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第29話 対察知ベル


 その後、エドモンドさんも混ざってあーでもないこーでもないと魔導具の改良をすること数日。

 とうとう、特定の生き物が通った時にしか鳴らないベルが出来上がった。


「ネコや、これに前足を載せてごらん」


 わたしを膝の上に乗せたレイルース様は、前足を軽くつかんで魔銀の板の上に置いた。

 もちろん、わたしは自分で載せられる。けれども、「ニャー(はい)」って載せたらおかしいからね、自重してるの。

 怪しまれないように、わからないふり、知らないふり、できないふりを徹底するつもり。


 前足が置かれた魔導具は、ベルをコーンと鳴らした。


「フレスも触ってごらん」


「はい」


 フレスが魔銀に手を載せると、音は鳴らなかった。

 続いてエドモンドさんが載せても鳴らない。


「よし。成功だ」


 とレイルース様が言ったが、エドモンドさんとフレスは半眼でじっとりとレイルース様を見た。


「レイルース様もお手をどうぞ?」


「いや、私は別にいいんだ。うん。大丈夫」


「どうぞ?」


 元部下の強い圧に負けて、レイルース様も魔銀に手を載せた。


 コーン。音が鳴る。


「全然成功してませんよね? 根本的な解決はしてないですよ?」


 レイルース様は情けない顔で「そうだな……」と認めた。

 エドモンドさんが言うのも仕方がないことなのだ。

 なんせ、解決方法がベルの中に入っているスプリングを短くするという、まさかのベル改造での方法だったから。

 魔力が大きい生き物が乗ると、強い力でベルが鳴らされると仮説が立てられた。

 それなら弱い魔力が流れた時は鳴らない程度の長さに、スプリングを調節したと。

 だから、フレスやエドモンドさんが触った時にも魔導具は作動していたのだ。

 ただスプリングの動きが弱くベルの外側に届かなかっただけで。

 そりゃ、エドモンドさんがなんの解決にもなってないと言うのもわかるというもの。

 レイルース様は魔法図での解決を諦めたらしい。


「何かいい方法が思いつくまではこれでいいことにしよう。ネコが出ようとしたらわかるという本来の目的は果たせているからな」


 察知ベルはまた出入り口に置かれた。


 自由に廊下へ出て歩ける日はまだ先になりそうだ。

 だいぶ体が動くようになってきたので、活動範囲を広げたいところなんだけどなぁ。

 きっと体が大きくなってきているんだと思う。大きさは自分ではよくわからないけど。


 今日も扉が開いた隙に執務室から廊下へ出ようとすると、コーンとベルが鳴った。


「ネコ、懲りないな。そんなに外に行きたいのか」


「ニャ〜」


 外じゃなく、廊下とか他の部屋とか見て歩きたいだけなんだけど。部屋の中だけじゃ飽きるよ。

 抱え上げられて部屋に戻され、そのまま棚の上へ載せられた。

 棚はほとんど物が置かれてなくて、長い通路になっている。乗せられた棚は机よりも少し高いので、見下ろせるのが楽しい。

 レイルース様やエドモンドさんは見下ろせないけど、フレスは見下ろすことができる。普段は見えない、つむじが見えるよ。おもしろいなぁと思いながら歩いて、窓の方まで行く。

 部屋には、外に開く窓と開かない明かり取りの窓がある。

 明かり取りの窓の前まで歩いていって、外を見下ろした。

 二階の高い位置にある窓から見る庭は、おもしろいことはそんなにない。

 でも見てしまう。

 なんの飾り気もない庭。木は植えられているけど、よく言えばあるがままの自然な姿。整えられずにぼさぼさと茂っている。

 向こうの方には尖塔が見えていて、上の見張り台に人の姿があった。


「——ネコはそこ好きだよなぁ」


 レイルース様の声が聞こえて、はっと思い出した。

 わたし、廊下に行こうとしていたんだった。

 ごまかされるところだった。


「ニャ〜ン」


 わたしが鳴くと、いそいそとシモベ様——レイルース様がやってくる。

 手を差し出してくるので、その上に乗った。だって下ろしてもらわないと、下りられないんだもの。


「まったくもう手のかかるかわいい生き物め」


「ニャ〜」


「いいか、ネコ。あそこにちゃんと猫用階段があるだろう? あれをトントンと下りてくれば床まで行けるんだぞ」


「ニャ」


 知ってます。わかってますよ。

 ただちょっとまだ足がね、届かないんです……。


「あれで上り下りできるようになったら、廊下は好きに出ていいからな」


 なんと!

 お許しが出ました!

 やっぱり、他の人から見ても大きくなっているということか。

 手足も動かしやすくなってきたし、体ができあがってきたんだろうな。


 そうと決まれば階段の練習するよ。

 床に下ろしてもらったので、階段の下へ行って1段目へと飛び跳ねた。

 でもやっぱり魔法なしじゃ届かない。なんとか自力で頑張るしかないな。


 ぴょんぴょんと跳ぶわたしのうしろで「絶対に言葉をわかっているだろう……」というつぶやきが聞こえたような気もするけど、多分気のせい。





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