奄美先輩との打合せは結局うまくいかなかった。
「サンタに扮装して榊に近づくのはどうでしょう」
「何が『どうでしょう』よ」
「あるいは逆にトナカイの扮装とか」
「何の逆よ」
こんな調子で数日ぐらいあーでもないこーでもないと互いにアイデアを出し合うが、今一つ有効なものが出なかったのだ。
そんな日々を過ごしていた二学期の終業式の一日前のこと。
今日も加賀見・春野・日高が一年二組の教室へ集まって安達とワイワイ話に興じていた。
その中には当然のようにクリスマスで何をするかという話も入っていた。
俺はその話を聞いて憂鬱になっていた。
ただでさえクリスマスには奄美先輩と王子が結ばれるのにどうするか頭を働かせているところへ、同じ日にコイツらの相手もしなければならないのだ。
前者の方は当日になったら当事者達のみで頑張ってもらうとしても、俺の苦労が綺麗サッパリなくなるわけではない。そう思うと休日だというのに休まる気がしなかった。
事態が変わったのはそんなことを考えていたときだった。
「はーい、ちょっと皆いい?」
教室中に響く声でそう呼び掛けたのは王子のいるグループの一員だった。
名前は未だによく憶えていないが、王子と一緒にいることの多いクラスメイトの女子だ。
王子の女子人気が薄れていたときも勝手知ったる調子で会話していたことから、王子の幼馴染なんじゃないかと推測している。本人らに確かめてないから推測の域は出ないけど。
そんな彼女が衆目を集めて放ったのが次の言葉。
「クリスマスの日にパーティーやろうと思ってるんだけど、参加したい人いるー?」
……これは、一学期のときの打ち上げの再来か。
またしてもクラスの皆を集める体でこの教室に
発案者は、まあ王子だよな。
前にそれで一度失敗してるのに、よくやるな。
前回はダメでも今回は成功するかもしれないみたいな負けの込んだギャンブラー的発想にでも至ったのだろうか。
「あー、春野さん、あなたも一緒にどう? 参加してくれると嬉しいんだけど」
呼び掛けた女子が丁寧なことに春野を指名してきた。
この人も王子のためによくそこまで協力する気になるなと感心させられる。
長く縁のある友人のお願いということで仕方なく付き合ってるのかもしれないが、自分がもし同じような方法で男からアプローチをしつこく掛けられたときに果たして納得するのだろうか。
もしくはしょーもない考えだが、王子に対して惚れた弱みでも持っているのか?
いや、だとしたら今やってる行動があまりにも不毛だ。
意中の相手が別の異性を口説くのは止めないまでも、自身がそんなことに一枚噛むなんて到底考えられない。
さて、春野はニコニコと愛想笑顔を保ったものだが、日高・安達・加賀見はハッキリわかるぐらいに表情を曇らせていた。
特に日高の王子に対する睨みの強さは初めて見るレベルだった。
王子は日高の幼馴染にして親友である春野に対して大観衆の中の一大告白という非常識な行為をやらかし、そのため春野は暫く噂の的にされた。ときには王子から好意を寄せられることへの嫉妬を受けることさえあった。日高にしてみれば王子は親友の仇敵と認識していても何らおかしくはない。
「あー、ゴメンね。クリスマスの日は先約あるんだー」
春野は努めて明るく、場の空気を壊さないような調子で丁重に断った。
「えー、それってデート?」
だが例の女子の言葉を受けて教室の空気が一気に変わったのを肌に感じた。オイオイ。
「んーん、友達と遊んでいく予定なんだー」
春野の声は何とも穏やかだったが、絶対に連中とは一緒に過ごさないという意向が見て取れた。俺の思い込みかな?