『アーク。俺は情けねぇぜ』
と、いきなり自虐(?)し始めたのはミラの持っていたクマのぬいぐるみ、クーマだった。……いや、自律型ゴーレムだったか?
「おう、どうしたよ?」
クーマの身長に合わせ、しゃがみ込む俺。
見た目はぬいぐるみなので無表情のはずだが、なんだか悔しがっている顔をしている。気がする。
『アーク、お前さんはブラッディベアや騎士団長と立派に戦っているってのに、俺は何もできていないじゃないか! このままじゃ男が廃るぜ!』
男だったのか。
いやまぁ、声は男なんだけどな。ぬいぐるみ――じゃなくてゴーレムに性別ってあるのか……。
おっと今はそんなことを考えている場合じゃないな。
「とは言ってもなぁ、人間向き不向きがあるだろ? お前さんは戦闘用ゴーレムなのか?」
ゴーレムなら『人間』じゃないだろ、なんてつまらないツッコミは無しだ。
『どちらかというと愛玩用というかゴーレム作製の実験用だな。……そう、俺は見た目の可愛さしか取り柄がないクマ……自分の愛らしさが憎たらしいぜ……』
なんか余裕がありそうだな?
いやしかし、本気で悩んでいるなら解決してやりたいし、幸いにして俺はそっち方面の本職だ。
「よし! 強くなりたいというなら鍛えてやるぜ!」
『本当か!?』
「おう! ぬいぐるみのふりをして戦わないという選択肢もあったのに、それでも戦うことを選んだところが気に入った! お前を一人前の戦闘用ゴーレムにしてやるぜ!」
『アーク!』
ガシィッ! っと手を握り合う俺とクーマだった。
男と男。否、漢と漢の友情を誕生させている俺とクーマ。そんな俺たちの様子を見て、
「……やめといた方がいいと思うけどなぁ」
なぜだかドン引きするラックだった。
◇
戦うってならまずは武器だな。
クーマも一応爪があるんだが、いかにもぬいぐるみチック。この柔らかさで戦闘は無理だろう。
となると、武器を持たせる?
しかし、クーマの外見はデフォルメされたクマだからな。武器を握るのはちょっと無理だろう。
そうなると魔法か?
いやいや、ゴーレムが魔法を使うだなんて聞いたこともない。
ゴーレムなんだから身体の一部を固くするとか、作り替えることもできるんじゃないか?
と、俺が考えていると、
「ん」
ゴーレムの創造主であるミラが何事か呪文を唱えると――クーマの両手に、いかにも破壊力がありそうな爪が生えてきた。見た目だけならブラッディベアにも匹敵しそうだな。
「よし、ゴーレムなら基本的な身体作りはいらないだろう。さっそく戦闘訓練から入るとするか!」
『おう! よろしく頼みますぜ師匠!』
お、師匠か。
そう呼ばれるのは悪くない。
ふっ、ちょっと気合いを入れて鍛えてやるかな。
◇
凶悪な爪を存分に振るい、アークに襲いかかるクーマ。
掠っただけで肉体を抉られそうな攻撃を、アークは難なく避け続けている。
そんな二人の訓練を見学しながら、
「こりゃあ、ヤバいなぁ」
心底心配そうな声を上げたのはラック。
「ラック君。そんなにヤバそうなのかい?」
「一見するとアークさんには余裕がありそうですが」
「ん。でもあの爪は当たったら痛そう」
「万が一の際は回復魔法が必要ですわね」
ラックの独り言にシャルロット、メイス、ミラ、そしてエリザベスが次々に反応する。ちなみにシルシュは『いいぞーぶっ潰せー』と無責任に囃し立てている。
そんな女性陣に対して、ラックはふるふると首を横に振った。
「いえ、アークのことなんて心配するだけ無駄です。なにせあいつは元勇者に勝てる男ですから」
「なるほど道理だね。なら、クーマ君の心配をしているのかい?」
「えぇ。アークの野郎、基準が
ラックがそんな解説をする中。
「よし、クーマ。今度は俺が反撃するから避けてみろー」
アークが気安い声を掛け、
『よし、かかってこい!』
クーマがやる気十分な声で返事をしてしまい――
『――ぐげらごばぁ!?』
クーマが真横に吹っ飛んだ。
そのまま地面を転がることすらしないまま横方向にぶっ飛ばされ――巨大な樹の幹に衝突。それをへし折りつつやっと止まったクーマだった。
「……え?」
漏れた声は誰のものだったか。
女性陣はもちろんのこと、戦闘訓練を受けた本職であるラックですら反応できなかった一撃。
まるで状況は理解できないが、真横に吹き飛んだクーマと、剣を横
「……すまーん。手加減間違えた」
何でもないことのように謝罪するアーク。クーマはというと……奇跡的に原形は留めているらしい。さすがはゴーレムといったところか、あるいはアークも一応手加減はしたのか。
「……ほら、手加減がバケモノ基準なんですよ」
やれやれと肩をすくめるラックだった。