『――ざまぁあああぁあああっ!』
入浴中。突如として立ち上がったシルシュにシャルロットは目を丸くした。
「シルシュ君、いきなりどうしたんだい?」
シャルロットが問いかけると、シルシュは自分が立ち上がったことに今気づいたかのように咳払いをした。
『ごほん、我としたことが取り乱したか……。いやなに、我がいた地下空間に魔術的な仕掛けをしておいたのよ。『勇者』が再び足を踏み入れたら大爆発、勇者を生き埋めにしてしまう仕掛けをな』
「それはまた……」
人類としてはドラゴンと対抗しうる勇者を襲う惨劇を嘆くべきだろうが……シャルロットは不思議と「まぁしょうがないかー」くらいの心境であった。なにせシルシュの人となりを知った今、シルシュに聖剣を突き刺し何年も苦しめていた存在というのは許容しがたいのだ。
これでシルシュが町を襲ったとか、多くの人を殺したならまだ納得できるが、エリザベスに聞く限り『魔の森に現れて開拓計画を無期延期に追い込んだから』討伐の対象になったみたいであるし。
それは他の面々も同じ気持ちなのだろう。今風呂に入っている人間に、勇者の心配をしている者はいなかった。
あとは単純に「勇者様なら生き埋めになっても平気かーただの嫌がらせかー」くらいの心境なのかもしれない。
「シルシュ様。まさか、あの地下空間で生活しているときからそのような仕掛けを?」
エリザベスの問いかけにシルシュが胸を張る。……風呂にいるのは女性陣だけとはいえ、隠すことなく裸体を晒したままなのはどうなのだろうか?
『ははは、まさか。アークに付いていくと決めたときにちょっと細工をしてな』
やはりというか何というか。シルシュとしては『アーク個人に付いてきた』という認識らしい。
「興味深い」
身を乗り出したのはミラ。魔術師としてドラゴンの操る魔術に興味を持つのは至極当然と言えるかもしれないが……術の内容が内容なので苦笑するしかないシャルロットだった。もしかしたら今後風呂を覗いた者を撃退するトラップが仕掛けられるかもしれないねと。
「む!」
きゅぴーん、と。『風呂を覗いた者』という自らの思考によってひらめきを得るシャルロット。
「シャルロット様、どうしました?」
首をかしげるメイスに対し、シャルロットが『ちっちっちっ』と人差し指を振る。
「メイス君。ここはそろそろアーク君とラック君が風呂を覗きに来るタイミングじゃないだろうか?」
「はぁ……? いえ、ラック様はどうか知りませんが、アーク様は覗きをするような人物ではないのでは?」
「…………」
メイス君って、アーク君に対する評価が高すぎない? と、なんだかこっちまで恥ずかしくなってしまうシャルロットだった。
「……ん。お兄ちゃんたちは、いない」
周囲を探知したらしいミラがその事実を伝えてくる。
「いない、とは?」
「あの岩山を登っているみたい」
「…………」
「…………」
思わず顔を見合わせるシャルロットとメイス。
「ミラ君。それは、『岩山に登って高いところから覗いてやるぜー』っという感じかな?」
「違う。洞窟に入っていった」
「…………」
「…………」
再び顔を見合わせるシャルロットとメイス。
「……じゃあ、なにかい? アーク君はこんな美少女たちがお風呂に入っているというのに、覗きをせずに山登りや洞窟探検にいそしんでいると?」
「……いえ、覗きをしないのは当然のことなのですが、何の葛藤もなく岩登りや洞窟探検をされるもの……。男子はそういうのが好きとは聞きますが……」
う~~~ん、と、微妙な顔になってしまうシャルロットとメイスだった。
ここで勘違いしてはいけないのが、覗いたら覗いたで全力の制裁をするつもりだということだ。なんとも複雑なり乙女心。
『
そんな二人を見て、心底楽しそうに笑うシルシュだった。