クリスマス当日、とうに暗い中を電灯できらびやかに照らしている街中を歩き俺はパーティーの開催場所であるファミレスに向かっている。
打ち上げの参加が終わった後、王子達はメッセージにて専用のグループチャットを立ち上げ、そこに参加者と思しき面子を招待していた。その数は正確に憶えてないが50人はいたような。1クラス超えちゃったよ。
王子達がこのファミレスにて参加者数分の席を予約したので当日はそのファミレス前で現地集合、とグループチャットから連絡があってここに至るわけだ。
一学期の打ち上げもファミレスでやったものの今回はそこより広めの店だった。人数が前回より増えたことへの配慮だな。
開催時刻ギリギリに来たところ、既に俺と同じ学校の生徒らしき奴らが多く集まり、ワイワイ騒いでいた。
打ち上げを呼び掛けたのはクリスマスも近い時期だったというのによくこれだけの人数の席予約ができたものだと感心する。この強運っぷりもある意味主人公じみて見える。王子が本当にこの世界の主人公かは知らん。
「あ、黒山君」
奄美先輩は他の女子と話していたが、俺を発見すると声を掛けてきた。
「こんばんは先輩」
俺は奄美先輩とそのお友達に挨拶をする。どうやら二年の先輩も何人か参加しているらしい。奄美先輩が誘ったのかな。周りは一年ばかりなのに二年が一人だけって寂しいもんね。
「ゴメン、ちょっと彼に用事があるから」
奄美先輩は先程まで話していた女子達にそう言って、俺の方に寄って来た。
その奄美先輩だが、今日の格好はやけに気合が入っているように思えた。
見るからにもこもことしたニットを濃い目のベージュで塗ったカーディガン。
折り目や白い水玉がこまごまとついた黒地で、丈が靴に接しそうなぐらい長いスカート。
肩に下げているバッグも相俟って、どこか大人びた雰囲気の奄美先輩が立っていた。
他のライバルに勝って王子と仲良くしようとしているだけあって、見た目だけでも負けじと意気込んでいるのだろう。俺にとってはありがたい話だ。
でも一ついいですか。
「俺としては御友人と水入らずでお話ししててもよかったのですが」
一々俺と打合せをすることもないでしょう。俺の仕事は奄美先輩をこの打ち上げに誘うことで終わったような認識でいるのですよ。
「そういうわけにいかないでしょ。榊君との件どうするのよ」
どうすると言われても。
「それはもう、自分から積極的にお話しあるのみかと」
「それだけ? 彼が好きなものとか興味あるものとか話題になりそうな事柄は知らないの?」
「……すみません、自分の力が及ばず」
「知らないのね……」
地面を見るかのように俯く奄美先輩。わかりやすく失望してるなあ。
「ここまで来たら下手な小細工抜きにして、とにかく榊へ接した方がうまくいくんじゃないでしょうか」
率直な意見を奄美先輩に申し上げる俺。正直策なんて何一つ考えてこなかったのだから、これで押し通すしかない。ゴリ押しって大事。
「……もしものときはフォローしてね」
「はい」
わかりました。遠くの席からこっそり見守ってます。
ちなみに奄美先輩の御友人と見られる方々にチラリと目を向けると、俺達の方を見て少々盛り上がってるように見えた。
あれ、何か妙なことになってないか? 奄美先輩がこれから王子にアプローチを仕掛けようというのに、周囲から俺達の関係を変に誤解されるのは勘弁願いたいのですが。