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第134話 二人目、三人目の間違い

 演技中の加賀見はほっといてすぐさま間違い探しを再開した。

 チャンスは業間休みと昼休みの計二回。そのときに全員分見つけられなければゲームオーバーだ。

 しかし何とか安達の分の間違いは見つけられた。この調子で残り三人もクリアする。すると言ったらする。しなければこっちがヤバい。


 安達の次は春野をロックオンした。

 今回はコイツも手加減する気はないらしい。例によってどこに間違いがあるのかサッパリわからない。

 春野のことだから例のブレスレットを装着するのでは、という希望は最初の辺りで打ち砕かれている。

「あ、あはは、何か恥ずかしいね」

 春野のことを徹底して観察し続ける俺に対し、春野がそう感想を漏らした。

 だらりとぶら下げた左腕の真ん中辺りを右手で掴んでいる。その姿が何だか自分の身を守っているように見えた。

「嫌ならさっさと普段と違う点を自己申告してくれ。それでお前は解放される」

「えっと、別に嫌ってわけじゃないんだけど。あと解放って……」

「あるいは答えを教えて俺をこのゲームから解放してくれ」

「それさっきと頼んでること変わってないよ」

「黒山、答えを本人から聞いたら反則負けにするから」

 加賀見が釘を刺す。チクショウ、やっぱダメか。


 春野の間違いに気付けたのは業間休みが終わりに近づいた頃だった。

「春野、名札の位置左右逆だぞ」

 場所は春野のブレザーだった。

 この高校では冬期の場合、ブレザーの胸元に名札を付ける。

 ブレザーの右側か左側かは特に規定がなく、生徒によって区々だ。

 春野の場合は普段右側に名札を付けていたのだが、今日は反対の左側に名札が見えていた。

「おースゴい!」

 春野が笑顔でまたもや拍手を送る。

「あ、ホントだ」

「私気付かなかった」

「あー、これ確かにわかりにくいかもね」

 加賀見・安達は意外という表情。

 日高はやはり幼馴染ゆえか既に気付いていた模様。俺もコイツらの幼馴染ならもっと早くに気付けたのか。いや、春野という主人公然とした人物の幼馴染とか厄介すぎる。変な想像はやめよう。


「はーい業間休みがそろそろ終わるからここまでー」

 加賀見がそう呼び掛けて業間休みのゲームは終了した。よし、何とか業間のノルマはクリアした。



 そして後半戦。昼休みでの間違い探しが始まった。

 三人目は日高に絞るが、間違いらしき箇所がやはり見つからない。何だコレ、頭おかしくなりそう。

「……うん、確かにこれは気になるね」

 日高が凝視している俺の方を見てそう言う。ゲームの一環だから気にすんな。


 日高の観察を続ける内に一つ気付いた。

 そう言えば日高、業間のときも今もずっとスマホを持ってるな。

 日高がこの女子達と会話をする際、合間合間でスマホを時折いじるのは知っているが、いじりもせず会話中ずっとスマホを持ってる姿は見たことがない。

 まさかと思い日高のスマホの方に注目する。

「日高、お前スマホにそんなアクセサリー付けてたか?」

 そして、当てずっぽうでものを言ってみた。

「正解。よくわかったね」

 日高がニヤリと微笑んでスマホを口元に持ってくる。カッコつけのつもりか。

「自信薄だったけどな。ずっとスマホ持ってたのが気になった」

 そう、日高の普段のスマホのコーデについてはあんまり詳しくない。

 日高の行動に違和感を覚えてそれをヒントにしただけだ。

 振り返ると日高の出した間違いは安達・春野よりも簡単だったかもしれない。

「皐月普段スマホにアクセしないからねー」

 ほう、そうだったのか。文化祭のときに見た日高の趣味にちなんだのでも付けてるかと思ったんだが。

 あと案の定というか、春野は日高の出した間違いにとっくに気付いていたようだ。こういうとき幼馴染って便利なんだな。


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