目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第142話 私達のことを

 ファミレスを出た後はとても清々しい気分だった。


 王子達が呼び掛けたクリスマスパーティーについて女子四人から離れるのに利用できると考えた。

 春野をはじめとした彼女らが王子を嫌っている以上、クリスマスパーティーに参加することはないと踏んでいた。

 しかし女子四人とは不本意ながらも既にクリスマスで遊ぶ約束を交わしてしまっていた。

 そこで奄美先輩の協力をするという名目を使った。

 そうすれば女子四人、とりわけ加賀見は俺の行動を制することが難しくなるから。

 そして頃合いを見計らってパーティーを抜け、後は一人の時間を満喫する。

 以上が俺のクリスマスにおいて描いた筋書きだった。


 正直言うと本当に自分の思い描いた通りに事が運ぶかは大変不安だった。

 加賀見が何かしらの妨害をしてくるのではという懸念はどうしても拭えなかった。

 しかしいざ当日を迎えてみれば結果は理想というべきものだった。

 加賀見をはじめとした女子四人から何一つ干渉されることなく、パーティー中も奄美先輩以外は俺に構うことなく多少の喧噪の中とはいえゆっくりと本を読むことができた。

 痛快。ただ痛快だった。


 後は家に帰って終わりと思うと、無意識の内に歩みが速くなる。

 結果、行くときよりも早い時間にファミレスから最寄り駅へ着いた。電車の来る時間はもうすぐだ。

 電車に間に合うようにさっさと改札口へと向かっていると、誰かが服の背中の部分を掴む感覚がした。

 ん? 誰だ?

 疑問を浮かべながら振り向くとそこにはよーく見慣れた人物がいた。


「メリークリスマス、黒山」


 聖なる夜に全く似つかわしくない悪魔こと加賀見であった。

 その場にいた顔見知りは加賀見だけではなかった。

 加賀見の後ろを見てみると少し離れたところに安達・春野・日高が俺と加賀見の方をじっと見ていたのだ。

 三者三様に俺を睨んでいるような気がした。


 何でここにコイツらが、と思っていると

「何でここに、て言わんばかりだね」

 加賀見がニンマリ笑顔を浮かべて言い放った。コイツはホントにエスパーじゃなかろうか。それとも俺がホントにわかりやす過ぎるのだろうか。

「アンタのことだから、最後まであのパーティーに参加しないで必ず途中退席すると思ってたんだ」

「いやお前ら、参加もしてないのに日時や場所はどうやって」

「え? リンや皐月がお友達に訊いてくれたんだよ。他クラスからも参加OKならその子らが入っててもおかしくないじゃん」

 ああそうか。ミユマユとは違って春野と日高は顔広いもんな。情報を掴むのは容易たやすいか。

「……で、その開催場所に一番近い駅で待ち伏せてたと」

「自信はそこまでなかったけどね。アンタがいつ抜けるかもわかんなかったし」

 加賀見が俺の服を掴んだまま安達・春野・日高の方を振り向く。

「だから私一人だけで待つつもりだったんだけど、リンも皐月もミユもそれなら私もって言ってくれて皆で待つことにしたんだ。いやー、つくづく友達に恵まれてるじゃん、アンタ」

 加賀見がここで俺の服を一気に引っ張った。姿勢を崩した俺の頭へ加賀見が自分の顔を寄せる。


「私達のことを簡単に引き離せると思うなよ」


 とても小さな声だった。

 最も近くにいた俺も注意しなければ聞き落としてしまいそうな程に。

 当然安達にも春野にも日高にも聞こえなかっただろう。加賀見が呟いたことにすら気付かなかったことと思う。

 加賀見はその後俺の姿勢を戻すように、引っ張ったのとは逆方向へ俺を軽く掌で突いてきた。

 俺は突っ立ったまま、たった今もたらされた言葉に対してゾッとするしかなかった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?