「どうしてアタシたちが真っ昼間から、こんな場所で、人捜しをしないといけないわけ!」
「しかも名前も知らない、赤の他人の捜索なんて!」
照りつける厳しい日射し、近所の人気のない公園にて、白いTシャツに青いデニムのロングスカートという王道なコーデの
迷子のペットを捜すのとは、わけが違うのだ。
大昔に禁断の果実をかじり、知性を持った哺乳類だったが、その他人同士は果実のきっかけがなかったら、接点すらも生まれなかっただろう。
人間とは臆病な生き物ゆえに、仲間と力を合わせ、この地球上で絶滅せず、これまで子孫を絶やさずに生き抜いてきたんだ。
赤いラベルのきつねんうどんでも、赤の他人が相手でも協力してくれる美冬には感謝しかない。
「シキノンは、己自身の妄想と戦ってるんだね」
「知らなかった。お兄ちゃんが、そんなに心が病んでたなんて……うるうる」
紺のジャージ姿の
おい、ヲタクゲーマーなのに、運動神経も桁外れかよ!?
それと、こんな暑い季節に激しい運動は控えて。
みんなには謝礼として飲み物は渡してるけど、熱中症になったら、それこそ大変だよ。
「あのさあ、本当に知らないんだね。
「だから、さっきから何なの。いつも以上にキモいんだけど……」
美冬がペットボトルの麦茶を口にし、背丈まで伸びた草原を手で抜きながら、賢司という聞き慣れない名前に戸惑いを感じている。
……というか、公園の敷地から、ちょっと外れたら草が生え放題だし、みんなが遊ぶ公園のわりには、管理体制が行き届いてないよね。
ベンチも塗料が剥げて錆びついてるし、手元の腕時計と照らし合わせると、時計台の針は少し遅れてるし……まあ、田舎の公園だからしょうがないかな。
「ならさ、シキノンの頭に空手チョップを当てたらどうかな。正気に戻るかもよ?」
「じゃあ、夏希。さっさと
「あいよー!!」
黒いキャミソールに灰色のストライブシャツを重ね、ジーパンを履いた
ストローで炭酸水を吸って、大きく息を吸った分、吐いて吐いて吐いて。
中身はジュース設定なんだけど、どこの酔っぱらい気分な娘だよ。
「では、空手チョップ一本入りまーす」
「あのさあ、トマトケチャップの注文じゃないんだから」
無茶ぶりの注文をするお客さんも時によっては、入店禁止の言葉のタグを貼りたくなるよね。
「ケチャップに含まれているデコピンは、お肌の新陳代謝を高める効果があり……」
「デコピンで活性化出来たら、苦労しないよ」
そもそもデコピンは額にダメージをあたえるもので、誰でもお手軽に出来る技なんだ。
その扱いやすさを武器に、戦場で繰り出しているとキリがない。
「じゃあ、被験体シキノンよ。前に」
「何で、僕が犠牲者なんだよ」
「戦いに犠牲はつきものだよ」
「あー、誰か、この子の暴走を止めてくれよ!!」
今度は夏希が自我を止めれなくなったね。
夏希を乗せた暴走機関車は、ブレーキもせずに勢いを増すばかり。
「何叫んでんのよ、キモオタ。おかしいのはアンタでしょ。人捜しで公園に赴いて、家出少年を捜すような企画を立てて」
「だから賢司を見つけるために」
「その相手が謎なのよ!! 大の男がこんな公園にいる方がおかしいわよ!!」
「いや、公園でナンパでもしてるかなって」
「わざわざこんな草むらに隠れて? 陰キャで内気なコミュ障でもある、アンタじゃないんだから」
「うぐぐ……」
美冬の正統派な発言に言葉を詰まらす僕。
別に変な謎かけも企画もしてないし、真実を述べてるだけ。
そんなこと言われても、ついさっきまで、おちゃらけだった彼は居たんだから。
「シキノンは未確認生物を確保しようと」
「確保って何だよ。親友に向かって」
「ハル以外にお兄ちゃんに親友がいたのも驚きだね」
「いつからハルが親友になったのさ」
「えっ、あのファミコンショップでの出会いからだよ?」
あんな頃から目をつけられていたのか。
そんなに一途に想わなくても、他に好きな相手との出会いの方が良いような気が……。
「そんな簡単に親友になれたら、自身の脳みそを疑うよ」
「ううっ、お兄ちゃん酷い。それじゃあ、ハルがアホの子みたいじゃん」
草むらに一人しゃがみこんで、頭を抱えるハル。
ハルも頑張って生きてるし、アホなんかじゃない。
みんなが困ってしまうような問いかけなんだ。
「……アンタ、何、ウチの妹を泣かしてんのよ」
「誤解だし、僕の妹でもあるよね!?」
美冬が近くにあった大岩に座り込んで、不仲説を追求する。
せめて座るなら、スカートくらい、手で抑えてよ。
下着が見えそうで、まともにキミと目線が合わせられないからさ!?
「シキノン。それじゃあ、サクッといこうか」
「女の子を泣かせた罪は重いわよ」
「だから僕は何もしてないよ。ねえ、秋星?」
「……ええ。うん、そうね」
「秋星、いくら僕に興味がなくても、塩対応すぎるでしょ!?」
いつもとは違う、秋星のそっけない態度に自尊心が揺らぐ。
何というか、あっさりし過ぎだよね。
「アンタさあ、今度は秋星狙いなわけ? 時と場合によっては、ここで意識を奪うわよ」
「奪うとかとんでもないよ!? 秋星も何か反論してよ!?」
「……うるさいわね」
「秋星ぉぉぉー!?」
秋星が絞り出した声には、嫌味が含まれていた。
美冬はともかく、僕、秋星にも何か悪いことしたかな。
あれっきり入浴中の彼女には十分に注意してるし……女の子って謎の生き物だ。
「さあ、二等辺低次元オタク。聖なる祝杯は済んだかしら?」
「これでお兄ちゃんも、心置きなく、人捜しが出来ますね」
祝杯って、そのような大層なことはしてないんだけど。
不安要素ばかりで、心、ここに置けないんですけど!?
「いや待って。夏希の目が光って、不気味なんだけど?」
「こんな時のために、ハルのカラコンを付けてみた」
「YouT◯beのような下りはよしてよ……そんなことより賢司を捜してよ」
夏希のカラコンが怪しく光り、僕の存在すらもかき消されようとする。
目が合っただけで、消滅しそうな不良な目力だよ。
「お兄ちゃん、夏希にボコられるのと、ハルにデコられるのどっちがいい? 社会への見せしめにするから」
「どっちも嫌だよ!!」
夏希の格闘術でボロボロにされ、ハルの腕前でスマホがマニアックにリメイクされる辛い現実。
よって肉体か、精神にダメージかの二択。
僕と
考えても考えても、その先の答えが見つからなかった……。
それよりも賢司はどこで遊び呆けているんだよ!
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※第一部、『三重咲姉妹争奪編』は、これにて終わりです。
次回から賢司にスポットを当てた、第二部の始まりです。
お楽しみに──。