目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第37話 今はまだ不明だけど、彼のハートを射止めるのは、どの姉妹になるのかと──。(秋星視点)

****


秋星あきほSide】


「ただいまより、第二千三十七回目、三重咲みえさき姉妹緊急特別会議を開きます!」

「アジのひらきとか、美味しそうだよね」

「紛らわしいから、夏希なつきはちょっと黙ってて」

「はーい」


 私の言うことに眉一つ動かさず、大人しくなる格闘娘、夏希。


 リビング内の木の細長いテーブルには、勢揃いした三重咲姉妹が座っており、皆、発案者の私の方に顔を向けている。


 見た目ギャルなのに、頑張り屋の美冬みふゆなんて、夜遅くまで夏休みの宿題をしていたせいか、半分寝ぼけており、時折ときおり、あくびを噛み殺していた。


 ちなみに志貴野しきのくんと、賢司けんじくんは、秋からの受験勉強の下見のため、図書館にお出かけして、この自宅にはいない。

 お昼ご飯も外食で、夕方まで帰ってこないと言ってたね。 


「それで秋星あきほ、朝っぱらから、この部屋でみんなを集めて、何の話なのよ?」

「ええ、実は最近、お母さんから、私たちに、悪意をいだかれています」


 まとを得た発言に、私を除いた三人の姉妹の顔色に影が差し、罰が悪そうに、その場でそわそわしながら髪の毛をいじる。


「その目は赤く光ってたりー?」

「だから夏希は、隣の部屋でゲームでもして遊んでいて。詳しい説明は後ほどね」

「はあーい」


 夏希だけは何の緊張感もない様子で、リビングの広間を活かし、正拳突きの素振りを始めていた。

 そんな見るに見かねた私が、彼女をゲームという遊びで縛りつけたのだ。


「さて、何のゲームやろうかなー」

「この前ゲットした、大きな箱のプロレスしてるゲームでも」


 夏希がリビングの物置きにしまっていた、お菓子のお土産のような箱を探し当てる。

 その箱の表には、可愛らしい女の子のイラストが描かれていたが、裏側のイラストは、なぜか裸で、まさにカオスなパッケージだった。


「夏希、ちょっとそのゲーム、私が預からせて貰おうかな」

「えー、シキノンにオススメだからと、無料でくれたものなのにー」

「そういうゲームは、成人するまで遊んじゃ駄目。下手をすると、人格崩壊の恐れもあるから」

「はーい」


 こんな過激で、現実離れした恋愛ゲームがあるから、世のオタクな男性陣が、三次元に興味がなくなるのよ。

 私はその箱をリビングの奥にある戸棚にしまい込み、念入りに夏希が触らないように用心し、備え付けの南京錠をかけた。


「秋星、そのゲーム、志貴野が持っていたとなると、余計に」

「ええ、これで確証は持てましたね。彼も男としての野獣ということに」


 珍しく、私と美冬との意見が一致して、彼も一人の男だとして意識する。


「つまり、母は志貴野しきのお兄ちゃんが、タラシーな女好きで、見境なく、ハルたちに手を出しまくっていると」

流石さすがハルね、その通りよ」


 春子はるこことハルも、志貴野くんの女癖の悪さに気付かされたのか、固く拳を握りしめて、プルプルと体を震わす。

 どんなに見てくれや、着飾りが良くても、浮気症の男の人なんて最低だよね。


「……となると、考えられることは」

「いえ、考える必要もないよ」


 私は喋りの合間を開けて、少しだけ黙り込む。

 考えられる答えは一つだけだった。


「彼があの家を出ていけば解決だから」


 いかにも冷静な対処を下す私に、周りの妹たちも納得したように、ウンウンと頷いた。


「そう、あたしたちは動かなくてもいいわけね」

「まあ当然よ。私たち女の子だし、一人一人の住まいを探していたら、とんだお金と労力がかかるし」


 美冬のリアルな答えに私も同意する。

 お母さんも学業に専念している我が子を、無理やり追い出したりもしないだろう。


 こんな状況下で思う。

 何があっても、立ち向かわないといけない男の子とは違い、いざという時、守りに入れる女の子に生まれた時点で人生の勝ち組だと。


「お兄ちゃんが、ハルたちから仲良くなれる相手を見つけて、早々に旅立ってくれたら、こんな風にならなくて良かったのに……」


 ハルが麦茶の入ったグラスを傾けながら、お先真っ暗となった、志貴野くんに情をかける。

 ああ、こんな時まで彼の心配するなんて、ハルは優しいよね。


「自業自得よ。優柔不断で陰湿なアイツが悪いのよ」

「美冬お姉、シキノンは確かにコンニャクのようにナヨナヨだけど、そんな悪い人じゃないよ?」


 一歩間違えたら、セクハラ容疑になる志貴野くんの守る側に入る、大人な夏希。


「何よ、夏希はあの男の肩を持つわけ?」

「うん、シキノンと一緒だと楽しいし、何より好きだから」

「すっ、好きって夏希お姉ちゃん?」


 夏希の口から、するりと飛び出すという言葉。  

 その好きをダイレクトに受け取ったハルは、彼女の恋愛論についていけないようだね。


 でも夏希のそれは、友達としての好きだと思うけど……まさかね……。 


「ハルもそうだよね」

「はっ、はいいいいー!?」


 今まで落ち着いていたハルが、動転していきなり大声を出す。


「まあ、ハルが志貴野くんが好きなことは知ってたけど」

「ハルは分かりやすいからねえ」

「そっ、そんなあ……」


 耳まで真っ赤になったハルが、恥ずかしげにトートバッグに忍ばせていたうちわで、顔を隠す。


「そんな秋星お姉も、美冬お姉もシキノンが好き」

「なっ!?」

「そっ、そんなわけが!?」


 私も美冬も夏希からの突然の告白に、息を詰まらせていた。


「あー、コホン。まあ、そういうことなら仕方ないわ。今後の三重咲姉妹の運命を左右するイベントを決めたわよ」


 考えを改めて整理し、ようやくこの会議の真の目的を伝える私。


「私たちが一人一人、志貴野くんとデートして、彼の一番の女になれるかどうかの勝負よ」

「なるほど、そう来たか」

「実に秋星お姉らしいのだ!」


 みんな、私の発案に同意してくれる。

 長女だからとか、流れ的にではない。

 私を心から信頼しているという行為そのものが、じんわりと伝わってくる。


「ありがとう。一番好きになった相手はマンションを借りて、同居出来るように親に打算してみるわ」

「同居ねえ。毎日、夏希のためにドーナツ揚げてくれるかなー?」

「……何でもう、なっちゃった限定なわけ?」


 私たちは、新生活のマンションと今の不自由ない生活を両天秤にかけ、恋というステージを一歩踏み出す。

 今はまだ不明だけど、彼のハートを射止めるのは、どの姉妹になるのかと──。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?