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第66話 戦い・5

 ライラの振り下ろした剣を、完璧なタイミングで弾いてみせるアーク。


 そのとき、ひときわ鈍い音が周囲に響き渡った。


 アークの剣が、折れたのだ。


 だが、それも当然だろう。


 ライラの剣は特別製。近衛騎士団長としての地位に相応しく、ライラ本人の怪力に耐えられるだけの剣を用いている。


 対するアークの剣も良品ではあるが、あくまで平騎士が買える程度の品質。身体強化した肉体でブラッディベアの首を刎ねたり、ライラの剛剣と刃を合わせ続けるような無茶を続ければ――当然、アークの肉体より先に限界が来てしまう。


(不運だが、勝敗を武器のせいにするようでは三流だぞ!)


 容赦なくライラは剣を振り上げた。この戦いの決着を付けるために。


 対するアークは、何もない空間に右手を突っ込んだ。


 空間収納ストレージ

 アークは魔法が得意ではないが、それでも剣を収納できるくらいの空間収納ストレージは有している。


 瞬間、ライラの脳裏にその可能性が閃いた。


(――聖剣か!)


 あのドラゴンシルシュと知り合ったならば。当然、アークは背中の剣を抜いてやるだろう。たとえ相手がドラゴンであろうとも。なぜならアークはそういう男だから。


 どんな過程であろうとも、結果として聖剣を抜いた・・・・・・ならば、勇者としての加護・・・・・・・・を得て――聖剣を扱えるようになっているはず。


(持久力が上がっていたのは、シャルロット嬢の身体強化ミュスクルだけではなく……勇者としての加護もあったのか!?)


 聖剣であれば、さすがにライラの剣の方が折られるだろう。


 だがしかし、すでに振り降ろし始めた剣を止めることはできない。アーク相手に、そんな半端な勢いで剣を振るってはいないのだ。


(剣は折られるが、アークも衝撃ですぐには動けまい! 予備の刀を取り出せば!)


 ライラの意識が今振り下ろしている一撃から、わずかに逸れた。

 そう、わずかに。

 わずかに速度が緩み。わずかに勢いが落ちた。


 常人であれば関係なく押しつぶされる程度の差。


 だが、相手はアークだった。


「――それを待っていたんですよ」


 アークが空間収納ストレージから手を引き抜いた。


 その手に握られていたのは――否。その手には、何も握られては・・・・・・・いなかった・・・・・


 さすがに無手でライラの剛剣を受け止められるはずがない。


 だが、先ほどの一瞬、ライラの意識はこの一撃から逸れた。その分威力と速度が僅かに緩んでいるのだ。


 そして。

 ライラも知らないことだが。


 アークは、前世の記憶を思い出していた。


「傍流・柳生新陰流秘伝――無刀取り」


 アークの両手が、今振り下ろされているライラの剣、その柄を掴んだ。


 だが、力で対抗することはない。

 むしろ逆。ライラの強力ごうりきを存分に活用し、合気でもってライラの突進を受け流し――投げ飛ばした。


「ぐぅ!?」


 地面に背中を叩きつけられ、一瞬呼吸もできなくなるライラ。


 その隙を見逃さず、ライラに馬乗りとなったアークは空間収納ストレージから予備の剣を取りだし――ライラの首に押しつけた。


「俺の勝ちですね」


「…………。…………。……あぁ、そうだな」


 悔しさはない。

 むしろ、そんな技を隠し持っていたかと感心しながら……ライラは身体強化ミュスクルを解除した。








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