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第47話 いつもお世話になってるし、最初からこうすれば良かったね

「……でこうなったと」

「まあ、当然の結果よね」

「だからって、こんなにもキツく縛られたら、身動きさえもできないよ」

「当たり前よ。そういうトラップなんだから」


 ──ファミレスでの福引き騒ぎから、数日後……。

 早朝から掃除当番のため、モップを持って、四姉妹のうちの夏希なつきの暗い部屋に踏み込んだ僕。


 すると、床にあった何かに引っかかり、天井からハンモッグのように、フックの付いた網で吊られる形になってしまう。

 文字通り、全身を縄で縛られているような状態だ。


 どうやら、畑に出てきたイノシシなどを捕まえるための罠だったらしいけど、それを人間相手に放つとは……。


「──シキノン、チャーシューになったご感想は?」

「やっぱり夏希の仕業か。僕はいつから食べ物になったのさ」

「シキノンも驚き。子猫も喜ぶちゅーるんなのだ」

「跡形も無くなるよ」

「まさにペロリだねw」


 夏希たちが部屋に戻ってきて、明かりをつけるが、ツボに入ったのか、夏希が猫のおやつの小袋を持ったまま、ケラケラと笑い出す。

 宙吊りのまま、猫の好物になったら、命がいくつあっても足りないよ。

 いや、ゲームとは違い、バーゲンセールにしても、命は一個限りだよね。


志貴野しきのくん、こうなったら覚悟は出来てるよね」

「何だよ、さっきから意味不明だよ」

「まだ分からないの、お兄ちゃん」


 秋星あきほが柄にもなく腕を組んで、いつもと違う冷笑を向けてくる。

 あれ、まるで秋星も春子はるこも、美冬みふゆのように僕に警戒してるように見えるけど、姉妹だから当たり前か。


「お兄ちゃんは、これから四姉妹の一人だけを選ばないといけないの」

「えっ、総選挙でもするつもり?」

「四人ならアイドルグループを組んだ方がいいよね。美少女四人でBSJ48」

「BSって、どこの衛星放送だよ」


 デジタル放送で人気な番組で、地上波よりも豊富なジャンルが楽しめるが、受信料は多少高めである。

 しかし近年、テレビ自体を観る若者が減り、You Tu○eやネット配信専用の映像が観れるチューナー無しのスマートテレビというものも安価であるとか。


「コラッ、夏希は茶々を入れないの!!」

「梅昆布茶が体に良いらしい」

「ちなみにお湯はぬるめですか?」

「秋星、猫舌だもんね」


 無理して熱いのを飲んでも、舌や喉を傷つけるだけ。

 下手すれば癌にもなるし、猫だけに常温が一番だね。


「ネコ踏んじゃってー♪」

「夏希はクリスチャンだよね」

「そうか、夏希の本名はクリスなのか」

「えっ、シキノン、夏希は日本生まれの夏希だけど?」


 ギリスト教の信者は、猫の姿を彫り込んだ、銅の板を踏むことは許されない。

 江戸時代、猫嫌いな殿様が、家で猫をペットとして飼っていることを確かめるために行った行為(フィクションです)だったけど、部屋の爪痕や匂いとかで十分分かるよね。


「ところで志貴野。今日までアタシらと過ごしてきたけど、何か感じたものはない?」

「うーん、レントゲン写真を撮られたわけでもないし」

「違うでしょ!」

「おわっ!?」


 普段よりも強烈な怒り声の美冬。

 僕はびっくりし、レントゲンのX線を浴びたかのように、その場から飛び上がる。

 ああ、これは電気ショック(静電気)を食らった感覚と同じだったね。


「アタシたちの中で、誰が一番好きかって言ってんの!」

「ええっ、美冬があああー!?」


 予想外の人からの言葉に声が裏返る。

 だって姉妹の中で僕に一番キツく当たり、キモオタとか酷い呼び方をしてきた、あの美冬がだよ?


「あう、恥ずかし。いくら何でも単刀直入すぎるよ」

「秋星も馬鹿ね、この鈍すぎる男には誤魔化した表現だったら、通じもしないわよ。好きなら好きと、ストレートに口に出して伝えないと」


 美冬は内気な秋星と正反対で、恋をしたらグイグイ迫るタイプか。

 大人し過ぎるのも苦手だけど、この肉食系のタイプには正直、対応に困るよね。


「夏希も好きだよ、シキノンのこと」

「なっ!?」

「いつも色んな駄菓子買ってくれるから」

「見事に餌付けされてるね……」


 一番恋に興味無さげな夏希からも、大胆の告白。

 美味しい物をあげた時点で、彼女の心は信頼の恋に満たされる。

 それが種類豊富な味のうまい棒というものであってもね。


「夏希はペットか、何かか?」

「大きいだけに色々と抑えきれないんでしょ」

「男の子も大変ですね」

『ササッ』


 僕を獣の感覚で凝視しながらも、半径1メートルから近づきもしない果汁グミならぬ、三重咲みえさき姉妹組。


「あのさあ、何も嫌がらせしてないのに、みんなして、僕から距離を保とうとするの止めてよ」

「実はな、シキノンはウイルス感染者だった」

「ホラーゲームみたいな設定にしないでよ」


 僕はこの世界をバイオ○ザードのような世界観にした覚えはない。

 ゾンビが主導権を握る異世界なんて、くそったれだ。

 安心して焼肉屋にも行けやしないよ。


「それよりも、もっと大事な話があって呼んだんじゃないの?」

「そうだった。まずは人質の解放だね」


 秋星の指図に美冬がナイフでロープを切り、縛られていた僕を解放する。


「ほら、もう現行犯なんかで捕まるんじゃないぞ。犯罪者になりたくなかったらな」

「あのさあ、僕、何か悪いことした?」

「福引きで一等ヘアイ旅行券を当てて、そのペア旅行の相手を探し、女心をもてあそんだ以外にはね」


 そうさ、美冬の言う通り、確かに僕は一等の景品を当てた。

 でも僕に女の子と行くという、下心はなかった。


 ただ日頃から、窮屈な暮らしをしてる姉妹へのご褒美として、このチケットで遊びに行って欲しかったんだ。

 四姉妹のうち、二人組でしか行けないから、公平にじゃんけんで勝負しようとして……。


 なのに、この部屋に入った途端に、この有りさま。

 鬼の角が生えていそうな秋星たちには、通用しないけど……。


「それで僕を宙に縛りつけたんだね」

「ええ。これから火あぶりの刑だったのよ」

「イエース。シキノンはこんがり炭火焼きでござる」

「ねえ、僕は魔女狩りの対象者なの?」


 同じ狩るなら、秋の味覚を狩りたいものだ。

 松茸、サンマ、マロンに猫じゃらし、マタタビと猫の手も借りたい。


「いいや、シキノンは自撮りで炭火焼きにするつもり」

「オケ。中までよく火を通してね」


 食品衛生上、食中毒防止のため、じっくり焼くことを教える美冬。


 料理ができる女の子だけあり、自信満々で色々とポイントが高い。

 ちなみに現金ではなく、ポイントが高いという部分がミソだよ。


「あのさ、楽しみにしておいて悪かったけど、ヘアイって言っても日本の周防○島なんだけど?」

「「「えっ!?」」」


 いつもはスルーして話を続けるのに、海外のヘアイじゃないことに、言葉を詰まらせる姉妹たち。


「さてとアタシは部屋に戻らないと」

「私もそういえば、英語の課題をもらったばかりなんですよね」

「まあ、貰えるものは貰っておく」

「ハルも買い物行って、受験対策しないと」


 四姉妹が興味なさげになり、物事の判別がついてない夏希以外は、別の行動に移っていく。

 その振る舞いが、あまりにも下手くそで腹が立ってくるね。


「姉妹揃って、誤魔化すなあああー!」


 このままでは、らちが明かない。

 結局、福引きで当てた一等の旅行券は僕らの両親にあげることにした。

 いつもお世話になってるし、最初からこうすれば良かったね。


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