「なるほど。そう来るか」
「えぇ。そうなりますね」
「――ならば、力づくと行くか」
師匠が剣先を俺に向けてくる。
「私一人に勝てないようでは、『国』には絶対に勝てん。国と敵対して勝てるかどうか。お前たちの『力』を見せてもらうではないか」
準備運動をするかのように、師匠が何度か剣を振り、その場で軽くジャンプする。
「私が勝ったら、アークには王都に戻り、近衛騎士団長になってもらう」
「なら、俺が勝ったら見逃してもらいましょうか」
「いいだろう。――私に勝てたらな!」
師匠の姿が、
人間の動体視力では捉えられないほどのスピード。もはや目で見て反応することなどできない。
だが、俺にはこの『力』がある。
目では何も捕捉できないまま。
俺は鞘から半分ほど剣を抜き――師匠の動きを
「ぐっ!」
人間とは思えない腕力。一撃の重さ。柄を握る手がたった一度受け止めただけで痺れてくる。
「はははっ! やはり
「残念ですが、見えてはいないっすね!」
そのまま鞘から剣を引き抜き、師匠の二撃目、三撃目を受け流す。まともに受けたら剣も腕も壊されるからな。
「世迷い言を! 見えてない人間がこうまで私の攻撃を防げるものか!」
大上段の一撃を防いだところで、師匠が少し距離を取った。
たったこれだけ戦っただけなのに、もう腕の痺れのせいで握力が弱まってきてしまう。
「ほんと、師匠ってバケモノっすね!」
「はははっ! その言葉! そっくり返すぞ! 勇者の一撃を平然と受け止める人間がどこにいる!?」
「あいにく、平然とじゃないんですよね!」
痺れる手を見せつけるように右腕を上げると、師匠は小さく吹き出した。どうやら腕プルプルはお気に召したようだ。
お互いに何とも気の抜けた感じだが、ある程度はしょうがない。これはあくまで剣による交渉であり、殺し合いじゃないのだ。重要なのは勝ち負けではなく、お互いが納得する形で決着を付けること。
そのために。この戦いにはまだ
そしてそれを師匠も分かっていた。
「アーク。相変わらず見事な腕だし、真剣勝負で愛嬌を忘れない心の余裕も素晴らしい。……だが、それはしょせんアーク個人の力だぞ? 支え合うというのなら、ご令嬢方の力も見せてもらわないとなぁ?」
「お、じゃあ遠慮なく。ちょっと待ってもらえます?」
「うむ。全力を出していない状態で叩きのめしても連れて帰れないだろうからな」
どうやら叩きのめすことは決定事項らしい。怖い人だ。……いや正直『人』判定でいいのか甚だ疑問だがな。
俺は一旦師匠から目を離し、ご令嬢方に視線を向けた。
『――むぅ! のたのたしているから湯が冷めてきたではないか! さっさと倒さんかアーク!』
助力する気など微塵もなさそうなシルシュ(飽きたのか再び入浴中)はまぁ置いておくとして。まともに協力してくれそうなシャルロット、メイス、ミラにお願いする。
「というわけで、協力してくれるか?」
「もちろんさ!」
「戦闘ではお役に立てませんが……なにかできることを探します!」
「んっ」
こんなバケモノが近くにいて怖いだろうに頷いてくれる三人だった。
ちなみに。
ご令嬢の中でなぜエリザベス嬢を除外したかというと……エリザベス嬢の力が戦い向きじゃないのもあるのだが……エリザベス嬢とラックが、お互いに支え合うように身を寄せ合っているからだ。あんな二人だけの空気を作っている人間に協力を要請するほど野暮じゃあない。ラックは爆発しろ。