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第130話 迎える前に

「ねね、皆に訊きたいんだけど」

 安達が加賀見・春野・日高・俺へ改まる。

「ん、どしたの」

「皆の誕生日、教えてもらってもいい?」

 うわ、来たよ。

 加賀見が安達の誕生日パーティーを提案した日から恐れてはいたものの、このタイミングで全員の誕生日を確認するなんて全員分のパーティーをする気満々じゃねーか。そんなバイタリティどこから来るんだよ。

「マユちゃんは2月8日だったよね」

「ん。早生まれ」

 加賀見の誕生日は既に知っていた模様。まあ、加賀見が安達の誕生日を知ってたぐらいだしさもありなん。

「私は4月15日!」

 続いて春野が打ち明ける。あれ、そうだったのか。

「5月23日」

 日高もサラっと答える。まさか生まれた月を旧暦に直して皐月皐月って名前を付けられたのか。いやまさかそんな安直な。

「ほら、残りはアンタだけだよ」

 加賀見が俺に振ってきた。

「スマン。我が家には誕生日を他人に教えてはいけないっていう昔からの家訓があってな」

「へーそうなんだ、てなるわけないでしょ」

「どんな地域で生きてきたの」

 俺のごまかしをすかさず指摘する安達と加賀見。もういいじゃん俺の誕生日のことはさ。

「私も黒山君の誕生日知りたい」

 春野が何故か興味津々に催促してくる。普段色んな嘘を信じてしまうコイツも家訓云々には騙されなかったか。


 正直言って誕生日については答えたくない。

 言えばコイツらは確実にその日に何か余計な催しを企てて俺の方に持ってくるのが目に見えているから。

 誕生日プレゼントに「俺が一人で過ごせる時間」を求めても加賀見は100%無視して俺の時間を削りに来るだろう。それがわかってるのにわざわざ話したくない。

 何とかごまかせないかと思っていると、

「ね、厚かましいお願いなんだけどさ」

「どうしたの、ミユ」


「皆の誕生日の情報も私への誕生日プレゼントってことにできないかな?」


 安達、お前本当に面の皮が厚いな。お前への誕生日プレゼントにポーチをあげたのにまだ欲張るのか。

「うん、勿論」

「大丈夫だよ」

「って言っても私達はもう話しちゃったけどね」

 他の女子三人がそれぞれ安達に話しかけた後、改めて俺の方へ向き直った。

 本日の主役である安達のお願いを立てる形にして俺が断りづらい流れにしているのは明白だった。ああもう。これ以上ごねると加賀見がとんでもないことをしてきそうだ。

「……4月14日生まれだ」

 俺はやむなく誕生日を白状する。

「え、私と1日違いだ!」

 春野が驚いている。そりゃそうか。

「へー、こんな偶然もあるんだね」

「なら二人の誕生日祝いのときは一緒にやっちゃう?」

「えー、そんな私のために悪いよ」

「ああ、俺もそんな皆の負担になるようなことは忍びない」

「リン、遠慮しないで。私達が祝いたいだけだから」

「そーだよリンちゃん」

「凛華、皆の厚意に甘えよーよ」

 あの、俺のことは無視ですか。



 ああ、俺の誕生日は普段以上に騒がしくなることはもう決まりなのか。

 いや待てよ、俺の誕生日を迎える前にコイツらと疎遠になればいいだけじゃないか。

 ……今までそれを何度か試みて失敗したが、成功したらもう色々とわずらわしい思いをしなくて済むのだ。

 今度こそはコイツらと首尾よく縁の切れる方法をと俺は頭を回転させたが、今日はいいアイデアが思い浮かばなかった。

 でも、いつかは。


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