◇◆◇◆
【
「ねえ、秋星お姉ちゃん、最近、色々と雰囲気変わったよね?」
「えっ、どうしてそう思うの?」
この様子だと、一番に鈍い性格をしたハルもか。
同じ姉妹だけに勘付かれたようだね。
「だっておじいちゃんが言ってたよ。自分に対してパワハラみたいなこと、一切しなくなったって」
「あれは私流の愛情表現よ」
おじいちゃんは私たちの祖父だから、あの程度なら暴力行為ではないことを否定する。
逆に優しくするとつけ上がるからね。
お調子者には厳しく接した方が、本人のためだから。
あれ、それじゃあ、愛情にならない?
確かに雨とムチの台風の嵐だね。
「どうだか。いじめてる本人のほとんどは自覚はないようだから」
「そんなことないよ。おじいちゃんも大事な家族の一員だから」
私は
盾と
矛だけに、その攻撃優勢な態度を
「じゃあ、今まで天下気取りだった態度も改めるということかしら?」
「
「実際、今までそうだったんだけど。どういう風の吹きまわし?」
私は感情のないロボットではありませんと、正直に答えても信用されていない。
美冬は多少、口調は乱暴でも、姉妹の中でも真っ当な性格であり、曲がったことも嫌いだし、姉妹一、常識人な相手だ。
仕方ない、ここは鮫肌とはいかなくても、人肌脱ぎますか。
「ええ、そこから説明しないといけないわね」
私はリビングに置かれた殺風景なテーブルに座り直し、他の姉妹に心境を伝えることにした──。
◇◆◇◆
「……」
グラスに注がれたアイスコーヒーの氷がカランと溶ける音を耳にしながら、三人とも待ち構えるような鋭い目つきで、私の顔を見ている。
「ねえ? そんなことより夕ご飯は?」
夏希だけは、ただお腹が減っていて、ご飯はまだかの様子だったけどね。
今日の食事当番は私だけど、後で出前でもとろうかな。
この話も長引きそうだから……。
◇◆◇◆
──私は最初は彼には、興味すらもなかった。
だけど親同士の会食に参加させられ、少しずつ彼と接触することで、段々と彼に惹かれていき、私自身、彼に恋をしていた。
その彼の名前は
見た目、地味な印象を持っている男の子だったけど、優しく温かい心の持ち主で、誰とでも隔てなく接する相手でもあった。
そんなフレンドリーな部分が、魅力的に映ったのだろう。
「ねえ、シキちゃん。今度さ、私とデートしない」
「絶対にやだよ、その君の言葉遣いも、上から目線な態度も」
「えっ、それじゃあ……」
「その
「分かった。じゃあ、私が変われる時まで、誰のものにもならないでね」
「ああ」
「うん、二人だけの約束だからね」
それから私は心から決めたのよ。
強気混じりな言葉遣いや、男勝りな行動を止めて、もっと品のある清楚な女性になろうと……。
約束は守るためにある。
彼の理想の女になるために──。
◇◆◇◆
「──というわけだから、私は過去の女としての生きざまは捨てたの。これからは彼の好みな女の子になるんだから」
「えー、夏希は、前の秋星お姉の方が凛々しくて良かったなー」
席から立ち上がった夏希が、ひざ蹴りからの上空殺法で、その辺のモスキートを殲滅にかかるが、そんな攻撃が当たろうともせず、空気抵抗でやんわりと避けられるはず。
それにかけるのは、掛け算とケチャップなどの調味料だけにしてほしい。
後、人の話は真面目に聞いてよね。
「秋星お姉ちゃんも女になったんだね」
「えっ、元から女だよね。もしかして男の子だったの?」
「あのねえ、そんなわけないでしょ」
ハルの確信な言葉を耳にした夏希が、両手を指折り数えながら、付いてる、付いてないと、何やらブツブツ言い始める。
ねえ、魚のすり身じゃなくて、私の話を親身になって聞いてる?
「でも仕切り屋がいなくなったら、こんな姉妹なんて……」
「失礼ね、誰が仕切り屋よ」
「その分ならガチで問題ないね」
秋星の怒りの声を差し置いて、美冬の口調が荒々しい表現に変化する。
「えっ、美冬お姉、その喋り方?」
「ええ、今からアタシが
美冬が覚悟を決めた目になり、席から静かに立って、私たちが飲んだ空のグラスなどの洗い物をキッチンに運ぶ。
「えっ、それって美冬も、志貴野くんのことが気になっていたってこと?」
「ううん。その彼の言葉を聞いた時点で冷めたわ」
「相変わらず美冬はドライだよね」
「だって、こんなにも可愛い姉なんだよ。なのに内面を重視するところに、嫌気がさしてさあ」
例え、好きでも向こうから好意を寄せてしまうと、冷めてしまう蛙化現象というものか、彼の嫌な部分に反応し、途端に嫌がる姿勢をみせる美冬。
「いい? このアタシが引く以上、中途半端な変わり身をしたら、承知しないんだから」
「やるなら、精一杯のあなたを演じなさいよ……」
負けを認めた悔し涙か、自分の不甲斐なさからか、美冬の瞳から大粒の涙が頬を伝う。
「美冬お姉ちゃん、ハンカチ」
「ありがとう。ハルは優しいね」
「美冬お姉ちゃんの自慢の妹だから」
白いハンカチを美冬に差し出して、懸命に優しさで包み込むハル。
姉妹でも泣いてる女は見過ごせないハル。
本当によく出来た四女だ。
もし、ハルが長女だったら、どれほど楽だろうか。
美冬はアイメイクが崩れないよう、ハンカチで目元の涙を吸わせ、細く整った小鼻をすすりながら、ハルのさりげない気遣いに感謝していた。
「ごめんね、美冬。みんな」
「いいから振り向かずに行きなさい。あなたが決めた人生でしょ」
「うん、ありがとう。私、頑張るね」
意外にも私たちの姉妹は、後ろから支えるかのように丁寧に接してくれた。
そう、今からでも遅くはない。
これから私は変わるんだ。
大好きな彼と同じレーンに立てるように──。