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第139話 邪魔はできない

 春野が王子達のグループの誘いを断った後、他のクラスメイトは続々と参加を表明していた。

 参加を望む人達が次から次へと彼らの元へ集まっていき、その人数はクラスの半分を優に占めていた。


 実に盛況なことだと他人事の気分で眺めていた。

 あのグループの中心である王子も一学期に比べれば人気は落ちていると思っていたが、その友人が一声掛けるだけで続々と参加してくる。

 王子達の一団を見て一つ閃いた俺は席から立ち上がって彼らの元へ歩いていった。


「え、アンタどこ行くの」

 加賀見がそう呼び止めるのも構わず俺は王子達の方へ行く。

「あー、俺も参加したいけどいいか?」

 そう王子達のグループの一人に話しかける。

「うん、勿論」

 彼女は快諾し、参加者として俺の名前をメモしていった。お手数掛けてすみません。あとまだ名前を憶えてなくてすみません、クラスメイトさん。


 用事を済ませた俺は女子四人が近くにいる自分の席へと戻った。

 女子四人の距離からは俺と王子達の会話は聞こえるまい。それでも俺が向こうの打ち上げに参加することはさすがに察したようで、無言のままに俺をじっと見ていた。

「……アンタ、何のつもり?」

「私達と遊ぶって約束じゃなかったの?」

 加賀見と安達が追及してくる。

 日高は俺へ何か言ってくることはなかったが、腕を組んでただ俺を見ていた。

 春野はいつも顔に浮かべていた笑顔を消し、事態に理解が追いつかないような様子を見せた。

 そんな春野に対し、約束を反故にした罪悪感が全くないと言えば嘘になる。なるが、偶には俺のやりたいようにやらせてもらえないと身が持たない。

 加賀見と安達の発言を無視し、俺はスマホのメッセージの通話機能を立ち上げた。


「……ああ奄美先輩、こんにちは」

「⁉」

 加賀見の目がいつもの半目から一気に全開になった。おお、驚いてくれたか。そのツラを拝むのがとても愉快だよ。

『どうしたの、黒山君?』

「実は榊達がクリスマスパーティーを開く予定らしくって。先輩も一緒にご参加頂くのはどうかと思い」

『へ……?』

 奄美先輩からすれば寝耳に水なのだろう。明らかな困惑が声に滲んでいた。

『それって私も参加していいものなの?』

「榊達曰く他クラスの人間も参加していいって話ですから、先輩が出ても支障ないと思いますよ」

『……ならお願いするわ』

「わかりました。榊達には俺から伝えておきます」

『ええ、ありがとう』

 俺は奄美先輩との通話を終了し、そして女子四人に頭を下げた。

「スマン。奄美先輩に協力できると思って榊達のパーティーに参加させてもらった」

「……アンタ」

 加賀見は更なる追及をすることなく俺を睨んでいた。


 そりゃ加賀見の立場からすれば奄美先輩の邪魔はできないよな。

 奄美先輩が王子と結ばれようとしている件に関して加賀見と春野はかつて協力していた立場であり、その後俺が奄美先輩に協力を続けることの保障を自ら申し出ていた。

 そういう経緯があって俺は今に至るまで奄美先輩の元へ訪ねては彼女と王子が結ばれるための方策を議論する日々を送っていた。

 俺の今やったことは奄美先輩への作戦協力の一環であり、その事情を加賀見や春野に示した以上奴らが俺の行動を止める筋合いはどこにもない。

 懸念らしい懸念といえば、打ち上げに参加してもクリスマスに他の人と過ごす状況は変わらないということぐらいだが問題ない。

 一学期の打ち上げのときを振り返るに、女子四人や奄美先輩以外で俺へ話しかける生徒は出てこないだろう。

 奄美先輩にしても王子へのアプローチが中心になる分、俺へ構う機会は激減する。せいぜい折を見て当日の作戦会議を店の裏で軽く行う程度だ。


 やってくることに気が滅入っていたクリスマス当日が俄然楽しみなものになってきた。


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