「キミたちは! ボクの扱いが悪すぎる!」
師匠との戦いが一息ついたあと。「むがー!」と抗議したのはシャルロットだった。
なんでも、一生懸命
俺を支援するため急いで水蒸気爆発を起こしたメイスとミラ。
正直、どっちの立場も分かる俺であった。
うん、ここは実害を受けたシャルロットをまずは慰めるか。
「いや、シャルロット。助かったぜ。お前さんの
「っ! ふっふーん! そうだろうそうだろう! やはり分かっているじゃないかアーク君! もっと褒め称えたまえよ!」
「凄いぞシャルロット!」
「うんうん!」
「格好いいぞシャルロット!」
「格好――レディに対してそれはどうかな……?」
「じゃあ、可愛いぞシャルロット!」
「――ぐっふ!」
なにやら『ふにゃふにゃ』しながらその場にしゃがみ込むシャルロットだった。おもしれー女。
「女たらし」
「女たらし」
「相変わらずの女たらし」
メイス、ミラ、そしてなぜか師匠からもなじられてしまう俺だった。なぜだ?
ちなみに師匠は俺に投げ飛ばされた体勢のままだ。いい加減起きませんか……?
◇
「アークぅ、考え直さないか~?」
地面に叩きつけられた体勢のまま、俺のズボンの裾を引っ張る師匠だった。なんだこの「だら~ん」とした感じ? ほんとに師匠か? まさか頭もぶつけたか?
……なにやら副団長が「その人、素はそんな感じですよ。頑張ってください」とため息をついた気がする。もちろん気のせいだろう。
「ええい! 諦めるって約束したでしょうが!」
「うむ! 連れて帰るのは諦めた! だから改めてスカウトしよう! 近衛師団に入らないか!?」
「無しです! 無し! そんなの無し! 潔く諦めてください!」
「そんなぁ」
俺のズボンの裾を掴んだまま『だら~ん』と伸びる師匠だった。これ、割と近衛師団の恥じゃね? というか皆は『元勇者』だって知っているんだろ? どうなんだこれ?
皆に視線を向けると、誰も彼もがサッと視線を逸らした。関わりたくない、何も見ていないとその横顔に書いてある。
そんな皆の態度を師匠も見たらしい。
「――ふっ、どうやら交渉は決裂か」
すくっと立ち上がり、キリッとした顔をする師匠だった。手遅れっす。
「仕方がない。アホ太子には私の方から上手いこと伝えておこう」
アホ太子って。王太子をアホって。まぁアホだが。
「騎士アークと騎士ラック、そしてご令嬢方は魔の森のドラゴンに襲われて死亡。という筋書きで構わないか?」
「えぇ、それでお願いします」
「ふむ、魔の森の入り口にはドラゴンの爪痕が残されているからな。疑われることはまずないだろう。……あとは、ドラゴンの討伐軍が編成され、こちらにやって来る可能性もあるが……」
「へ? ドラゴンを、討伐っすか?」
にわかには信じがたい話だ。一国の軍隊程度でどうにかなる存在ではないのだドラゴンは。というか王都まで飛んでいって、ドラゴンブレスを吐かれるだけで国が滅びかねないし。
「普通ならばあり得ないがな。普通じゃない馬鹿がいるのでな」
「……あー」
あのバカか。じゃなかった。王太子か。それならあり得るよな。
納得するしかない俺だった。