」


「どうしたよ?」


「いや、なんというか、ぼやけるというか……。地下がありそうなんだが、その地下を探知しようとしても上手く感じられないというか……」


「そうなのか。まぁ地面の下なら探知しにくくても仕方ないんじゃないか?」


「……それもそうか」


 せっかくここまで来たのだからと警戒しつつ洞窟の中に入る。


 ……おん?


 違和感というか既視感に足を止める俺。危険な感じはないし、俺たち以外に生物がいる様子もない。


 ただ、この洞窟、どこかで見たことがある気がしたのだ。


 洞窟なんだからどこも大して変わらないだろう、と言われればそれまでだが……。そもそも洞窟に入った経験なんてほとんどないはずだ。騎士団の訓練でも、洞窟での宿泊は「難易度が低くて訓練にならないな!」との有難いお言葉で使わなかったし。


 というわけで、こういうとき真っ先に疑うべきは『前世の記憶』となる。


(ゲームで洞窟探索は……結構あったな。奥にドラゴンがいたりダンジョンがあったり神代のアイテムがあったり……)


 そのうちドラゴンシルシュがいた洞窟は経験済みだから、その他となる。魔物がいるパターンも結構あったはずだ。


(……ここは一旦戻ってシャルロットと相談するか)


 そもそも洞窟を探すとは女性陣に言わないままここまで来たからな。あまり長居はしないで戻った方がいいだろう。また強制転移とかされる可能性もあるからな。






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