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第105話 大人しく

 土日を跨いで翌週を迎え、二学期中間テストが行われた。

 こちらの手応えは上々。今回も問題なく平均点を取れそうである。


「いやー、やっと五人で集まれた」

「皐月、マユちゃんにちゃんとお礼言った?」

「したよしたした」

「大丈夫リン、失礼なことは一切なかった」

「ほら、マユもそう言ってるでしょ」

 5日ぶりに二組の教室に来た日高と加賀見を、春野と安達が相手する。

 こう言っては何だが、この四人の収まりが他の組合せと比べても最もしっくり来る。


「で、私達がいない間に何か変わったことないの?」

 日高、変わったことは早々起きるもんじゃないぞ。

「え、いや別に」

「うん、何もないよ」

 春野と安達が何の気なしに答えた。

「なーんだつまんない。三人の距離感がもっと変わってたら面白かったのに」

「いや、そうはならないでしょ」

「普通に一緒にお弁当食べて、休み時間にお話ししただけでねぇ」

 うん、春野と安達の意見に全くもって同意します。

「皐月、落ち込まない。普通はそういうもん」

「いやマユ、アンタが『この三人だけにすれば面白いことが起こるかも』とか言ったんでしょ」

「え、そうなの?」

「マユちゃん、どういうこと?」

 おっと急に話が変わってきた。春野と安達が加賀見に質問する。

「ああ、あれ嘘。ゴメンね皐月」

 加賀見がペコリと日高に頭を下げる。随分あっさりした仕草だった。

「え、何で?」

 そんな嘘をついたのと日高が加賀見に問うた。

「コイツがミユとリンの三人だけで集まったとき、どう反応するか知りたかった」

「え、俺?」

 コイツと言ったときに俺の方を指差してきたのでまず俺のことらしい。

「そう。例えば二人を振り切って一人だけになろうとしたら新しいショーを披露しようかと思ってたんだけど」

 無表情にこちらを見てくる加賀見。ショーってあれか。内容は全く記憶にないけど林間学校のときに俺だけのために開催された世にも恐ろしいイリュージョンのことか。


「あー、それについては頭を過らんでもなかったよ」

 そりゃあ当初は加賀見もいないことだし何とかして一人静かにやり過ごせないかと思ってはいたさ。

「だがそうしたらお前が何するかわかったもんじゃねーからな」

 どうあっても後に待ってる加賀見の制裁を逃れられる気がしなくて遠慮したさ。

 安達・春野・日高は俺の言葉を受けて揃って苦笑い。加賀見の恐ろしさは俺だけじゃなくこの三人にとっても共通認識としてあるようだ。被害者は俺一人だけど。

 加賀見はニヤーっと嫌な笑いを浮かべた。

「ふふ、アンタも大人しくなってきたんだね」

「上から目線の言い方やめろ」

「えー、そんなことないよ。友達として嬉しいなって」

 ああ、その「友達」ってフレーズを猛烈に否定したい。


「今度五人で遊びに行くときもそんぐらい大人しいと楽なんだけど」

 おい、遊びに行く? また遊ぶ予定立ててんのか、お前。

 もういいじゃん。俺にとっては一生分遊んだよ。これ以上はやり過ぎだって。物事には限度ってものがあるんだって。

「おー、いいね」

「今度はどこ行こっか」

「あんまりお金掛かんない場所がいいかな」

 女子達が口々に遊びの計画を話し合っていく。ああ、俺はもうコイツらから逃れられない定めなのか……。


 あれ。待てよ。加賀見が「五人で」とは言ってたけどその内訳については特に明言してないぞ。

 ということは人数が五人なら問題ないのか。

 それなら俺は抜けて、誰かに穴埋めしてもらおう!

 奄美先輩とかどうかな。彼女なら学年離れてるとしても加賀見や春野と縁があるし。


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