近衛騎士団長・ライラはドラゴンの気配を辿り、村近くの湖へとやって来ていた。
「やはり濃密な気配はあるな。だが、ドラゴン特有の威圧感はない。すでに旅立ったあとか、あるいは
アークならドラゴンも倒せる。
微塵も疑う様子のないライラは目を閉じ、さらに詳細な場所を探そうとした。ドラゴンがいないとは分かっているが、それならそれで目視確認しないといけないのだ。もしかしたらドラゴンの死体 = 素材が放置されているかもしれないし。
「……地下、か」
ドラゴンが隠れていたのだからよほど大きな入り口があるのだろう。
あるいは、転移魔法で洞窟の中に入ったか。
どちらにしても、ライラにとっては面倒くさい状況だ。これはドラゴンの気配を辿っているだけなので探知魔法というわけではなく、入り口がどこなのかまでは分からない。
そしてライラは転移魔法が使えるほど魔法に長けているわけでもなかった。
「……ここは力押しするか」
ライラが剣を抜き、天高く掲げた。そのまま一気呵成に
――地面が揺れ、大地が裂けた。
たった一振りで、シルシュ並みの亀裂を生み出したライラ。もはや人間業とは思えぬし、騎士からの『バケモノ』評価に相応しい威力であった。
そんな、人外の亀裂を生み出したライラはというと……。
「ぬわぁあああ!?」
急激に入った亀裂。それによって崩落した地面に巻き込まれ、地下洞窟に落ちていったのだった。
◇
「ぬぅ! 死ぬかと思った!」
積み重なった岩を押し退けてライラが立ち上がった。普通は崩落に巻き込まれ岩石の下敷きになれば死ぬものなのだが、どうやらケガ一つなさそうだ。
「む、洞窟か……。奥に続いているようだな」
まるで散歩をするかのような気楽さでライラが洞窟を進む。最も警戒するべきドラゴンではこの洞窟を進んでくることはできないし――他の魔物など、敵にすらならないからこそ。
強者の余裕。
油断していたとはいえ、負けたことがあるのはアークだけ。
そこで負けた時点で『どんな相手でも油断してはいけない』と反省すれば良かったのだが。生まれながら強者であり、10年前さらに力を付けたライラだからこそ、警戒というものは煩わしさしか感じられなかった。
ゆえにこそ。
シルシュが横たわっていたドーム状の地下空間に足を踏み入れた途端。
――カチッ、と。
魔術的な仕掛けが発動したのは、そんなライラの油断、慢心が招いた結果だった。
途端に膨れあがる、爆発的な魔力。威力を伴った暴風はライラの肉体を岩壁に叩きつけ、周囲を徹底的に破壊し――地下空間の崩落を巻き起こした。
「ぬわぁああああぁああぁああああ!?」
またしても生き埋めになるライラ。
もしもアークが知ったら「……まぁ、師匠って力とパワーでねじ伏せるから警戒とかしないですもんね……」と呆れることだろう。