俺のいるクラス、一年二組においては出し物がお化け屋敷に決まった。奄美先輩のクラスもそうだったけど、日本の高校の文化祭においては必ず存在すると言ってもいいぐらい定番の出し物だよなー。やっぱ皆やりたいんだね。
クラスメイトの役割分担も滞ることなく決まり、俺はお化け屋敷に使う小道具の作成を担当することになった。他、仕事が終わったときの雑用等。
他のクラスメイトも大半は俺と同じような役回りで、それ以外は文化祭当日の受付やお化け屋敷に模した教室の中に入ってお客さんを驚かす役に回るといった案配だ。
そのような流れで俺は放課後、他のクラスメイト達とともに小道具を作る作業に勤しんでいた。
「黒山君、提灯作るのうまいね」
「そうでもないだろ」
「いや、うまいよ。それ店に置くような本格的なヤツじゃないの?」
「言い過ぎだろ。これ中に蝋燭入れられるように出来てないぞ」
「逆に言うとそこ作ったら完璧なんじゃ……」
安達がやけにほめそやす。そんなことしたって何も出ないぞ。
安達は俺とともに小道具を作る係になっていた。
同じ係のクラスメイト達はそこかしこに仲良しの者同士でグループを自ずと作り、お喋りに興じながら提灯や墓石、卒塔婆等を模した簡単な小物をそこらの材料で作っていた。教室の床には段ボールや紙切れなどが散らかっている。
安達はと言うと当たり前のように俺の作業スペースへ近付き、俺に話を振りつつ段ボールを細長い形にカッターで切っていった。多分卒塔婆のつもりだろう。
「ところでお化け屋敷のクラス、他にもあるんだってさ」
「ほう、そうか」
安達がどこかで仕入れた情報を俺に話し出す。
……球技大会のときみたく同じクラスの奴らの会話に万遍なく聞き耳立てたんだろうな……。もうツッコむ気にはならんけどさ。
「まあ文化祭って言ったらまずお化け屋敷が挙がるしな。もう1~2クラスやっても不思議はないんじゃないか」
「10クラスぐらいあるんだって」
「マジか」
「いつもは5クラスぐらいだけど今年は多いみたいだよ」
「恒例なのか」
思わず提灯を作る手が止まった。何だその文化祭。お化け屋敷の見本市かよ。
それだけ同じ出し物が重複してるのに全て許容する我が校の懐の広さには恐れ入る。でもいくら懐広いといっても加賀見という暴虐の象徴みたいな奴を生徒に迎え入れるのはよくないですよ。わかったらさっさと奴を退学にしてください。
「ここまで行くとお化け屋敷以外の出し物に人が集中するんじゃないか」
「うん、そうだね。私達の所は激戦区かー」
「人が分散するから仕事は楽そーだけどな」
「まー、そーだね」
別にお金取れるわけじゃないし、楽な方がいい気がする。
「安達さーん、そこの段ボール少しこっちに分けてもらっていい?」
「はーい」
安達が近くにいたクラスの女子の一人に手元の段ボールを回す。彼女もこの教室で俺達と同じく小道具を作っており、安達に「ありがとー」と言うと別の女子達のグループへ戻っていった。
普段安達とはあまり交友のないクラスメイトだが、この文化祭の準備にてそれなりに安達とコミュニケーションを取り合っていた。
安達の方も作業にあたって確認や相談したいことが出たとき、担当のクラスメイト達の元へ赴いて積極的に話しかけていた。加賀見辺りが見たらビックリしそうだな。
「なあ、一つ思ったんだが」
「え、何?」
「さっき話した女子のいるグループに混じってきてもいいんじゃないか?」
安達が首を傾げる。
「黒山君、あの子達のところへ行きたいの?」
「何でそうなる」
全く予想外の解釈されたよ。俺にそんな意欲ないよ。それ以前に何で俺も同伴前提なんだよ。
「お前だけ行って、お前がこのクラスの女子達とこの機にもっと交流したらどうかって言ってんだ」
「えー、それはさすがに無理だよ」
安達がヘラヘラしながら一蹴した。オイオイ。
「でも今向こうからも話しかけてきたじゃねーか。お前だってクラスの奴らに話しかけてたし」
「作業の話はね。でも、それ以外の話題は特に出してないよ」
あー、事務的な話だけ対応可能なタイプか。仕事の上では関わってもプライベートでは関わる気ないってことですか。ドライですね。
「そうかい」
俺は会話を切り、粗方作り終えた提灯を傍に置き、折り紙にハサミを入れた。
安達も細く切った段ボールに形の崩れた文字を書き入れていった。