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「──そうして
「そうか、
賢司の父親の行方不明となった事実が明らかになり、僕はどうしていいのか分からない、複雑な気持ちだった。
「だがな、隠し事というのは、いつかは
おじさんが空のグラスに、新たなお酒を入れて、その香りに酔いしれる。
まあ、実際には数本の酒のボトルを開けて、すでに酔ってるんだけどね。
「でも見つからなかった……?」
「いや、正確には見つかっていたのさ」
「えっ、バレてたの?」
偽装工作もまともにできなくて、よく噂にならなかったよね。
マスコミは署内で専用の部屋にいて、ハイエナのように常に情報を狙ってるからね。
「そうさ。その口封じと警備を兼ねて、アカサカファミコンショップでバイトをさせるようになったのさ」
「莫大な金額で釣り上げて、寝たきりだった春子さえも奇跡的に救ってな」
「なるほど。それでハルは回復し、兄妹揃ってあの店に……」
「あの場合、賢司が地下牢の守り番、春子が情報収集の売り子みたいな感じかな。店の経営を維持するには金が必要だったからね」
やっぱりそうか。
あの時、ファミコンショップにハルが居たのは偶然じゃなかったんだ。
僕のゲーム好きな趣向をリサーチし、運命の出会いのフリをして、あの場所で待ち構えてたんだね。
なのに、僕は勝手にテンション上げて、可愛くて気の合う妹ができたように一人で浮かれて……。
まさに心の中身は、お尻に卵の殻が付いたヒヨコだよ。
「やがて春子は君の妹となって
「つまり詐欺ということか」
「うむ。賢司には友達感覚で、君や
「そうか、それで僕らのいる先々に賢司が現れて」
「まあ、普通ならその時点で、何かしら気付くものなんだけどね」
「はい、すいません……」
自分の鈍感さで僕だけじゃなく、三重咲姉妹の方さえも傷付けてしまった。
胸の奥まで申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。
「おじさんはね、本当は秘匿の警察官でもあり、ご存知のように詐欺疑惑の神楽坂の行方を伺っていたんだよ。こうしてここで仲間と会話をしていたのはそのためさ」
「なるほど。こんな
こんな披露宴のイベント中や休憩中でも、賢司の姿は見えないままだけど、どこかで耳を澄ましているんだろうね。
いつ現場に飛び出しても、ボケとツッコミで誤魔化せるように……。
「それもだが、疑惑という呼び名の通り、神楽坂には物的証拠というものがない。だから刑罰も軽く、すぐに出所できてしまう」
「証拠というのは催眠術ということ?」
「なっ、どこでそれを知った、
おじさんが突然、席を立って、僕の襟を強く掴む。
肺に酸素が回らず、息ができなくて苦しいよ。
「痛い、痛いって。おじさん、乱暴だよ!?」
「ああ、私としたことがついカッとなって……すまない」
おじさんが反省した素振りで、僕の乱れた作務衣を整える。
「しかし、それが本当なら、我々も考えを改めないとな」
「相手は催眠術の使い手。警察官でも下手に動けないということだね」
「うむ。それに警察は事故に発展してからではないと、動けないのも弱みでな」
「確かに。アイツはお馬鹿そうで、中々の切れ者ですよ」
僕は低い姿勢となり、傍で聞き耳を立てていた一人の妹に目で合図する。
「というわけで確保ー!!」
「よっしゃー、人参旋風脚!」
「うおっ、何だね!?」
人参のモコモコなぬいぐるみをガムテープで足に括りつけて、回転回し蹴りをする夏希。
空手家の一本でも人参。
それだけでもインパクトは十分だね。
「こんな風にね」
「うん、シキノン。きっちり捕らえたよ」
夏希がおじさんの後ろ手を紫のなわとびで縛り、この場で動きを封じる。
夏希曰く、日頃からトレーニングの日課として、なわとびは欠かせない。
「くっ、いきなり何の真似だね!?」
「いきなりはこっちの方だよ。賢司」
「むぐっ……」
僕はおじさんの帽子を取り、あごに手をかけて、その面を思いっきり引っ張ると、おじさんの仮面がゴムマスクのようにすっぽりと取れる。
「
「何とか外で見張りをした警察官に取り押さえてもらったわよ。だけどアンタも中々やるじゃん。この冴えないおじさんが賢司の変装だなんて」
素顔を晒された賢司は無表情のまま、何も語ろうとしない。
「酔いもしないノンアルを飲み、こんなにベラベラと個人の秘密を語る、秘匿の警察官なんているかよ」
「それもそうね。情報漏えいというヤツね。現金を受け取った時点で収賄にもなるし」
美冬が納得しながら、夏希と車椅子の僕と協力し、賢司を取り囲む。
ここで逃がしたら、相手の思うつぼだ。
神楽坂おじさんに続いて、この男を逃せば、二人とも警戒し、もう身近に接触するチャンスはないはず。
これは僕に残された、最後の賭けでもあったんだ。
「さあ、賢司、今度こそハルの居場所を教えてもらおうか」
「だからハルは誘拐されたおじさんの命令で、樹節家に潜り込んだって!」
「なるほど、姿が見えないと思ったら、神楽坂おじさんに誘拐されてたのか。
「はい。きっちりと撮らせてもらいました」
「なっ!?」
式場というステージから、品よく下りてきた僕の花嫁の手には、証拠という映像を収めたものが握られていた。
「秋星もご苦労さん」
「ドレスが派手な部分、カメラは隠しやすかったけどね」
最近のビデオカメラは手のひらサイズとコンパクトで、初心者でも使い方が楽らしい。
価格もお手頃なのが増えたし。
「さあ、賢司。お前たちの悪巧みもここまでだ。ハルを誘拐し、僕の両親の財産を奪おうとした君の野望もな」
「フフッ。10万という金にしろ、尋問にしろ、見事にハメられたわけか。こりゃ笑わせてくれるぜ」
本性を現した賢司が大きく笑いながら、僕らの包囲網をあっと言う間に抜ける。
前から感じていたけど、並外れて身体能力が高い男だよね。
「ここはダッシュで逃げるに限るぜ。車椅子で俺の走りについていけるはずがないしな!」
賢司が逃げの姿勢で構えるが、その時点で十メートルの差はついてる。
日本新記録かよ。
「あばよ、百年後に会おうや!」
「……百年も待てるわけがないでしょ」
車椅子から降りて、そのメートルの幅をゆっくりと歩いて追いかける僕。
「……って、あれ?」
これには賢司も立ち止まり、顔色は真っ青だよ。
僕に協力してた三重咲姉妹はクスリと笑ってるし、ざまあないね。
「なっ、何で、動けるんだよ!?」
「さあね、僕の足にでも聞いてくれ」
一つだけ分かったことがある。
例え、何かが原因で足が動けなくなっても、強い意志と積極的なリハビリをすれば、再びこの大地を蹴ることもできるんだ。
実は僕は歩けるほどに回復したけど、精神的ストレスも重なって歩けなかったということも……。
さあ、長き因縁に終止符を──。