「ねえ、
「何かな、急に真面目な顔して?」
「おっ、お腹空かない?」
「おいおい、まだ二時限目が始まったばかりだよ」
「……そうなんだけど」
体育の授業のけん制が窓から響く保健室にて、
空腹のわりには、やけに顔色が良いのが、気になるけど……。
気のせいかな。
ほんのりと頬が
だけど普通に酔ってるわけでもなさそうだし?
(未成年の飲酒は法律により禁止です)
「でもハルの言いたいこととは違うよね?」
「あっ、分かっちゃう?」
「ハルは嘘がつけない真面目な女の子だからね」
「はうっ、突然、何のつもりなのー!?」
僕の突拍子な質問が図星だったのか、ハルが大きな叫び声をあげる。
別に流れ作業でも、バケツリレーでもないし、そんなに焦ることもないじゃん。
「……と、
「えっ?」
残念ながら、その言葉は僕じゃなく、例の濃厚ダシなイケメンの言葉だ。
だからハルには全てを知ってほしい。
──だけどハルは理解すらしていない。
しょうがないなと口を滑らし、僕はもう少し噛み砕いた言い方に変える。
「──だから僕の考えじゃなくて、親友が言った台詞だよ」
「なっ、ハルは思わず……こく」
「
「バカ。もう知らない!」
「ぐはっ!?」
例の漫画みたいに私、麻雀できます的な愛らしい女の子っていないんだな。
リーチとか言って、ニヤけながら牌を並べて、この国士無双に敵う相手なんているものかしらと髪を
ああ、そんな罪深い女の子を真剣に更生することが出来るのか。
ギャンブル依存症も立派な病気である。
まあ、『わたくしはギャンブルを程よく嗜んでいますわ、オーホッホッー!』とまで言われたら、こちら側からは言いようがないけど……。
「あーあ、こんなお兄ちゃんなんて、好きにならない方が良かったなあ……」
「へっ、それってどういう?」
「あっ、あわわ……」
ハルの呟きに反応した瞬間、茹でダコのような顔色でテンパっているハル。
別に妹が兄を尊敬するなんて、友達みたいな感覚で、好きになるなんて普通じゃん。
そんなに頬を赤らめて、何か恥ずかしいこと言ったのかな。
「わっ、忘れて。今の言葉は聞かなかったことにしてー!!」
「イタ、イタタ、暴力反対ー!?」
「お兄ちゃんが悪いんでしょ!」
「ぐえっ!?」
ハルが手に持っていた教科書の束で、僕の頭を小突く。
勢い余ってタン塩じゃなくて、まだ焼かれてない、生きている方の舌を噛んだじゃん。
『──ねえ、大丈夫かな』
『もう
──そんな中、保健室のくもりガラスを通じて、聞き覚えのある女の子たちの声が聞こえてくる。
声の主からして、僕の姉妹の声であることは分かるし、会話からして、秋星がいることも分かる。
「うわっ? ガチでマズい!?」
「ちょっとお兄ちゃん!?」
「大人しくしてて、ハルがいることがバレたら大ごとになるから」
「だからって布団の中にもぐらせるなんて」
「いいから静かに」
僕はベッドの布団にハルを頭ごと被らせ、何の違和感もない自然体で、布団に寝入るフリをする。
姉妹と言えど、美少女相手に心臓の鼓動は高鳴り、自分らしくない大胆な行動に、体が火照る。
24時間コールセンターじゃないけど、これでいつでも対応が可能だね。
「おーい、シキノンは無事であるかー。この
「夏希、それを言うなら外務大臣でしょ」
「イヤア、ニホンノヤサイセイカツニナレテナクテ」
「何で片言の日本語なのよ。しかも語源も怪しいし……」
その言葉にはジュースという言葉も混じっていて、家族持ちはお互いに支え合って助け合いが出来るけど、いざ暮らすとなると色々と大変だよねと、勝手に解釈してる僕。
「秋星、野菜、飲み足りない?」
「違うでしょ!」
市販の野菜ジュースは加熱し、殺菌して仕上げているので、その時点で大事な栄養素は排水に流れている。
野菜を食べるならハムスターの如く、生でバリボリいってみよう。
「みんな、静かにしてよ。今、生徒は授業中だし、志貴野くん、寝てるみたいだから」
「おっ、やるな、モグラシキノン。こんな朝っぱらから日の光も浴びずに」
「まあ、陰キャオタクに校長の長い朝礼は辛いわよね」
お三人さんの言うことは正論であり、的外れでもない。
たった数ヶ月で僕のこと、よく知り尽くしてるね。
「──志貴野くん、先生に頼まれて、お見舞いに来たんだけど平気?」
「ああ、僕は問題ないよ」
「良かった。先生から倒れたって、話を聞いた時はもう……」
「えっと、泣かないでよ……」
理由はどうあれ、目の前で女の子を泣かすとか、まるで告白イベントのバッドエンドのようで苦手だな。
「シキノン、その膨らみはもしや?」
「そう、夏休みにアイスの食べ過ぎで腹が出ちゃってさ。この通り、タプタプなんだ」
秋星がプリンやポカリの入ったコンビニの買い物袋を机に置き、心配して僕を気遣う中、夏希の視線は、布団を被ったメタボなお腹の方へと目がいっていた。
「そうなん。何ごともほどほどにな」
好意的な二人とは違い、
……というか、今日もゴミを見るような目つきなんだけど。
美冬にとっては僕はクズ扱いで、妖怪人間にすらもなれないのか。
「美冬、何のつもり?」
「いや、アンタも大人になったんだなと思ってね」
「えっ、えっと……」
ヤベエ、その卒業したという言い草、もしかしてハルと同じ布団にいることに、薄々気付いてる?
「大丈夫よ。保健医の先生には何とか誤魔化しとくから。好きなだけ埋もれてな」
「美冬?」
「しかし、アンタもすみに置けないわね。アタシたち姉妹をそっちのけで、他の相手に手を出すなんて」
やっぱりバレてるじゃん。
かろうじてハルとは断定してないけど。
「……志貴野くんの不潔」
「だから誤解だって」
秋星が鋭く冷たい視線でこちらを睨む。
あー、僕、陰キャでヘタレだし、断じて、一線は越えてないって。
「──ああっ、この布団の中、暑いー!!」
「あっ……」
沈黙に耐えられず、僕が言い訳を探そうと、離れの人体模型に目をやる中、被さった布団を蹴飛ばし、汗だくのハルが僕の前に現れる。
「……アンタ、中学生に手を出したら犯罪よ」
「シキノンにハル。プロレスごっこ楽しそうだね! 夏希も参加できる?」
オワタ。
何もかも。
しかも夏希にも余計な誤解をさせて……。
「やめなさい、夏希。これから私が二人に説教を食らわせるから」
「あーあー、ついに秋星がキレちゃった……」
どうやらここで、例の会議をやるらしい。
スマホで何やら、部屋の貸し切りがどうかと、ご丁寧に連絡してるし……。
「あのさあ、これは断じて違って……」
「そうだよ、ハルはね……」
「若い男女が一つのベッドに
秋星の大きな声が振動となり、保健室全体を震わす。
棚に置かれた花瓶だけでなく、あの人体模型さえもカタカタといわすほどだ。
「はひぃぃぃっー!?」
僕は秋星の本性を知ってしまい、思わず奇声を発してしまう。
例え、普段は気の合う姉妹でも一人の女。
姉妹でも本気で怒らせると怖いもんだな。