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第141話 今日はここで

 先輩との打合せが終わると間もなく打ち上げ開始の時間を迎え、参加者全員がファミレスに入って各々着席する。

 奄美先輩と友人方はちゃっかり王子達の近くへ座る。

 俺は奄美先輩とは違う、しかし先輩の様子を伺える位置に着いた。



 注文した料理がやって来て、本格的に各々の話が始まった。

 俺は前回と同じく料理を適当につまみ、持ってきたラノベを読みながら、奄美先輩と王子のやり取りを見守っていた。やはりと言うべきか俺に話しかける人は周囲にいなかった。

 結構な距離があるため奄美先輩と王子との会話はよく聞こえない。よく聞こえないが見てみると奄美先輩は周りの人達が作った流れに乗りつつ、王子と接しているようだった。

 しかし案の定というか王子とお喋りしている女子は他にも数人いた。

 彼女らは王子にこだわっていない体で、あくまでもたまたま同席した中で王子のみならず周りの人達との会話を楽しんでいるように見える。

 俺からすれば数あるテーブルの中でわざわざ王子のいる席を選んでいる時点で王子狙いなんじゃないかと思えてしまう。全員とは言わないが、割合としては間違いなく多いと見ている。


 ……奄美先輩や王子のいるあのテーブルがどことなく修羅場に見えてきた。どうしよう、巻き込まれたくない。

 普段なら王子達に対して存在を認知されてない俺がそんな心配をする必要は微塵もないのだが、今回は奄美先輩があのテーブルにいるのだ。いるだけでなくどんどん王子と積極的に話してもいるのだ。

 王子のライバルの女子達に変に絡まれることがなければと思うが、しかし女子達だって王子を前に妙な事件を起こしたくはないだろう。

 それに何だかんだ言って王子達のグループとのお喋りを楽しんでいるようだ。

 奄美先輩の表情や仕草からしても、そうなっているのは明白だった。


 奄美先輩と王子がまともに会話するのはあの告白の日以来と思われる。

 それで今日がこの調子であれば結果は上々と言えそうだ。

 これから出会いを重ねて距離を日進月歩でも縮めていけば今後どういう関係に発展していく可能性も見込めるんじゃなかろうか。



 パーティー中、もうこれ以上のフォローは要らないなと思った俺は奄美先輩にメッセージを送った。

「今日はここで失礼します」

 奄美先輩がスマホを見た後、俺のいる方角へ目をやったのがわかった。

 そして奄美先輩が自分の座っている席を離れるのが見えた。あれ、化粧室に行くのかな?

 と、俺の方に新しいメッセージが届く。

「ちょっと御手洗の近くまで来て」

 奄美先輩からの呼び出しだった。あれ、カツアゲされちゃうのかな、俺。


「どうしましたか、先輩」

 御手洗の近くには奄美先輩が待機していた。

「どうしたの、突然帰るなんて」

「いや、今日は奄美先輩へのフォローも必要ないかと思いまして」

「え?」

「だって先輩、傍から見てもすごく榊と楽しそうに見えましたよ」

「……そう見えた?」

「はい」

 と頷いたものの、その確認に引っかかりを覚えた。

 あれ、楽しくなかったんですか? そう訊くのは先輩相手に躊躇われる。

 次の言葉を頭の中で選んでいるとやがて奄美先輩が

「……なら、大丈夫かもね。今日はありがとう」

 俺が帰るのを承認してくれた。

「最後に一つ、いい?」

「はい」

「あなたは、今日の打ち上げ楽しかった?」

 え、俺のこと? てっきり王子の件で確認したいことでもあるのかと。

「まあ、結構自由に過ごせたんで」

 とりあえず素直に思ったことを述べておいた。


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