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「ただいまより、第二千三十七回目、
「アジのひらきとか、美味しそうだよね」
「紛らわしいから、
「はーい」
私の言うことに眉一つ動かさず、大人しくなる格闘娘、夏希。
リビング内の木の細長いテーブルには、勢揃いした三重咲姉妹が座っており、皆、発案者の私の方に顔を向けている。
見た目ギャルなのに、頑張り屋の
ちなみに
お昼ご飯も外食で、夕方まで帰ってこないと言ってたね。
「それで
「ええ、実は最近、お母さんから、私たちに、悪意を
「その目は赤く光ってたりー?」
「だから夏希は、隣の部屋でゲームでもして遊んでいて。詳しい説明は後ほどね」
「はあーい」
夏希だけは何の緊張感もない様子で、リビングの広間を活かし、正拳突きの素振りを始めていた。
そんな見るに見かねた私が、彼女をゲームという遊びで縛りつけたのだ。
「さて、何のゲームやろうかなー」
「この前ゲットした、大きな箱のプロレスしてるゲームでも」
夏希がリビングの物置きにしまっていた、お菓子のお土産のような箱を探し当てる。
その箱の表には、可愛らしい女の子のイラストが描かれていたが、裏側のイラストは、なぜか裸で、まさにカオスなパッケージだった。
「夏希、ちょっとそのゲーム、私が預からせて貰おうかな」
「えー、シキノンにオススメだからと、無料でくれたものなのにー」
「そういうゲームは、成人するまで遊んじゃ駄目。下手をすると、人格崩壊の恐れもあるから」
「はーい」
こんな過激で、現実離れした恋愛ゲームがあるから、世のオタクな男性陣が、三次元に興味がなくなるのよ。
私はその箱をリビングの奥にある戸棚にしまい込み、念入りに夏希が触らないように用心し、備え付けの南京錠をかけた。
「秋星、そのゲーム、志貴野が持っていたとなると、余計に」
「ええ、これで確証は持てましたね。彼も男としての野獣ということに」
珍しく、私と美冬との意見が一致して、彼も一人の男だとして意識する。
「つまり、母は
「
どんなに見てくれや、着飾りが良くても、浮気症の男の人なんて最低だよね。
「……となると、考えられることは」
「いえ、考える必要もないよ」
私は喋りの合間を開けて、少しだけ黙り込む。
考えられる答えは一つだけだった。
「彼があの家を出ていけば解決だから」
いかにも冷静な対処を下す私に、周りの妹たちも納得したように、ウンウンと頷いた。
「そう、あたしたちは動かなくてもいいわけね」
「まあ当然よ。私たち女の子だし、一人一人の住まいを探していたら、とんだお金と労力がかかるし」
美冬のリアルな答えに私も同意する。
お母さんも学業に専念している我が子を、無理やり追い出したりもしないだろう。
こんな状況下で思う。
何があっても、立ち向かわないといけない男の子とは違い、いざという時、守りに入れる女の子に生まれた時点で人生の勝ち組だと。
「お兄ちゃんが、ハルたちから仲良くなれる相手を見つけて、早々に旅立ってくれたら、こんな風にならなくて良かったのに……」
ハルが麦茶の入ったグラスを傾けながら、お先真っ暗となった、志貴野くんに情をかける。
ああ、こんな時まで彼の心配するなんて、ハルは優しいよね。
「自業自得よ。優柔不断で陰湿なアイツが悪いのよ」
「美冬お姉、シキノンは確かにコンニャクのようにナヨナヨだけど、そんな悪い人じゃないよ?」
一歩間違えたら、セクハラ容疑になる志貴野くんの守る側に入る、大人な夏希。
「何よ、夏希はあの男の肩を持つわけ?」
「うん、シキノンと一緒だと楽しいし、何より好きだから」
「すっ、好きって夏希お姉ちゃん?」
夏希の口から、するりと飛び出す
その好きをダイレクトに受け取ったハルは、彼女の恋愛論についていけないようだね。
でも夏希のそれは、友達としての好きだと思うけど……まさかね……。
「ハルもそうだよね」
「はっ、はいいいいー!?」
今まで落ち着いていたハルが、動転していきなり大声を出す。
「まあ、ハルが志貴野くんが好きなことは知ってたけど」
「ハルは分かりやすいからねえ」
「そっ、そんなあ……」
耳まで真っ赤になったハルが、恥ずかしげにトートバッグに忍ばせていたうちわで、顔を隠す。
「そんな秋星お姉も、美冬お姉もシキノンが好き」
「なっ!?」
「そっ、そんなわけが!?」
私も美冬も夏希からの突然の告白に、息を詰まらせていた。
「あー、コホン。まあ、そういうことなら仕方ないわ。今後の三重咲姉妹の運命を左右するイベントを決めたわよ」
考えを改めて整理し、ようやくこの会議の真の目的を伝える私。
「私たちが一人一人、志貴野くんとデートして、彼の一番の女になれるかどうかの勝負よ」
「なるほど、そう来たか」
「実に秋星お姉らしいのだ!」
みんな、私の発案に同意してくれる。
長女だからとか、流れ的にではない。
私を心から信頼しているという行為そのものが、じんわりと伝わってくる。
「ありがとう。一番好きになった相手はマンションを借りて、同居出来るように親に打算してみるわ」
「同居ねえ。毎日、夏希のためにドーナツ揚げてくれるかなー?」
「……何でもう、なっちゃった限定なわけ?」
私たちは、新生活のマンションと今の不自由ない生活を両天秤にかけ、恋というステージを一歩踏み出す。
今はまだ不明だけど、彼のハートを射止めるのは、どの姉妹になるのかと──。