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第133話 一人目の間違い

 加賀見による新ルールを改めて理解した俺は女子達の会話の方にも注意を払いつつ、女子達の間違いを探すことにした。

 これがまあとにかくキツい。

 加賀見がいつも以上に俺へ話を振ってくるのである。「アンタならやったことあるんじゃない?」とか「これアンタはどう思う?」等の台詞を1分に1度くらいのペースでほざくのである。正直間違い探しどころではない。

 他の女子達もこのゲームを楽しんでいるらしく、会話の方は途切れないようにしつつも加賀見の言動については何ら止めることがない。


 それでも何とか女子達の観察を続けるが、何か全然見つからない。

 加賀見は想定していたが、安達も春野も日高も難しい間違いを用意してきたのかまだ女子一人分の間違いも見つけられずにいる。少なくとも以前春野が腕にしてきたようなブレスレットのようにわかりやすいポイントは見当たらなかった。

 探し物をしているときに自分では全く見つけられず他人に訊いてみると何でもない場所に置いてあることがわかる、なんてことがしょっちゅうある。自分は今、それに近い状況にあるのかもしれない。知らない内に心に焦りが生まれてついつい視野が狭くなっているのか。

 だとしたらそれも当然だと我ながら思う。今回は見つけられなければ加賀見からの罰ゲームを受けることになっている。そして普通の探し物と違い他の人達に尋ねることもできない。焦らない方がおかしいのだ。


 ああダメだ、一旦落ち着こう。まずは深呼吸。教室中の空気を全て取り込まんばかりの勢いで息を吸い、これまた教室に大きな風をもたらすぐらいの勢いで息を吐く。数回繰り返す内に考えが切り替わった気がした。単純だな俺。

「アンタ、突然どうしたの」

「全く間違いが見つけられないもんでな。気分転換だ」

「へー、頑張ってね」

「どーも」

 ニヤけた加賀見が心にもない応援を送るのをいなし、間違い探しを再開する。

 加賀見の分は後回しだ。どうせ最難関になるのは目に見えている。

 この業間休みで二人分、どんなに少なくとも一人分は見つけるつもりで集中する。

 さっきは四人全員を一々見渡していたものの、ターゲットを定めて一人に絞った方がいいかもしれない。

 俺はさしあたり安達に目を付け、奴の普段と違う箇所を徹底的に探した。

「ねえ、黒山君、そんな見られると少し気になるんだけど……」

「いやお前、今間違い探しの最中って知ってるだろ」

「それはそうなんだけどもう少し加減というか……」

「アンタ何ミユを困らせてんのさ」

「そういうゲームなんだから仕方ないだろ」

 安達と加賀見が苦言を呈するが無視だ、無視。

 そんな見られるのが嫌なら最初から見てすぐわかるような簡単な間違い用意してくれよ、お願いだから。


 そんなこんなでようやく安達の間違いを発見した。

「安達、そのヘアピンはどうした?」

 安達の髪にヘアピンが留まっていたのだ。

 大きさはさほどではない上に色合いも絶妙に安達の髪の色に近いものだった。

 その上で安達の髪が覆い被さってほぼ姿を隠している格好だったので、なかなか気付かなかった。やるな安達。

「はー、やっと気付いたの」

 安達が少し疲れた様子で反応する。春野は「おめでとー」と俺へ軽くパチパチと手を叩く。

「こっちはすぐ気付いたんだけどね」

「うん、私も結構初めの方で」

「こんなに時間が掛かるなんて情けない」

 どうやら女子達も各々の間違いは事前に把握していないようだ。だが安達の間違いはすぐ見つかったらしい。

「コイツの茶々がなきゃ俺もすぐに気付いたと思うが」

 加賀見を人差し指で差す。一般的には失礼なマナーらしいがそんなの知るか。

「えー、アンタの意見も参考にしたいから訊いただけなのに……」

 しょんぼりと落ち込んだかのような演技を見せる加賀見。何かもういい加減にしてほしい。


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