「――はははっ!」
ライラは心底楽しかった。
本来ならば楽しむべき場面ではないことくらい分かっている。今のライラとアークはご令嬢方の未来を賭けて戦っているのだから。
しかし、ライラは心配などしていない。
なぜならば――こういうときのアークは
確かに今は防戦一方。シャルロットの
――だが、そこからだった。
第三者から見れば、アークは防御ばかりで反撃できていないように見えるだろう。
しかし、だ。
今のアークは驚くべき速度で
これだ。
この学習の速さこそ、アークの素晴らしさだ。
以前までは学習能力が十全の力を見せる前に肉体が限界を迎えていたが、今はシャルロットの
……さらに言えば。ライラは知る由もないことだが、シルシュの血を浴びたことによる身体能力の向上もアークの能力を押し上げていた。
元より、才能であれば
勇者としての能力は、アークの学習能力によって追いつかれる。
そして、ライラとアークの『差』で一番大きかったドラゴンの血による強化も、互角となった。
ならば。
(これは、負けるな!)
ライラにあるのは晴れ晴れしさ。愛弟子が、愛する男が、ここ一番というところで自分を超えようとしているのだ。これを喜ばずして何が師匠か。何が女か。
「強くなったなぁアーク!」
「いや、まだまだっすよ!」
謙遜しているが、アークの目に宿るのは自信。もはや自分は師匠を超えられると。師匠に勝てると。誰よりも彼自身が確信を抱いていた。
そうして。
いよいよ決着か、とお互いに考え始めたところで、
――霧が、ライラとアークを包み込んだ。
メイスたちが発生させた水蒸気だ。
「チッ! いいところで!」
思わず舌打ちするライラ。確かにアークとご令嬢方の『力』を見せろと言ったのは自分だが、それでも、こんなに楽しい時間に水を差されてしまっては不機嫌にもなろう。
――ゆえにこそ、ライラは容赦しない。
視界はゼロに近いが、アークのいる位置は記憶している。
「――――!」
音すら出さず。声すら発せず。アークの背後に回り込み、アークがいた位置に剣を振り下ろすライラ。
だが。