「え? クリスマスは先約がある?」
「はい……」
放課後の空き教室で奄美先輩にクリスマスの件を尋ねられたので答えたときのやり取り。
「恋人とクリスマスデートか何か?」
先輩。俺は恋人いませんよ。
「いえ。今日の業間休みのときに、加賀見達に遊びに付き合うよう言われまして」
「ああなるほど」
どうも奄美先輩はクリスマスの日に榊と距離を縮められないかヤキモキしているようである。
「榊君と二人きりじゃなくてもいいから、とにかく交流したいのよね」
「はあ」
そんなわけで俺にクリスマスの日も文化祭のときのように手伝ってほしいらしい。どうあっても俺のクリスマスは予定が埋まる運命だったらしい。
「まあでもしょうがない。当日は私一人で何とかするわ」
俺の予定を知った奄美先輩はそう言い、
「だからクリスマスの日に榊君と接するのにいい方法を一緒に考えてくれない?」
俺に企画面での協力を求めてきた。
「それはいいんですけど、同じようなことを目論むライバルは他にもいるでしょうね」
「そうよね……」
文化祭のときもその特別なイベントを利用して奄美先輩は王子と縁を持とうとしていた。
しかし奄美先輩よりも先に王子へアプローチを掛けてきたと思しき女子が出現し、その作戦はお流れになったのだった。
現在王子がどこかの女子と交際を始めたという噂は聞こえてこない。
教室の中でも特定の女子と特に親密に接している様子がないことから王子はフリーという予測を先日奄美先輩と俺は立てている。
無論楽観的な予測であり王子とどこかの女子、例えば文化祭で話しかけられた件の女子が秘密裡に付き合っている可能性も捨て切れないが、それについてはそうと確定した段階でまた別の方針を考えると奄美先輩は結論付けた。いやそうなったらもう王子のことそれ諦めた方がいいでしょ。もしくは諦めるって言葉をハッキリと口にしたくないだけか?
ともあれ相手は先輩ながら、これだけは言っておきたい。
「なので予め申しますが、他の女子が榊にアプローチしてきても引っ込むようなことはやめましょう」
文化祭のときのようなマネはするなと念を押しておく。
本人にやる気をなくされたら今回のクリスマスでいくら策を練っても全てがムダになるのだ。
「わ、わかったわ」
奄美先輩がそう応えつつも、目が俺ではなくよその方へ逸れていた。
文化祭のことを思い出して気まずさを感じているのだろうか。その姿を見ていると少し不安になってくるが、一方でちゃんと反省もしてるんだなと察した。
クリスマスの話に触れない現代日本舞台のラブコメって果たしてあるんだろうか。
そう言ってもいいぐらいには定着したイベントがクリスマスだと個人的に思う。
既に成立した主人公のカップルがより親密になるようなイチャイチャ展開もあれば、恋人にもなってないのに何故か恋人同士がやるようなイチャイチャぶりを繰り広げる展開も散々創作の世界で見てきたが、今現在の俺は奄美先輩と王子にそういう展開をもたらさなければならない。
ここで決めてくれれば俺もようやく奄美先輩から解放されるわけだが、またいつものように失敗するオチしか見えないのは何でだろう。最近あまりにうまくいかないことが積み重なって色々ネガティブになってるんだろうか。
いやいやそんなことない。王子だって年頃の男の子だ。いくら爽やかなイケメンでもクリスマスに女子と二人で過ごしたいみたいな年頃な欲求を潜在的に持ってるはず。
クリスマス当日に奄美先輩から言い寄られたらその気になって晴れて結ばれるという展開もあるだろう、とポジティブに考えよう。うん。