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──あれから、四姉妹から熱心に看病され、無事に体調が回復してから、一週間が経過した……。
「ねえ、本当にこんな場所に来て分かるの?」
昼の暑さとはうって変わり、涼しげなそよ風が舞う夕暮れ時。
夏なのに暑苦しい学ランを着た僕は、純白のセーラー服の
春子が言うからに、この店が怪しいと断言していたけど、お願いだから、子供染みたことを言わないで……と口を滑らせてしまい、しょうがなく駅前で待ち合わせて、学校帰りのついでに連れて来られたんだけど……。
「ホントも何も
「そうなんだけど、夢物語だったかもしれないし……」
「お兄ちゃん、それだと賢司さんが幽霊みたいじゃん。ガチでキモいよ」
賢司が、ここのゲームショップのバイトをしていることは、姉妹の中ではこのハルしか知らない。
なぜ、その記憶が残ってたかは謎だけど、それで、この発想が天から降ってきたみたい。
天変地異はともかく、何て大きなものを降らしてくれるんだよ。
ガチでヤベエな、神様ってもんは……。
「出来れば、不幸ごとじゃなくて、小さな幸せをくれるだけでも嬉しいんだけど」
「あはは。それじゃあ、座敷わらしみたいだよw」
例え、賢司が亡くなっていても、未練たらたらで不幸を持ってくる地縛霊より、人々に幸福を与える座敷わらしの方がいい。
負の気配を漂わせ、発狂したおっさんよりも、明るくて元気な若い女の子の方がマシだし。
あっ、座敷わらしの塩対応な性格からして、男心をくすぐる女の子の王道でもある、天真爛漫さはないか。
「さて、今日は何にしようかな」
「何だよ、賢司の行く末が分かるとほざきながらも、結局はゲームかよ」
「うん。ハルの目的の半分はそれだし」
「おいおい、勘弁してくれよ」
ハルが目を輝かせながら、フロアの真ん中にある新作ゲームのコーナーに行く様子を見て、心から重たい反応になる。
ああ、だから率先して、こちらの味方についたわけだね。
「あのね、お兄ちゃん聞いて」
「レジを賢司さんが担当してるんだよね。何の買い物もせずにレジに直行したら、それこそ警戒されちゃうよ」
「なるほど、そう言われてみれば……」
「それに今は休憩中じゃないかな。レジには別の女の人が立ってるし」
僕の嫌な予感が的中した。
想定した通り、無駄使いな買い物で時間を潰す作戦か。
待てよ、前々から知っていれば、わざわざ何で、この夕方の時間帯に来たんだろう。
「さて、こんなに空いてれば、思う存分選びたい放題だね」
「ああー、僕をダシに上手いこと利用したなー!」
年齢制限付きのゲームでも、大人が同伴だと簡単に買えるからね。
まだ色恋にも駆け出しの中学生なのに、ナイーブな思春期の心をよく理解してる。
「もうお兄ちゃん、耳元でギャーギャーうるさいよ。それに他のお客さんの迷惑だよ」
「そうかな、すでに敵意を向けられてるみたいだけど」
「えっ、何でハルまで敵対されないといけないの?」
「はあ、まるで自覚なしか……」
「うん?」
周りの男共が僕とハルを見定めて、こんな冴えないオタクな野郎に、あんなアイドルのセンターみたいな美少女が引っ付くわけがない、これは何かの幻とか病的なことをブツブツ喋ってるよ。
あのねえ、別に保守的な草食系でもいいけどさ、アイドルうんぬんより、本気で恋人が欲しいんなら、自力で動くしかないよ。
ただ女の子という相手が欲しくて、突っ立ってるだけなら、お猿さんでも出来るから。
童謡のアイアイでも、積極的なアピールの歌詞で、よく、愛愛と叫んでるでしょ。
「じゃあ、お兄ちゃん、向こうのコーナーにも行ってみようよ」
「おい、腕を絡めてくるなって!?」
「何で。賢司さんの目からしたら、恋人通しの設定だよ」
「それはヤベエだろ!?」
ハルが万年の笑みで遠慮なく抱きついてくる所で、僕の理性が吹っ飛びそうになる。
腕に柔らかい感触が伝わって、もういつ、天ぷら(テンプレ)で召されてもいいよと思うくらい。
「──ねえねえ、そろそろ帰らない。これ以上の詮索はヤバいって」
「何言ってるの、妹が初めての彼氏とデートなんだよ。この機会を逃すわけには」
「なるほど、何かおかしな動きと思ってたら、シキノンは機械のロボットだったのかあ」
「可愛い妹とのデートで緊張してるだけでしょ」
──
学生服姿という身なりは、部活を終えた帰りと言うことか。
そう考えると、余計にたちが悪い。
「さあ、向こうの怪しげなコーナーに行きましたよ。これはいい画像が撮れそうだね」
「秋星、盗撮は犯罪だからね」
二人がギャルゲーコーナーに移動したのを見計らい、ひょうたんのような花瓶と、自身のスマホを持ったまま、後を追う秋星。
さりげなく装備してる花瓶は、もしもの時のカムフラージュか。
そんな人面植物と出くわしたら、ショックで三日は寝込みそうだけど……。
「美冬、何を言ってるの。それじゃあ、二人が、これからいかがわしいことをするみたいじゃん」
「いや、そうだけどさ……」
二人仲良く、恋愛ゲームのフロアに行って、何とも進展がない方が、普通じゃないのでは?
「何なに、イカ? イカ焼き美味しいよねー」
いかがわしいの意味が分かってない夏希が、食べ物のイカと勘違いしている。
あの甘辛いソースがかかった食べ物に釣られるのも、分かる気がする。
「紛らわしいから、夏希はちょっと黙ってて」
「はーい」
今回もあれだけ騒がしい夏希を、秋星は一瞬で手懐けた。
いかにも、長女してる感が満載である。
「……君たち、店の物陰で何を騒いでるの?」
「あっ、シキノン」
──僕とハルはフロアで立ち往生して、三姉妹の動きを止めた。
何かやたらと、後ろが騒がしいと思ってたらやっぱりね。
「別に悪気はないんだよ。秋星お姉たちが心配だから、覗きに行こうって」
「ちょっと夏希!?」
「アンタ、ふっ、ふざけてんの!?」
嘘がつけない夏希が申し訳なさそうに、僕に謝ってくる。
そんなマニュアルにない展開に、秋星も美冬も焦った表情をしていた。
「ほおほお、夏希閣下。その話、詳しく聞かせてくれないか」
「かしこまりん」
夏希がご丁寧に返事を返し、青いスポーツバッグから、大きなスケッチブックを取り出した。
何だろう、こんな狭い店内で、これから紙芝居ごっこでも始めるの?