アークとライラの戦いを目にして、メイスは危機感を募らせていた。
メイスは戦いの素人なので詳しいことは分からない。だが、ライラが
こういうものを防戦一方というのだろうとメイスは考える。もしかしたらアークは隙を伺っているのかもしれないが……彼の苦しそうな表情からして、そういうわけでもなさそうだ。
もしもアークが負け、アークとラックが魔の森から去ることになれば……ほぼ確実にメイスたちは死ぬだろう。
それが恐ろしくないと言えば、嘘になる。自分が生き残るためにアークを求めているのだろうと指摘されれば、首を縦に振るしかない。
だが。
それよりも、何よりも……メイスは、アークという好人物と離ればなれになってしまうことを恐れていた。
まだ、愛ではない。
まだ、恋でもないと思う。
だが、いずれは……。
どうしたものかとメイスは焦る。
まず真っ先に目を向けたのはドラゴンであるシルシュ。だが、彼女はもう戦いに興味を失ったのか「お湯がぬるいのぉ」とぼやきながらお湯に浸かっている。
次いで目を向けたシャルロットは、汗を流しながらアークに
その意味で言えば、今日魔法を使いすぎたミラにも余裕はないはず。そう考えながらメイスがミラに視線を向けると――
「わ!? ミラ様! 駄目ですよ!?」
驚愕の声を上げるメイス。ミラは(消費魔力の少ない)ファイヤーボールを出現させ、ライラに向けて投げつけようとしていたのだ。
「ん。大丈夫。あの頑丈さなら直撃しても死なない」
「それは心配していませんが! あれだけ激しく動いているのですからアーク様に当たってしまう可能性が!」
「……ん」
ファイヤーボールを投げるのはやめたミラだが、炎を消す様子はない。「せっかく出したのにもったいない」とその顔に書いてある。気がする。
ミラの暴挙は止まったが、アークの戦いが好転するわけではない。自分でも何かできないか。できないものかとメイスは頭を回転させ続ける。
もうすぐ、もうすぐ『何か』を思いつく気はするのだが……。
…………。
水がぬるいと文句を言うシルシュ。
ファイヤーボールを出したままのミラ。
水。
シャルロット。
ファイヤーボール。
「――っ! シルシュ様! 失礼します!」
急造の温泉に駆け寄り、お湯の中に手を突っ込むメイス。
そのまま魔力を一気に流し込み――
「みぎゃあ!? 冷たい!?」
ドラゴンのくせに大げさに驚くシルシュはとりあえず無視。
「ミラ様! ファイヤーボールを圧縮して湯船に! あのときのシャルロット様のように!」
「……ん」
なんだかよく分かっていなさそうな顔をするミラだが、お願い通りファイヤーボールを圧縮し、冷え切った温泉に投げ込んだ。――シャルロットが水蒸気爆発を起こしたときと同じように。
「伏せてください!」
直後、爆音。
爆風が一気に吹き抜け、水蒸気が煙のように辺りを包み込んだ。
シャルロットよりも魔法の扱いが巧みなミラが行ったせいか、あのときよりも広範囲に、濃く霧巻いた水蒸気は今なお戦いを続けるアークとライラすらも包み込んでしまう。
あれではもはや何も見えないだろう。それは騎士団長であろうが勇者であろうが変わらないはず。
だが。
アークならば相手がどこにいるか