暖かくて安心する、いい夢の中から目が覚めた。
目が覚めたはずだけれども、暖かくて安心する感触のままだった。
「ニャ……?」
いつものふわふわの布ではなく、しっとりとすべすべの感触で落ち着く。この気持ちがいいのは魔力……? よくわかんないけど……もうちょっと寝ちゃおうかなぁ……。
「……ん、ネコ起きたのか」
すぐ近くで聞こえた声に、びっくりして飛び
眠そうな顔をしたシモベ様がいた。
ひぇ!! 何これ?! 男前が増してますね?!
まじめな顔でも締まらない顔でもなく、とろんとして妙に色気がある。
思いもしないことで思考が停止したけど、よく見てみればしっとりすべすべだったのはシモベ様、もといレイルース様の胸だったらしい。
何?! どういうこと?!
「『シャーッ!』って、ネコが自分で潜り込んできたのに勝手でかわいい」
ちょっと恨めしそうな顔をしたレイルース様ものそりと起きだした。
自分で潜り込んできた……?
そんな記憶はないけど、なんかさみしい気分で丸まっていたのが、そのうち安心する
でも潜り込んでなんかいないと思うの。多分。
わたしが考え込んでいるうちにレイルース様は魔法でたらいに水を出し、顔を洗って着替えを済ませていた。
貴族なら従者や執事に用意をさせるものだけど、レイルース様はそんなものに人手を
やっぱり元々は平民なのかもしれない。エドモンドさんとは雰囲気がちょっと違うし。
本当に領主っぽくない方である。
「さ、食堂へ行くぞ」
ふわりと抱き上げられ、わたしはいつものように朝食の場へと連れられるのであった。
◇
「ネコ〜、あなたのシモベが朝の食事を持ってきましたよ〜」
相変わらずシモベなレイルース様。
生ぬるい目や羨ましそうな目で見ているみなさんに混ざって、昨日からこの城に住むことになったエドモンドさんが目を
そりゃそうだよねぇ。頼りになると思っていた上官がこれじゃぁねぇ……。
家令であるセバスさんをトップに屋敷で働く人たちは、領主様の朝食前に食事を済ませてしまっているのだとか。
なので、テーブルについているのはレイルース様のみ。わたしはテーブルについているというか、のっているんだけど。メイドや従者たちは壁の方に立っている。
「わたしもネコちゃんに食事持っていきたい……シモベの名乗りを上げたい……」
「……やっぱり美形だわ……」
「ネコがちょっと気の毒になってきた……」
「何をやっているのですか、隊長……」
「さぁさぁ、だんな様。今日も仕事が待っておりますよ。ネコ様に見惚れていないで食事をなさってください」
セバスさんに急かされて、やっとレイルース様は感謝の祈りを捧げた。
「……では、いただこうか」
「ニャー(恵みに感謝を)」
今日は香草で香りづけされたマスと、蒸したカブがチーズソースで絡められている。
香草は猫によくないものもあるから香りだけだと料理長ジュルダンさんが言っていたっけ。
単調になりがちな白身の魚が高級感あふれる一皿になっている。
カブは皮のぷりっとしたところと、中のじゅわっとしたところの違いも楽しい。チーズソースはミルクで伸ばしてあるのか、軽く優しい味わい。
大変美味。
でももうちょっとだけ塩があってもいいなぁ。辛味とか……。
猫の体にはよくないのはわかる。料理長が考えて工夫してくれているのもよくわかる。
でもなぁ、わたし普通の猫じゃないし……。
本当に料理長の気持ちはうれしいし、香りだけでもすごく美味しいけど!
チーズはどんな料理になっても文句なしに美味しいので、チーズもうちょっとかけてくれたらうれしいなぁ。
食事の後にレイルース様に抱えられて廊下へ出ると、フレスとエドモンドさんがついてくる。
領主と従者らしくなってきた。片方ちっちゃいけど。
そういえば使用人が増えたと聞いた。まだ初めて見る人に会っていないけど、人の気配が増えたのは感じる。半地下の方にいるのかな。なんとなく賑やかな気配だ。
「——エドモンド様、食事のことで聞きたいことがあるんですけど、ちょっといいですか〜?」
うしろからかけられた声は、メイドのケイティのものだ。
もしかしてメイドと従者の恋物語始まります?!
「ニャ! ニャ!」
レイルース様の腕の中でじたじたとして、肩へよじ登る。
「……ネコや、おまえ子猫なのに男女のそういうのに興味があるのか」
「ニャニャー(レイルース様だって)」
背後でのできごとなのに、わたしが見たいのがそれとすぐわかったってことは、レイルース様だって気になってるってことだよねぇ。
肩に前足をかけて後ろを向くと、目を見開くフレスと、呼び止められてケイティの前に立つエドモンドさんが見えた。
「ニャー」
そんなに速く歩いたら声が聞こえなくなっちゃうの。
抗議の声を上げると、仕方ないなとでもいうように、レイルース様の手が背中を撫でた。
後ろからついてくるフレスには「ああいうのは知らないフリをしてやるのが気遣いってやつなんだぞ」と言われた。
子どもに正論のど真ん中を諭された。
まったくもってその通りで、恥ずかしいです……。