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第135話 四人目の間違い

 これで残りは加賀見のみとなった。

 加賀見が王者のごとく堂々と、そして挑発的な笑みを俺に見せつける。

「後は私一人だね。応援してるよ♪」

「ぬかせ」

 ここまで来たら何としてもクリアしてやるさ。


 そんなわけで加賀見の方をじーっと観察する。

 奴の方を髪、頭、顔、手、制服と隅から隅まで見渡すが何も間違いらしい間違いが見つからない。

 どうでもいいが奴は俺の視線を受けてもどこ吹く風かとばかりに動じず、女子達との会話を楽しんでいた。そして勿論

「ねえ、アンタは何かないの?」

 などと俺へ話を振るという妨害も健在だった。

 発案した張本人(かつ俺を罰ゲームに陥れようとしている)だけあってさすがに難しく、全く間違いらしい違和感が見当たらない。このブレのなさにはつくづく恐れ入る。


 こうなったら日高と同じく当てずっぽうで。

「お前髪切ったんじゃないか?」

「違う」

「コンタクトレンズしてるよな?」

「ハズレ」

「心なしか爪いつもより長くないか?」

「……次外したら問答無用で罰ゲームだから」

 なんてやってたら状況は悪化しちゃいました。反省。


 しかし本当にマズい。どんどん時間だけが過ぎていく上に加賀見からのフリも相変わらず激しい。

 何とか適切に受け答えしつつ加賀見の方をじっと見ているとある違和感に気付いた。

 加賀見が業間休みと同じ位置、姿勢でいることだ。


 女子四人がこの教室に集まる際の定位置は特になく、いつもざっくばらんに着いて話をする。

 だが今日の加賀見は業間休みと昼休みで全く位置取りが一緒なのだ。安達・春野・日高は勿論位置が変わっている。

 そして加賀見のいる位置だとその手前の机のせいで、加賀見の腰より下の部分が俺にとって死角となる。

 まさか、と思い俺は席を立って加賀見の反対方向が見える位置に移動するとようやく見つけた。


「……加賀見、靴下にそんなんあったか」


 加賀見の右足に履いている靴下の後ろの方。

 そこにビーズみたいなものが1個だけ刺繍されていた。

 安達のときと同じく、保護色のように靴下に紛れる色合いだった。

「あーあ、やっと見つけたか」

 加賀見が呆れたような返事をする。

「え? ……あー、ホントだ!」

「うわー、全然気付かなかった」

「これ位置的にも見つけづらいね」

 女子三人も気付かなった模様。確かにこれは加賀見の後ろに回り込んで足元をよく見ないと見つけられない。そんな絶妙な位置にある。


「……お前、このゲームのためだけに靴下にわざわざこんな仕込みを?」

「そうだけど?」

 つくづく俺を陥れることには余念がないなこの悪魔。



 黒山君・マユちゃん・リンちゃん・サッちゃんと間違い探しのゲームをやった日の放課後。

 いつもはマユちゃん・リンちゃん・サッちゃんと一緒に下校しているのだが、今日はリンちゃん・サッちゃんが用事ありとのことでマユちゃんと二人きりで帰り道を歩いていた。

 そこで話題に上るのは、当然今日のゲームのこと。

「間違いの方さ、皆結構考えて出してたよね。適当じゃないっていうか」

「それはミユも同じ」

「あれ、そう?」

 私のヘアピンはそんなに難しくなかったと思うけど。

「そんでゲームの後にちょっと思ったんだけど」

「何?」

「あの『制裁』はちょっとやりすぎなんじゃないかなーって」

「そう? アイツを直接殴ったり蹴ったりしてないんだけど」

「それでも、だよ」

 マユちゃんが一頃やっていた制裁。

 それをゲーム中で再びやるというメッセージを受けたときは深く考えなかったし、実際に目の当たりにしたときも(ヒドい話かもしれないけど)私にはいつもの光景の一つに見えていた。

 ゲームが終わった後一人でゲームを振り返ったときにやっと事態の異常さを感じ、抑えた方がいいように思ったのだ。私も感覚が大分麻痺しているのかもしれない。

「……ミユがそう言うなら」

 マユちゃんが呟くぐらいの声で答えた。あ、この表情はあんまり納得いってないな。

 でもマユちゃんがこう答えるときはちゃんと守ることが多いんだよね。


 それにしても、リンちゃんは何で今回の制裁を止めなかったんだろう。

 以前の制裁のときはリンちゃんが止めて、それをきっかけにマユちゃんは今日までそれをしなかったのに。


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